108.進みきらぬ関係
その日の夜。
やはり疲れていたのだろう、私はすんなりと眠りに入った。
だが───
黒い霧のようなものに纏わりつかれ、体が自由に動かせず逃れることができずにもがいている夢を見た。
ねとりとした視線
嫌悪感
自分で動くことができない
抗うことができない悔しさと恐怖
引き裂かれるシャツ
「・・・ぃ・・・や・・・」
簡単には忘れることのできない感覚と記憶・・・
「・・・んん・・・・!」
「・・・大丈夫か・・・?」
大吉さんの優しい声が聞こえて、現実ではないと気づく。
大吉さんが頭まで包まっていた寝袋を少し開き額から頬へと手を滑らせられ、その感触にふわりと目を開く。
目の前の大吉さんの顔に早まった呼吸と鼓動が落ち着いていくのがわかる。
たったあれだけのことが精神に打撃を与えている・・・
「・・大吉さん・・・」
頭を撫でられ、涙も出ていたかもしれないが、くすぐったい嬉しい気持ちになる。
再び頬にきた手を無意識に自分の手で上から覆う。
胸に残っていた嫌なものがだんだんと薄くなっていくのを感じる・・・
次の日。目を覚ましたら。
大吉さんの右手を自分の左頬に押し付けたまま。
大吉さんの左手は自分の腰のあたりに巻きついている状態なことに気づく。
大吉さんは私のうなじ部分に顔を突っ込んでいる。
ようするに。抱きしめられながら寝ていた。と。
いつの間にやら寝袋を敷布団掛け布団のようにして眠っていたようだ。
「・・・・・!!・・・」
そのまま固まってしまう。
背中に伝わる体温が気持ち良いのだけども、
絶賛動けず赤面中に。ギュウっとされ、心臓が跳ね上がる。
「ん・・・!」
カチンコチンになっているところに多分おでこを擦り付けられて、耐えられずに大吉さんの手を外して寝袋布団から転がり出て座る。
「・・・あ・・おはよう藍華・・・」
ふあぁああ、とあくびと伸びをしながら起き上がる大吉さん。
「・・・おはようございます・・」
「よく寝れたか・・・?」
まだ眠そうに目をこすりながら言う。
「はい。。」
今、心臓が激しく鼓動を打っている事を除けば。とてもスッキリ眠れた気がする。。。
「よかった」
寝起きの頭だけれど、スッキリとした感覚。ただ、昨晩の記憶が少し曖昧な気が・・・
しっかり休んで明日からまた護衛に参加してくれ、ってみんなから言われて2人して速攻寝袋に包まったのよ。
大吉さんに至ってはほぼ1日中動き回ってたから疲れも溜まってたんだよね。。きっと。
すぐに寝息が聞こえてきてそれで私も眠れたんだっ。。。た。。。?
胸のあたりがモヤっとして。思い出した。
うなされてたところ大吉さんが頭撫でてくれたんだ。。それで落ち着いて。。。
その手を離してほしくなくて。。。。
思い出すほどに茹で蛸のようになることをもう止められはしなかった。
ズリズリっと座ったままこちらにきて
「・・・俺の手で落ち着けるならいくらでも貸してやる・・・」
そう言って手を伸ばして頭を撫でる。
かおが。。。近い。。。
頭から耳、一本にしていた三つ編み、その毛先へとその手を移動していき、毛先を自分の口元に持っていく。
茹で蛸が冷えれない。
「大吉ー!藍華ー!起きてるかー?」
ガバァッとアグネスによって開かれる垂れ幕。
突然すぎて、そのまま硬直するわたしたち。
「あ、すまん。」
めちゃくちゃ申し訳なさそうに垂れ幕を閉めて去るアグネス。
「「・・・・・」」
急いで着替えて朝ごはんと警備に合流しました。
頭はスッキリしてる。
テントから出て伸びをする前に、グッタリとしている昨日捕らえた2名が目に入るが、昨日ほどの嫌な感じは湧いてはこなかった。
原因となった全てのものが憎く思えるのだろうか、とか想像したりもしていたが。。私はそうではなかったらしい。
ただ───あの男にだけは思い出したくもないし2度と会いたくもない、と・・・思う・・・
朝日を受けて隣で伸びをしている大吉さんに目を向け、隣にいる安心感を味わう。
顔洗いに湖の方へ行くことになり、テントの外へ出たものの。
髪を結い直してないことに気づき、大吉さんに先に行っていてもらうことに。
一旦テント内に戻り、ポニーテールをして、毛先を三つ編みに。
髪ゴムに擬態させているアーティファクトに、一緒にいてくれてありがとう、と思いながら毛先につける。
小走りで顔を洗いに向かうと、大吉さんとアグネスが何か話しているようだ。
「・・・しなかったと。。。?」
「あー・・・手は貸した・・・」
「貸したって・・・」
タオルに顔を埋めたまま受け答えしている大吉さんの横に来て
「どうしたですかー?隣失礼します。」
手は貸したってアレだよね、大吉さんの手を頬に押し付けたまま離さなかったから。。
アグネスは呆れ半分な雰囲気に、ニヤニヤしながら、
「藍華が大───」
タオルから顔を離しそのタオルをアグネスに投げつける大吉さん。
顔をバシャバシャと水で濡らしていたのであまりよく聞き取れなかったけれど、
「何も言うな・・・!」
「・・・だいじだって言うつもりだったんだけど・・・?」
投げつけられたタオルを投げ返しそう言った。
「は───スッキリした!」
タオルで水分をオフ!
「俺は先に行ってるな。」
「はーい!」
「ちっ・・・逃げやがって・・・」
タオルから顔を離しすとそうぼやいているアグネスがいて。
「何か用事でした??大吉さんに」
大吉さんを目で追っていると、フェイとも何か話しながら赤面してあっちいけと手を振っている。
「ぃやーな。。。昨晩は大事にしてもらったか。。。?」
突然の言葉に顔が爆発しそうなくらい熱くなる。
「え。。。な。。。!!
う・・・うなされてるところ頭撫でたり後ろからギュゥしてくれてたりしました・・・」
馬鹿正直に答えてしまう。
「んー・・・2人とも奥手なんだな。。。」
苦笑しながら、でも楽しそうに言うアグネス。




