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第9話 病弱な令嬢、ヴェルメリア

主人公ヴェルメリアは如何にして聖女となったのか、その過去とは……。

――わたくしはヴェルメリア・ゲルレム。侯爵家の末娘として産まれました。


病弱だったお母様はわたくしを産んで間もなく逝去され、わたくしもその体質を引き継いだのか、病弱でよく高熱で寝込むこともありました。


家付きの治癒魔術師(ヒーラー)からは寿命も長くないかもしれないと言われていると知り、幼心に何処か死を受け入れている自分がいました。


お父様はお兄様を跡取りとして育て上げる事に注力されていて、わたくしの事は諦めている様に感じていました。一〇歳の時にわたくしは療養という事で遠方のお祖父様の住まわれるお屋敷で暮らす事になったのです。



「おお……ヴェルメリア、久しいのう。大きくなって」


母方の祖父、レッシュガル侯爵です。


お祖父様と以前お会いしたのはもっと幼い頃だったのであまり憶えていませんでしたが、お祖父様はとても二メートル近い大きな身体で獅子のたてがみの様な白髪とお髭が怖かった印象です。


しかし、物心ついた今ならその険しいお顔がにっこりと笑顔になられているのは理解できました。


「お祖父様、お久しゅうございます……宜しくお願い致します」


わたくしはスカートの端を摘んで膝を曲げる淑女礼でお返ししましたがふらついてしまい、お祖父様に支えられました。


「ヴェルメリア! なんと細い……こんな身体で今まで頑張って来たのだな、勇敢な娘だ……」


「勇敢……なのですか?」


お祖父様は涙ぐんで頷かれました。

 

「そうだ。生まれてから今まで、一時も休まらず常に死を意識して生きて来たのだろう? 一流の騎士や戦士でもその様な者は殆どおらん、儂ですらな。だからヴェルメリアは勇敢だ」


わたくしは「可哀想」という憐れみはずっと受けて来ましたがこの様に褒められた事は一度も有りませんでした。それが驚きでそして嬉しくて、お祖父様に縋りついて泣いてしまいました。


それから数日は移動の疲れで熱を出しました。体調も取り敢えず良くなった所で、お祖父様から呼ばれます。


「ヴェルメリア、考えたのだが……身体を鍛えてみてはどうかとな」


「身体を……鍛える、ですか? そうですね、もし出来るのであれば……」


身体が強くなればこの弱い身体を克服出来るかもしれない、そう思ってお祖父様に鍛えて頂く事にしたのです……が。



「ヴェルメリアすまない、儂が思っていたよりもこんなにか弱いとは……」


鍛え始めたその日、お庭をいつもより少し大回りで散歩しただけでわたくしは熱を出して寝込んでしまいました。 


「いえ、お祖父様とのお散歩……楽しゅうございました。また……一緒に……」


わたくしは意識が遠のいて行くのを感じていました。お祖父様は枕元でわたくしの名前を呼びながら泣いておられます。



『……大いなる癒し(ラージヒール)


ふと女性の声が聞こえた気がした次の瞬間、温かなものに包まれてわたくしの身体はスッと楽になりました。


「え……あ、あの……」


身体を起こすと、枕元で涙を流す大きな身体のお祖父様の隣には長衣(ローブ)を纏った小柄な老婦人が居られました。


「まったく、私が来るのがこれ以上遅れたらどうなったと思ってるのだ、この脳筋馬鹿が!」


老婦人は持っていた長杖(スタッフ)でお爺様の頭を叩きました。


「あ、姉上……」


お祖父様は頭を摩りながら老婦人を姉上と呼ばれました。


「良かった……取り敢えず大いなる癒し(ラージヒール)が効いたようだね、ヴェルメリア」


「えっと……貴女は?」


「前に会ったのは赤子の時だから憶えてないのも無理はない。私はこいつの姉、つまりお前の大叔母だ」


小柄で身長も私より少し高いくらいですが、青灰色の髪と鋭い目つきはとても威厳があります。


「ヴェルメリアの大叔母上、クラーセナ名誉大神官だ」


「名誉大神官なんて、口うるさい私を隠居させる為に用意した役職だよ。まったく……ああ、ヴェルメリアには関係ない愚痴だよ、すまないね」


クラーセナ大叔母様はお祖父様とご姉弟なので何処か似ていて険しいお顔をされていますが、私への声色はとてもお優しいので、そういうお顔立ちなのだと理解しました。


「大叔母様、さっき私に魔法をかけて下さったのですか?」


大いなる癒し(ラージヒール)をね。暫くは楽かもしれないが根本的な原因を取り除いた訳じゃない。ちょっと診てあげようか」


大叔母様は私のベッドの脇に座りました。


「今から淑女(レディ)を診察するんだよ、殿方はとっとと出ておいき」


大叔母様がお祖父様を一瞥すると「し、失礼した」と少しおどおどしながら退室されました。私は普段の家臣の方々に接する威厳のあるお祖父様を見ていましたので、その違いに可笑しくなって笑ってしまいます。



「ふふ、弟は昔から成りが大きくて滅法腕が立ち、偉くもなったが……私にとってはいつまでも可愛い弟なんだよ」



(可愛い弟? お祖父様えらく怯えている様子ですけれど……)



「身体を診せておくれ」


私は肌着になり、ベッドに横たえると大叔母様は右手で軽くお腹に触れます。



『……身体探知(センスフィジカル)



自分の身体に何か波のようなものが広がりました。


「……これは。ヴェルメリア、お前の身体は単に虚弱なのでは無いみたいだね」


大叔母様は目を丸くして私を見つめているので、戸惑ってしまいます。


「あ、あの……大叔母様?」


「お前の身体には恐らく途轍もない魔力がある……」 


「とてつもない……魔力?」


大叔母様はそう仰いますが、私は魔法の適性は無いと言われてきました。そんな私に魔力があるなんて――。


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