第20話 聖女任命式
――マギアス様に案内されたのは、女官たちの居住区の手前にある一室だった。調度品などはない簡素だけど家具は一流の物が置かれている部屋だ。
マギアス様は私達に待つように言うと部屋には聖女候補三人だけになった。椅子とテーブルがあるので取り敢えず腰掛けて暫く沈黙。私はシリエルリカに話し掛けてみる。
「先程から顔色が優れませんが、どうされました?」
「い、いえ、大丈夫です……」
シリエルリカは俯いて座っている。元々大人しそうな娘という印象だけど、かなり不安そうだ。そこはかとなく気不味い空気の中、扉がノックされて返事をするとマギアス様が再び入ってきた。
「早速ですが、任命式は三日後と決まりました。お三方には今日よりこの大聖堂奥の院の聖女の間で過ごして頂きます」
「本当に早速ですね」
別に実家に居るのは好きじゃないので私としては願ったりだけど、着替えも何も持ってきて無いなと思い出す。
「はい、御準備はなされていないとお見受けしますので、それぞれの御家にはお伝えしています。本日中には皆様のお荷物が届くでしょう」
「お気遣い、有難うございます。マギアス神官長様」
ミーナセインはマギアス様を神官長と呼んだ。この前まで副神官長だったと思ったけど。
「マギアス様、神官長になられたのですか?」
私は単刀直入に聞いた。
「……はい。前任の方が退任されましたので私が拝命しました。聖女の皆様は何かありましたら私に遠慮なく仰って下さい」
(マギアス様まだ二〇そこそこで神官長か……前任の人はこの前の件で何かあったのかしら?)
まあ、大聖堂の内部人事とか別に興味無いから別にいいけれど。
「お三方にはそれぞれ個室を用意させていますので、もう暫くここでお待ち下さい。何かありましたら扉の外に女官が控えております」
そういうとマギアス様は退室していった。
「ふう、まあ実家に帰らなくていいのは良いけど、いつまでも正装は肩が凝りません? 早く着替えが届くといいけれど」
私はこれから共に暮す事になる二人と打ち解けようと少し砕けた態度を取ってみた。私は椅子に腰掛けて肘をついて溜息をついた。その様子にミーナセインもシリエルリカも面を食らった様に目を丸くしている。
「……ヴェルメリアさん?」
ミーナセインは怪訝そうに私を見つめる。
「あ、ごめんね。生まれは帝都だけど、田舎育ちで普段はこんな口調なのよね」
「そ、そう……なのですね」
ミーナセインは顔を引きつらせて苦笑いしている。シリエルリカは口を開けて驚きながら私をじっと見つめていた。
「え……っと、シリエルリカさん?」
「ヴェルメリアさん、凄い!」
「は?」
「私そんな風に平民の様に砕けた口調のご令嬢初めてお会いしました、格好いいです!」
下品だと引かれる事はよくあるけれど、こういう反応は初めてだったので私の方が驚いてしまった。
「そ、そう?」
「はい、私にはとてもではありませんが出来ませんので……尊敬します!」
(それって貴族流の遠回し嫌味じゃないよね?)
この娘はそういう事はしなさそうな印象だけど、まあ取り敢えずは様子見しようと思った。
――その後はそれぞれ別々の個室に案内され、翌日には取り敢えずの荷物も届いて任命式までの三日間が過ぎた。
任命式は大聖堂の二階中央にある大講堂で執り行われた。聖女三人はそれぞれに生成り色を基調とした古風でシンプルなデザインの長衣を纏っている。始祖皇帝と共にあった聖女の着ていた物を模しているらしい。
総神官長を中心に大神官が並び、大勢の神官や女官達が祝福の神聖魔法を歌うように節をつけて唱えている。そんな感じで、儀式は執り行われた。
私達にはそれぞれ色の違う肩掛けが与えられた。シリエルリカには青、ミーナセインには白、そして私には赤の肩掛けだ。
これは古い書物に書かれていた、かつて存在した二つ名を持つ聖女に由来する……らしい。
(……ま、よく知らないけどね)
「今より……シリエルリカ殿は青の聖女、ミーナセイン殿は白の聖女、ヴェルメリア殿は赤の聖女となり……帝国の普く臣民に慈愛の女神の慈悲と祈りを届けてくれる事を願います」
総神官長の言葉に私達は打ち合わせ通りに「承りました」と答えた。そして、脇に控えておられた皇太子殿下が歩み出られ、私達は向き直る。
「帝国は其方達を聖女と認める。聖女として帝国に尽くしてくれる事を切に願う」
「微力を尽くします」
三人とも打ち合わせ通り皇太子殿下の前に跪き、両掌を組み合わせて深々と頭を下げた。
――ま、こんなことがあって……私は聖女として正式に認められ、現在に至るってわけね。この裏には色んな事があったらしいけど、それはまた別の話。
世直し聖女誕生編 終
取り敢えずこれにて完結となります。
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