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第19話 三人の聖女

「――そなたの孫娘、シリエルリカ殿にも是非女神の御手に触れて貰えないだろうか?」


殿下の言葉に顔を上げたルインバロー侯爵の顔が引きつっている。シリエルリカ嬢は這いつくばるくらい平伏していた。


「さあ、立ち上がりこちらへ」


シリエルリカはゆっくりと立ち上がる。青い顔で身体は震え、今にも倒れそうに見える。多分爺さんの言いなりにしているだけだろうし、とても可哀想に思えた。



「……殿下お戯れはそこまでに、皇太子という御立場と大聖堂という場を御理解下さい」


ルインバロー侯爵は立ち上がり、強気な口調で殿下を諌めるの様に言った。


「そなたこそ立場を弁えよルインバロー侯爵。さあシリエルリカ殿、女神の御手を」


殿下に促されてシリエルリカは女神の前に立って手を差し出したまま固まって震えていた。



(こういうの弱い者いじめみたいで趣味じゃないのよね……)



「殿下、聖女という存在は複数人居ても良いかと存じますが……総神官長様、聖女の人数は教義に定められていますか?」


私は総神官長に確認するように聞いてみた。


「歴史上、複数の聖女が同世代に現れた事がありませんでしたので慣例として一人としていましたが、現実にヴェルメリア殿とミーナセイン殿が同時に慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)に認められた事で、複数の聖女が現れる事は有り得る――というのが現在の教団の見解にございます」


「では、シリエルリカ様を含めて当代は三人の聖女、と言う事で宜しいのでは無いでしょうか?」


私の言葉にその場の人々は目を丸くする。


「ミーナセイン様はどう思われます?」


ミーナセインに話を振ると、ちょっと焦っていたので心の中でほくそ笑む私。


「私もヴェルメリア様と同じ意見です。慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)の御威光を帝国中に広く行き渡らせるのが聖女の役目であるならば、例え何人聖女が居ても良いかと存じます」


ミーナセインは私に同調し、シリエルリカに微笑みかけた。


「ですから、総神官長様を始め大神官の方々が認めた聖女であるなら、シリエルリカ様も聖女であると私は思います」


私はそう言って恭しく殿下に(こうべ)を垂れる。私の動きに合わせてすかさずミーナセインも頭を垂れた。シリエルリカも私とミーナセインに倣って少し遅れて頭を下げた。



「ふむ、なるほど。聖女の力を持つ二人の()言葉、全くその通りであるな。相分かった」


殿下がシリエルリカ嬢に微笑んで頷き、ルインバロー侯爵に向き直る。殿下は笑顔だけど目が笑っていない。


「これで八方丸く収まったな?」


「殿下のご采配恐れ入ります……」


ルインバロー侯爵は恭しく礼をした。シリエルリカは気が抜けたのか崩れ落ちる様に脱力したのを近くに居たミーナセインが支えた。


「大丈夫ですか?」


「す、すみません……」


すると殿下は咳払いをする。


「それでは改めて、後日聖女の任命式を行うことで良いかな? 日取りはまた調整するよう、よしなに」


そう言うと殿下は慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)像に一礼すると踵を返して退室された。



「ルインバロー侯爵、大聖堂と致しましては殿下の御意向に従いますが、如何でしょうか?」


「――分かりました、我が孫娘も当初の通り聖女に選ばれたのですから異論はありません。何より殿下の御意向ですからな」


ルインバロー侯爵は総神官長に礼をするとこちらに来ました。


「シリエルリカ、おめでとう。立派に聖女としてのお勤めを果たすのだよ?」


「は……はい、お爺様」


ルインバロー侯爵は笑顔で話し掛けているけど、シリエルリカは怯えた様なぎこち無い表情だった。



(おお怖……侯爵、目の奥が笑ってないじゃない?)



シリエルリカもその奥底の表情を読み取って怯えているのかもしれない。



「――ではマギアス神官長、お三方を控室へ案内して差し上げなさい」


「は、では皆様こちらへ……」



私達はマギアス様に連れられて行った。


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