第16話 古代魔術対聖女
黒長衣の男は高度を上げてから魔法の詠唱を始めた。すると、空中に光の球が現れてどんどんと大きくなってゆく。それにつれて気温もぐんぐんと上がる。
「火球……爆炎? いえ、もっと大きな……」
「あれは失われた古代魔法……小さな太陽?! そんな魔法を使う者が……」
後ろで声がしたので振り返るとミーナセインだった。その表情には焦りと恐怖が浮かんでいる。確かに、今収束されている魔力は私が感じた事の無いくらい膨大だ。
「よい機会だ。大聖堂の結界内でどこまで威力が出るか、実験させて貰おうか……」
「あれが解き放たれたら、大聖堂が吹き飛ぶかもしれない……」
「そんなやばいの?」
止めさせたいけど、相手は宙に浮いていて私では届かない。煉瓦を投げつけたけど、防御魔法で防がれてしまう。
「では、さようならお嬢さん……小さな太陽」
直径数メートル程の眩しい光球がゆっくりと降りてくる。周囲はまるで炎天下かそれ以上に暑い。すると、ミーナセインが前に飛び出して両腕を空に掲げた。
『……絶対消呪結界!』
ミーナセインの身体が輝きを放つ。その姿に私は一瞬慈愛の女神の幻影を見た。
一陣の風の様なものが吹き去り周囲は静寂に包まれる――光球も消え去り気温も元に戻っていた。私自身も自らに施した魔法が無くなっているのを感じた。
ミーナセインはその場で崩れ落ちる様に音もなくへたり込む。
別方向で悲鳴と何かが落下する音がした。ミーナセインと悲鳴どちらに行くか迷っていると、瓦礫の間からズルズルと這い出てきた黒長衣の男に気付いてそっちに駆け寄った。
「……く、まさかあの様に強力な魔法消去を使う者が……」
立ち上がり、片脚を引きずって歩きながら呟いている男の前に私は立ち塞がる。
「逃さないわ、よくも色々とやってくれたわね?」
「く……小娘が、どけえ!」
黒長衣の男はナイフを取り出して突いて来た。私はナイフを持った手を左手の手刀で払うと同時に右拳を顔面にねじ込んだ。
「ぶべっ?!」
「魔法が無くても拳があるからね」
男はどさりとうつ伏せに倒れた。辺りでは駆けつけた兵士や騎士が忙しなく走り回っている。
「ヴェルメリア殿! ミーナセイン殿!」
マギアス副神官長が騎士を連れて駆け付けてきた。
「爆発の犯人ですわ、お引渡しします」
「な……取り敢えず拘束しておいて下さい」
黒長衣の男は魔力封じの手枷をはめて連行されていった。
「この一帯で先程から治癒魔法も使えなくなっているのですが、これは……」
「私の魔法……絶対消呪結界です、マギアス様」
「そ、それは……現在の大神官様方でも数名の方々しか扱えない最上位神聖魔法……」
マギアス副神官長が啞然としていると、ミーナセインはよろめきながら立とうとする――けどバランスを崩したので私はその手を掴んで肩を貸した。
「ヴェルメリアさん?」
「凄い魔法ですわ、悔しいですが貴女がいなければどうなっていたか……」
「え、悔しい?」
ミーナセインはキョトンとして私を見つめる。
「いえ、何でもありませんわ」
私は無表情を装って華麗にスルーした。
――その後、私とミーナセインは神官達と共に負傷者の救護にあたった。一通り終えて、流石に疲れ瓦礫に座っていた休憩していた。
目の前でミーナセインも深呼吸しながら汗だくで座っている。顔からはかなり疲労が伺えた。
「かなりお疲れですわね。折角のその白いドレスもボロボロですし」
「ヴェルメリアさんはお元気そうですね……貴女のドレスもかなり傷んでいますよ?」
「私は軟な鍛え方していませんからね。ドレスはまあ、所詮親に買い与えられたものですから」
私達がそんな話をしていると、若い男性がやってきた。
「君達かな、襲撃者を倒したのは?」
男性は小姓服を着ている。
(誰か分からないけど、誰かの小姓? まあ関係者かしら……)
「いえ、私は……直接戦ったのは彼女です」
ミーナセインは私に手のひらを向けた。
「はい、殴り飛ばしてやりました」
すると男性は吹き出して大笑いした。
「殴り飛ばすとは、豪気なお嬢さんだ」
小姓にしては何処か威厳のある喋り口だなと不思議に思う。
「そちらのミーナセインさんが相手の魔法を無効化してくれたので出来たのです」
手柄の独り占めなんて卑しい真似はしないからね。
「ほう、二人とも凄い力の持ち主という事か……噂通りだな」
私とミーナセインは顔を見合わせた。
「殿下! お一人で歩き回られては危険です!」
目の前の男性が「殿下」と呼ばれたので私とミーナセインは目を丸くしてそちらを二度見した。




