第15話 黒長衣の魔術師
――魔力探知で周囲を探りつつ爆発した辺りに近づくにつれて被害の大きさを目の当たりにする。
無事だったり軽傷だった神官や女官達が重傷者に治癒魔術を使って手当していた。ミーナセインもそれに加わって重傷者に治癒魔術を施している。
(へえ、大いなる癒しを連続で使えるなんてやるじゃない……)
その時、私の魔法探知に突然大きな魔力の収束が感じられた、かなり近い。
「こんな大きな魔力、この距離まで気づかないなんて……」
やはり魔力探知も大聖堂の結界内では効果が抑えられているのだろうか。私はその魔力収束の中心へと駆け出す。
(……誰か居る?)
黒い長衣を纏って古めかしい長杖を持つ何者かが魔法の詠唱をしていた。
「止めなさい!」
距離凡そ一〇メートル。私がその人物に向かって叫ぶと、詠唱を中断して私の方を向くと同時に長杖をこちらに向けた。
『……光の矢』
黒長衣の前に拳大の青白い光球が五つ程浮かび上がり、それは光弾となってこちらに飛んで来る。
『……魔法の盾!』
私は反射的に魔法防御を展開する。青白い光の壁に光弾五発が命中して閃光を放ち破裂音を立て消滅した。
『……魔法抵抗強化』
そのまま走りつつ防御系魔法を唱えながら、黒長衣との距離を詰めていく。
『……稲妻』
「この距離で?!」
黒長衣が長杖を私に向けた瞬間、詠唱が聞こえた。魔法の盾は間に合わない。
立ち止まって両腕を交差し、防御姿勢を取る。閃光と轟音が走り身体に熱や衝撃を受けて私は転倒した。髪が焦げた匂いがしている。
黒長衣は暫く倒れた私を見つめていたけど、動かずに様子を見ていたら近付いて来た。ある程度近くに来た瞬間、私は身体を捻りながら手元に落ちていた建物の破片の煉瓦を黒長衣に投げつける。
「?!」
煉瓦は黒長衣の直前で光る膜に当たって砕けた。その時顔を背けたのでそれを見逃さず、私は全身のバネで飛び起き、そのまま踏み込んで右拳を繰り出す。黒長衣に拳は命中したけど、手応えは防御魔法で防がれた感じだ。
それでも私は連続で左右の拳を繰り出す。蹴りも入れたいところだけど今日はドレスで脚の自由が効かないので諦める。
「ふ……」
鼻で笑う声は男性のようだ。
「面白い、手癖の悪いお嬢さんだな……それなりに戦える様だがら頭は足りん様だ」
(ふふ……油断してくれたわね?)
身体の中心を狙った右拳はやはり防御魔法の光で身体の直前で止まる。しかし、右拳から破裂音が轟き、黒長衣の男は弾き飛ばされて背後の壁に激突した。
「がはっ! な、何ぃ?!」
私は追撃する為に踏み込む。
『……飛翔』
しかし、寸での所で男は宙に逃れて私の拳が後ろの壁を砕いた
「娘……貴様、拳に見えざる力を付与したのか……そんな事をすれば拳が砕けるぞ?」
「ご心配痛み入りますが無用ですわ」
「ふん、目的は達した……しかし見られたからには消えて貰うしか無いな」




