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第11話 聖女選別の儀

――お爺様のもとで悠々自適に暮らしていた私だったけれど、突然お父様から手紙が来て呼び戻されることになった。





「皆さま、こちらへお集まりください。今より聖女選別の儀を執り行いますので呼ばれた方からお一人ずつお越しください」



ここは帝都にある大聖堂。慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)を中心とした、帝国を加護する神々が奉られた場所。今日は三年に一度の「聖女選別の儀」があるので帝国中から聖女を目指す若き令嬢が今日集まっている。


「聖女選別の儀」っていうのは、この帝国の始祖皇帝陛下が聖女の力を借りて統一を成し遂げたことから、帝国を代表する「慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)に選ばれた聖なる力を持つ女性」を見出して「聖女」と呼び、国中を行脚(あんぎゃ)して人々に癒しと加護を与える任を授かる……という習わしね。


「聖女選別の儀」は、聖女の資質がある者が慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)像に触れると光輝くと言われてる。そうして選ばれた者を聖女として認定するということだけど……。


いつの頃からか女神像が輝くことも無くなって、替わりに審査員が形式的に選んだ者が聖女として帝国の儀式や行事に象徴として参加するという事になった。いわゆる偶像(アイドル)ってやつ? 極端に言えば神聖魔法が使えなくても顔が良けりゃお付きの神官が神聖魔法使ってくれるってわけ、まあお飾りね。


そんなお飾りでも、聖女を任じられた令嬢は帝国貴族たちにとっては恰好のアクセサリーになる。特に上級貴族とかにはね。聖女を輩出したとなれば家の格も上がる――それを目指して貴族たちは娘にとりあえず「聖女選別の儀」を受けさせてみるのが通例となっていた。


そして私、帝国通商大臣・ゲルレム侯爵令嬢――ヴェルメリア・ゲルレムも例に漏れずお父様の命でこの「聖女選別の儀」を受ける事になったってわけ。




子供の頃から病弱でよく熱を出して寝込んでた私は、お母様のが若くして病で亡くなられたこともあったから多分長くないと思われてたのね。療養という名目でお爺様の元でずっと暮らしていた。お爺様は私を不憫に思ってとても良くしてくださった。


元・帝国軍大将で「武功神(ヴァイ・スラヴァーナ)の化身」と呼ばれたお爺様仕込みの武芸と、元大神官だった大叔母様に教わった神聖魔法ですっかり元気になった。


家督はゆくゆくはお兄様が継がれるし、病弱で余命幾ばくもないから半ば居ないモノ扱いだった私が健康になったと知ったお父様は急に「聖女選別の儀を受けろ」と命令してきたのよ? 失礼しちゃうわ。


でもいいの、私には目論見があるから。今に見てなさい、ここから私の痛快な人生が始まるのよ!




――大聖堂の待合室。大勢いた聖女候補の令嬢たちも1人また1人呼ばれていって、遂に私ともう一人だけになった。名前はミーナセイン・ブランシュという侯爵令嬢らしい。歳は私と同じくらいで長く艶やかな黒髪のお淑やかな感じの子。


私は赤毛だし長い髪は面倒だからバッサリと肩より少し上くらいにしてるから全く対照的ね。


目が合って向こうが微笑んで会釈してきたから私も侯爵令嬢らしくお淑やかに微笑んで会釈を返した。こういうかしこまった場所は慣れてないけど一応貴族令嬢としての教育は受けてるから礼儀は尽くすわ。


お父様はまあどうでもいいけど、お爺様や大叔母様に恥をかかせるわけにはいかないものね。そうしているとドアがノックされて「失礼いたします」と案内の神官が入ってきた。



「ミーナセイン・ブランシュ様、ヴェルメリア・ゲルレム様、長らくお待たせいたしました、ご案内します」


あら、「聖女選別の儀」はさっきまで1人ずつ案内されてたのに最後は2人? 面倒になったの? 


「申し訳ございません、最後はお2人ご一緒に選別の儀を受けて頂きます、ご了承ください」



(やっぱり面倒なのか、それとももう聖女が決まったのか……)



「承知いたしました、宜しくお願いします」


ミーナセイン嬢は案内人に会釈すると静かに部屋を出る。


「はい、宜しくお願い致します」


私も令嬢らしく一礼して部屋を出た。



(さ、貴族令嬢らしくしなくちゃね、絶対聖女になってやるんだから)



長い廊下を歩いていくとだんだん空気が澄んでくるのを感じる。正直この大聖堂は皇族や貴族から寄進された調度品や美術品だらけでとても俗な感じがしてたけど、この先は大聖堂の中心「女神の間」で帝国の主神慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)像が祀られている部屋だ。


回廊の終わりに大きな両開きの扉があった。神官たちが扉を重々しく開けると円形の部屋の中央に慈愛の女神(アヴァロ=スヴァラ)像が安置されていた。質素なローブをまとった美しい女神像。差し出した右手は慈愛と救済を意味する……らしい。


「まずはミーナセイン・ブランシュ様、女神様の御手に触れてください」


案内人の神官がミーナセイン嬢の方を向いて一礼した。彼女も応えるように一礼すると、女神像に近づき差し出している手にそっと触れた……その瞬間、女神像は全体から淡く白い光をを放った。


「ん、え……ええ!?」


案内人や周りに居た神官たちがざわざわしている。



(え……この子聖女って事なの?!)



「し、しばらくそのままでお待ちください……大神官様たちをお呼びしろ! せ、聖女様が……本物の……聖女様だとお伝えせよ!」


神官たちが慌てふためいてバタバタしている。流石にミーナセイン嬢も緊張した顔で女神像の横に立って待っている。



(ていうか私って忘れられてない?)



しばらくして大神官様たちが五人が女神の間に入ってきた。怪訝そうな顔で他の神官たちに「まことか?」「勘違いではないのか?」みたいな事言っていた。促されてもう一度ミーナセイン嬢が女神像の手を握ると、女神像はまた淡く白い光を放った。



(どう見てもただの石像なのに……この子本物の聖女っていうことよね?)



確かに私にもこの光は神聖魔法の力が感じ取れる。大神官5人はミーナセイン嬢の前に膝まづいて神官の胸の前で両掌を合掌、礼拝した。


「まさか、本物の聖女が再び現れるとは驚きました。今後の事について色々お話せねばならないことがありますので、とりあえず大神官の間でお待ちください」


大神官の中で一番偉そうな人がそういうとミーナセイン嬢は案内人に連れられて別室へ行こうとしていた。


「あ、あの……私はまだ儀式を受けていないのですが、どうすれば宜しいのですか?」


そうよ、ほったらかしじゃ堪らないわ。私の存在を無視して状況が進んでたのでちょっとイラっとしてたけど、貴族令嬢らしく慎み深く訊ねてやるわ。


「ん、なんですかな?」


大神官の一人が怪訝な顔で私を見る。正直睨み返しそうになったけどニッコリ笑顔で微笑み返した。一般の神官が大神官に耳打ちをした。


「ああ、失礼した。まだ儀式がお済で無かったのですな。どうぞ女神の御手に触れてください、今日は新たな聖女が顕現した日ですので女神の御利益を授かるでしょう、良かったですねえ」


大神官は微笑みながら私にそう言った。



(なんか女神参拝に来た一般の人みたいな扱いじゃない……私だって聖女候補なのよ?)



大神官も他の周りの一般の神官の人たちは、もうミーナセイン嬢の方に気を取られて掛かりっきりになっていた。ひとりだけ案内の人がニコニコと私に「御手にお触れ下さい」と言ってくれたので女神像の手を握った。


私が手を握った瞬間、女神像はミーナセイン嬢の時より一層光輝いた。


「あ、光った!」


「ひ、光……光が!?」


私の声と案内の人の素っ頓狂な声で皆が一斉に私の方を向いた。


「ほ、ほあああ?!」


「何の光ぃ!?」


「せ、聖女が同時に2人もぉ!?」


大神官たちのほうがより素っ頓狂な声を上げていて、腰を抜かしている人もいた。



(大叔母様は私なら聖女になれるかもしれないと言ってくれたからね、ありがとう大叔母様!)




――さて、まずはこれで第一歩ね。

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