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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
建国祭編

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88 「三つ巴」

 

 伊助や桜、翠蓮たちが動き出した頃、京月は瑠璃と共にノアールと対峙していた。


 魔力だけで無く刀の金属音がその場に響き、その音だけで戦闘の凄まじさを知らせる。

 相手は序列第三位の魔王だ。簡単に勝てる相手では無いということ、そもそも勝つことすら出来ない可能性が十分にあることを京月は理解していた。だからこそ翠蓮(すいれん)が自分のことを引き止めたくて堪らないのを必死に押し殺して涙を浮かべたのを見て、京月も翠蓮を手放したくなくて子供地味た願いだと思いながらも彼女に自分の刀を渡した。


 京月の魔力が染み込んだあの刀は彼女がそれを求めた時に必ず力になるはずだ。そしてそれは翠蓮が持っていた刀も同じ。ノアとの戦いで刀を折ってしまった彼女の為に、京月が普段あまり戻ることの無い父のいる実家に戻ってまでわざわざ京月家の刀鍛冶と細かな相談を重ねながら鍛刀させた刀は、彼女が手にしてからまだ間もない。しかしそれでもその刀に染み込んだ氷の力は彼女の努力を表している。


 そんな翠蓮の刀を手にした京月は、ノアールを前にした自分に迫る死を感じてこそいるが、翠蓮の諦めない芯の強さを刀から分け与えて貰うかのように真っ直ぐにノアールを見据えていた。


 そして、京月に力を与えたのはなにも翠蓮の刀だけでは無い。


 瑠璃の存在だ。


 京月はこの場に到着した時に自分の目を疑った。既に死んでいる可能性まで考えていたというのに、序列第三位の魔王を相手にして生きているどころかたった一人で戦い続けていたのだ。そして、京月が来たことに気付いたその男はあろうことか魔王に隙を作り京月が割って入れるように仕向けてみせた。

 そしてその後も京月の攻撃がより威力を増すようなフォローを完璧にこなして、彼自身もその光でノアールの漆黒を打ち払う。


 一体何者だと、ノアールへと刀を振り払いながら京月は息を呑む。

 そんな時、遂にノアールが痺れを切らした。


「お前は……一体何者なのだ!!あの忌々しいエセルヴァイトという男もそうだ、俺の邪魔をしやがって!」


「俺がお前の邪魔をしている?違うな、お前が俺の邪魔をしているんだ」


 そう言って瑠璃は光の粒子を圧縮したものをノアールへと飛ばす。それは眩い力を爆発させながら漆黒を照らしてノアールの魔力を弱体化させた。


 そこで瑠璃は軽く息をついて呟く。


「やっぱりそうか。お前魔王じゃないな。いや、魔王であって魔王では無い。力の一部をコピーした作り物ってところか」


 瑠璃の言葉に驚いた京月がすぐに光が消えていく中から現れたノアールの方を見れば、ノアールは可笑しそうに笑った。


「気付かれたか。そうだ、俺は本体では無い。今の俺は作り物で、本体はここにはいない。やはりお前はこちら側につくべきだ。その力は闇であるこちら側とは遠いものだが闇に堕ちた光は想像を絶する程の力を持つことになるだろう。そうだな、今ここでお前が引き、こちらに来るというのならばその男を見逃してやる。俺に刀を向けたんだ、本来なら生きたまま内臓、腸全て引きずり出して殺してやるところだが、お前に選択させてやる」


 本体のノアールの力の一部により作られたのだというそのノアールはそうして京月へ視線を向ける。

 瑠璃が魔王側につけば京月を見逃すと。


「は?ふざけたことを言ってんじゃ……」


 京月はノアールに対して再び刀を向けて魔力を纏う。しかしそんな京月の目の前には彼ですら気付かない程に一瞬でノアールの漆黒が広がった。


亜良也(あらや)!!」


 瑠璃が舌打ちをして京月を庇う為に飛び出すが、きっと間に合わない。


『恐怖』そのもの。

 やはり、魔王の力は格が違う。偽物だというのならば、なぜこんなにも強く、恐ろしいのだ。


「隊最強は今日俺の手で殺されるのだ!」


 圧倒的なそれを前に、京月は死を感じながらも諦めずに刀を握る。翠蓮の力の残穢の中に混じった僅かな神力はそんな京月を救う為に『運』を呼ぶ。


 瞬間、青い炎が空気を斬り漆黒のオーラごとノアールを貫く。そして青い炎はそれだけに留まらず京月から引き離すようにノアールを吹き飛ばした。


 瑠璃は青い炎が引き起こした爆発による爆風に耐えるように腕で受け止めながらもそこに現れた男を見て目を見開く。京月は一体何が起きたのか分からずにいたが、すぐに背後の気配を感じて勢いよく振り向いた。


 背後にいたはずの亡者の軍勢は青い炎に宿る神気により動くことのないただの瓦礫と化す。

 そんな瓦礫の山の上に立っている男。


「へぇ、誰の弟を殺すって〜?」


 京月亜良也(きょうげつあらや)の兄である、京月総司(きょうげつそうじ)がそこにいた。


 総司の登場に驚いたのは亜良也(あらや)や瑠璃だけではない。

 吹き飛ばされた先から漆黒の力をひしひしと増幅させながらこちらへ戻ってきたノアールまでもがその姿には驚きを露わにしていた。


「お前は……、何故お前がここにいる!?京月総司(きょうげつそうじ)!」


 ノアールの言葉に総司は面白そうに口角を上げて言葉を紡ぐ。


 「ど〜もォ、魔天で〜す」


 そう言った総司の人差し指がノアールへと向けられる。その指先からは魔天の頂点に立つ最高神の悪に満ち満ちた力が放たれた。

 ノアールの体を貫いたそれは漆黒の力を呑み込み力を奪っていく。そして魔天の力、最高神の存在を知っていたのか、ノアールはその表情から余裕を捨てて咆哮する。


 「おのれ……何故魔天が今ここにいる!!!」

 「楽しそうなことしてたからな。俺も混ぜてよ」


『国家守護十隊』、『魔王』、『魔天』


 三つの巨大な力が今ここに集まったのだ。



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― 新着の感想 ―
うおおお……!だんだん、物語が佳境に入っていってるような気がします。 三大勢力のご対面、あまりにも激アツでした。次回も楽しみです!
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