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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
建国祭編

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77 「繋がる悪意」

 

 牢を脱出した二人は、今まさに王宮内で朱雀(すざく)あまねが捕まり大きな騒ぎが起きていることを知らずに、隠し通路の中を移動し続けていた。

 しかし瑠璃(るり)はそこが既に王宮の外に位置していることに気付いた。


「さっきの黒魔法といい、飛ばされた牢といい。掛けられた魔力の流れは新しいものばかりだった。まさに今何かが起きている。はやく王宮の様子も確認しないとな」


「でも黒魔法が飛んできた時、扉の向こうに黒魔道士、というか人の気配なんてなかったですよね?」


 瑠璃(るり)翠蓮(すいれん)の言葉に頷くと、言葉を続ける。


「黒魔法は禁忌の魔法で、闇の魔法に分類される。俺もそうだが、黒魔法は更に遠距離に不向きで魔道士のいないところで遠隔(えんかく)で発動させるとなると、もっと違う何かが裏にいる気がするんだ。まだ憶測(おくそく)だけどな。実際、遠距離遠隔(えんきょりえんかく)での攻撃手段が無い訳じゃないがそんな芸当ができる黒魔道士となると国家兵器レベルだ」


「なるほど……。そう考えてみると、黒魔道士単体というより裏に何かがいると考えたほうが良いですね。でもそうなると一体誰が……。そんな魔道士を動かせる偉い人?うーん、政府?な〜んて、バカな考えしか思い浮かばないや」


 瑠璃(るり)はそんな翠蓮(すいれん)の突拍子も無いバカな考えが間違いでは無い可能性について考える。

 先程まで追っていた隠し通路内の魔力から引き離されたこともあり、その位置を探ってみたところ、それを感じ取れた場所との距離や方向から今いる場所が王宮外にある政府組織の塔に近付いていることに気が付いていた。いくら建国祭に向けての業務に追われ忙しくなっているとは言え、政府が王宮の違和感に気付かないとは考えにくい。

 それか、黒魔法だと思っていたものが黒魔法では無く、更に大きな力だったとするのなら。

 そう考えて、瑠璃(るり)は最悪な状況に気付き始めて先を急ぐ。


(いや、確かに黒魔道士も動いている。()()()は黒魔道士が動いたと言っていた、間違いは無い。それなら、黒魔法を囮にして動くほど、更に黒い力が……。バカなあいつがそこまで情報を掴めるはずも無いしな。まさか魔王が……?)


「龍の魔物に、魔王の出現……。どれもタイミングが良すぎる」


 瑠璃(るり)は考えていく中で焦る気持ちからそう漏らす。

 ()()()()()()()()()()()()()()()


(四龍院(しりゅういん)の目的は忌み嫌う息子の殺害だけでなく、別にもあるのか……?しかし軍部に大きな影響力のあるような貴族がそこまでして何を求める?……更に上、帝………朱雀(すざく)あまね……)


 そう考えたところで、全ての謎が解け始める。

 ここまで歩いてきた中で、自分が光の力でかき消したトラップ魔法の数を思い出していく中で、段々とかけられているトラップ魔法の数が減っていたことに気付く。わざわざこんな秘匿(ひとく)された通路を通ってまでこの先の政府本部まで行く理由など無い。

 だが、ここまでトラップ魔法が発動しないとなると先に誰かが通って破壊したとも考えられる。


「それにしても、瑠璃(るり)さんの光があるのに薄暗く感じますね……」


 そこで零された翠蓮(すいれん)の言葉で、瑠璃(るり)は彼女の手を引いてすぐに走り出した。


「えっ、瑠璃(るり)さん!?」

「君の考えはきっと正しい。そして俺の考えを合わせたら、四龍院家(しりゅういんけ)だけの問題じゃない。もう、国は傾き始めている」


 そうして辿り着いた先の扉を開けた先の政府本部は悲惨だった。

 全てが赤い血で埋め尽くされそこには死体が山のように積み重なっている。それは全て政府関係者の死体であることが、死体が着ているスーツに付いた血塗れのバッチを見れば分かる。

 どうしてここまでの力を今まで感じ取れなかったのかという程の黒い魔力が溢れており、その禍々しさは黒魔法の持つ禍々しい暗さをゆうに超えている。


「な、なに……これ……、一体なにが……」

「ここは政府本部だ。ここ最近の魔王の出現、龍の魔物の一件、そして今回四龍院家(しりゅういんけ)が今まで手が出せずにいた四龍院伊助(しりゅういんいすけ)を殺す動きを見せたこと。タイミングが良すぎると思わないか?」


 瑠璃(るり)はそう問いかけながら、暗いそこに光を取り戻させる為に力を解放して、その放たれた光により明るさを取り戻すがそれでも強すぎる暗い力は光を打ち消す勢いでその場を支配していた。


「全部……繋がってるってことですか……?なんで一体こんなことを……」


「分からないか?隠し通路の破壊された罠、俺の光があっても薄暗く感じる程の暗さ、そして政府本部を守護する魔道士がいたにもかかわらず、この死体の山。四龍院(しりゅういん)は大貴族だが、単体で国を乗っ取ろうなんて考えられる程バカじゃ無い。俺の光、黒魔法の力よりも更に暗い力を持つ者と龍の魔物、そして四龍院(しりゅういん)が手を組んだとすれば」


 翠蓮も、瑠璃(るり)の言葉で一体何が起ころうとしているのか、そしてその裏に何がいるのか薄々気付き始めたところでその声はした。


『どんな(ねずみ)が入り込んだのかと思えば、うちのノア()と遊んでくれたらしい隊士じゃないか。これはこれは、礼をしなければな』


 ゾクリと冷えて、背中を冷や汗が流れた。

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― 新着の感想 ―
名探偵・瑠璃!って言いたくなっちゃいました! さすがの鋭さ……。 ぞわりとくる演出が最高ですーー!
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