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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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65.5 「ただいま」


『爆弾兄弟』ことダイナ&マイト兄弟が国家守護十隊から警備隊に引き渡されて、和泉莉翠(いずみのりすい)は爆弾騒ぎによる落ち着きを取り戻し、今度は別のことで騒ぎを起こしていた。


「京月隊長〜っ!キャー!こっち見て〜!」

「不破副隊長ー!こっちにお手振りを〜!」

「京月さんの炎最高です!!弟子にしてくださァい!!」


 だなんて隊長、副隊長の熱烈なファンたちに騒ぎ立てられ、爆弾騒ぎを終息させたばかりだと言うのに今度は大勢の一般人に囲まれて京月も不破もその表情は死んでいる。

 京月や不破と共に町に出たり移動で駅を利用する際は大体いつもこうなので翠蓮はもうすっかりその光景に慣れて、彼らのファンに巻き込まれて潰されないように少し離れた後ろを歩いていた。


 一人でいる時なら声を掛けられることはあっても二人がいる時だと皆二人の方に飛び込んで行くため、基本的に翠蓮に声が掛かることは無い。しかし今日は違った。


黎明(れいめい)氷炎(ひょうえん)』として翠蓮の名前は町中に広がった。そしてそれは和泉莉翠(いずみのりすい)だけでなく日本帝国中に広まっていくことだろう。

 しかもそれが女の子となると声を掛けたがる男も現れる。


 まさか自分に声が掛かるなんて思ってもいなかった翠蓮は突然自分の肩に回された男の手に驚くが、どうすればいいのかわからないでいた。


「なぁ翠蓮ちゃん。男ばかりの隊での生活はどうなんだ?まぁ体付きだけは良いみたいだし俺が相手してやっても…………アッ」


 京月達とは距離があったことで油断していたのか、男は腕を京月に掴みあげられて顔色を悪くする。


「俺の隊士に何の用だ」


「えっ、あっ、いえ……!素敵な方だったのでお話をと思って……!」


「京月隊長!?私何にもされてませんよ!」


 男が顔面蒼白にして冷や汗をダラダラ流しながら答えるのを聞くと、京月はパッと腕を払った。


「過度な接触は控えて頂きたい」


 京月がそう言えば男は何度も謝りながら人混みの方へと潜っていく。その様子を見ていた翠蓮だが、すぐに京月に手を引かれて不破がいるところに合流する。


「前から言っているが、ああいう奴は割と多い。あんまり離れて歩くな」


「ごめんなさい、でも本当に褒めて下さってただけですよっ!?」


 翠蓮に触れて話しかける男を見た瞬間にそちらへ向かっていった京月を見ていた不破は、ただただ翠蓮のことを応援していた一般人だったのかと安堵して翠蓮に声を掛けた。


「なんだ、そうだったんだ。良かったじゃん、なんて言ってくれたの?」


 不破の問いかけに、少し考える素振りを見せながら答える翠蓮。ただし不破と京月にとって答えは予想外のものだった。


「えっと、体付きだけは良いから俺が相手してやってもって!やっぱり日頃の特訓のお陰ですかね?最近筋力付いてきたと思ってたんですよね!あ、じゃああの方は武術とかやってる人なのかな?」


 男が本来向けていた言葉の意味とは全く違う意味で受け取っていた翠蓮だが、京月と不破の二人は翠蓮の口から出た爆弾発言にギョッとして、危うく吹き出すところだった。京月に関しては鈍感な翠蓮にも分かる程の激怒具合で再び男を捕まえるために引き返そうとしていた。


「えっ、隊長どうしたんですか!?…………その、もしかして何か違う嫌な意味だったりするんですか……?や、やだな私ったら恥ずかしい勘違いを」


 そう言ってしょんぼりとする翠蓮の様子を見て、京月は一旦その怒りを抑えると、翠蓮に声を掛けた。


「いや、あいつが言ったことは忘れていい。俺が、氷上を認めていて、どの隊の隊士より強い隊士だと思っているということだけ覚えていろ」


「京月隊長、」


 隊士としてその言葉以上に翠蓮が求める言葉など無く、翠蓮の表情はすぐに明るさを取り戻した。

 既にその場から去っていた男だが、次に京月の視界に入った時はどうなることやら。


 それから三人で駅に向かって歩いていく途中、以前入った喫茶店の前に出された新メニューの看板に目を惹かれた翠蓮と京月。

 そんな二人を見た不破は、似た者同士だと楽しそうに笑う。


 そうして京月の奢りで任務からの生還のご褒美として喫茶店に入ることに。


 翠蓮は新メニューにあった、クリームとチョコレートがかけられたふわふわホットケーキとクッキーのセットに、メロンクリームソーダを頼み、京月は翠蓮と同じくホットケーキセットとイチゴクリームソーダを。不破はプリンアラモードとコーヒーのセットを頼んだ。


 注文を終えてから相変わらず綺麗な店内の内装に目を輝かせていた翠蓮はふとキッチンの方にある写真が飾られていることに気が付いた。


「あ、光の聖騎士だ」


 翠蓮の言葉で、京月と不破の二人は顔を見合わせてから翠蓮が見ている先の写真を見た。そこには顔を仮面で隠し、白いスーツに身を包んで剣を手にする金髪の男の姿が映っている。どうやらその男が最近真夜中に突然どこからともなく現れて魔物や反逆指定魔道士たちを倒してくれるのだそう。名前も素顔も知らない男を、彼の美しい光り輝く金髪と聖騎士のような強さから『光の聖騎士』と呼ぶ者が増えたのだという。


「あー、要注意では無いけど隊に属さず魔物を倒してまわる人物がいるって会議の時に総隊長が言ってたな。詳しくは知らないって言ってたけど。氷上ちゃん詳しいんだね」


「五番隊舎にいる時することなくて暇だったのを見兼ねて隊士さんが新聞をくれたんです。それに毎日載ってたからかっこいいなって見てました!」


 そんな話をして時間を潰していると早速注文したものが運ばれてきて、幸せを満喫しながら食べ終わると三人で本部に戻っていく。

 隊舎へ戻る途中で礼凛とばったり遭遇し、無事で良かったと泣きつかれた不破を置いて翠蓮は京月と先に隊舎へ。


 二人になったと同時に、先程までは安堵の気持ちでいっぱいで忘れていたが、ちゃっかり京月に告白をしたことを思い出した翠蓮。京月の様子はあまり変わっておらず、もしかして好きだと言って優しく笑ってくれた隊長は自分の妄想だったのか?と思いながら自室に戻る為に二階への階段を登ろうとする。


 しかし考えていたことが随分分かりやすく顔に出ていたのか、それともただ京月が翠蓮の考えを見抜きやすいのか、翠蓮の考えていることに気付いてその手を引いて自分の腕の中に閉じ込めると後ろから抱きしめた。


「さっきも言った通り俺は翠蓮が好きだ。無事に戻ってきてくれて良かった」


 じわじわと安心させてくれる温かい言葉。だがそれと同時に京月の腕が微かに震えていることに気が付いて翠蓮はその中から抜け出すと、京月の顔を見る為に振り返る。


 そうすれば、綺麗な涙をぽろぽろと落とす京月と目が合った。そこで翠蓮は京月が一体どれほど自分達を心配してくれていたのかを知る。


「私も、京月隊長が好きです。隊長が泣いてるところなんて初めて見ました」


「……やめろ……、見るな」


 そう言って顔を逸らそうとする京月の頬を、背伸びして両手で包み込むように触れれば、京月の身長が百八十あるのに対して翠蓮は百五十五で、身長差から少し京月の体が屈められて翠蓮に近付く。

 そんな京月の顔を両手で包み込んだ翠蓮は京月に真っ直ぐ言葉を向ける。


「隊長、遅くなってごめんなさい。私も、不破副隊長も無事に任務から戻りました」


 翠蓮の言葉で、張り詰めていた全身の気が抜けて、京月は気の抜けた柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、よく頑張ったな」


 翠蓮も、一番欲しかった言葉を貰えて嬉しそうに笑っていた。

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