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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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64 「町に現れた爆弾魔」

 

 京月は任務を終えて本部に戻る途中、羽織の手入れをする為に和泉莉翠(いずみのりすい)の和服屋を訪れていた。


「女将、羽織の手入れを頼みたいんだが良いだろうか?」


 そう声を掛ければ、丁度客の接客を終えたばかりの女将が京月の元に寄って来た。店内にいた客たちは京月の姿に一瞬にして目を奪われている。


「あら、京月くんいらっしゃい。奥の作業場が空いているからそっちに行きましょうか」


 店の奥にある作業場へいくと、店内にいた客が会話を聞いたりしないように配慮して店内に繋がる扉を閉める女将。女将の瞳には心配の色が宿っている。


 女将の名前は夕月文葉(ゆうづきふみよ)と言うのだが、実はこの夕月家、国家守護十隊総隊長であるあまねの実家、朱雀(すざく)家とは親戚に当たる。あまねの幼少期には彼の家庭教師として勉強を教えていたことがあり、今でも手紙のやり取りや実際に顔を合わせたりと、仲の良い関係でいるのだ。


 あまねが隊設立前に京月を引き取った際、ボロボロな状態なのをどうにかするために文葉が開いている呉服店に連れてきてから、文葉はまだ幼い京月を我が子のように思うように。

 そんな京月が大事にしている隊士が危険な状況に陥っていたことを、文葉はあまねから聞いていた。


「今日も任務だったんですね。氷上ちゃんと不破くんのことが心配でたまらないだろうに、大変なお仕事ね。本当にお疲れ様です」


「心配、は確かにそうだがあの二人はそれで俺が任務を放り出したらきっと怒るだろうからな」


 文葉の心配の中には隊士のことを思う自分への心配も大きく含まれていることに気付いた京月は、そんな文葉を安心させる為にそう答えた。

 自分の記憶にいる二人のことを思い出しながら、あの二人なら『自分達のことより人を助ける任務を優先してください!』と言うのだろうなと二人の強さを思い出す京月は硬い表情ながらも薄く笑みを浮かべていた。


 そんな京月の様子を見て、文葉も張り詰めていた緊張が解けて、気の抜けた笑みを浮かべた。


「そうねぇ、あの子たちならきっとそう言いますね。じゃあ羽織の手入れを始めますね」


 京月から羽織を受け取った文葉は羽織を綺麗な台の上に広げると魔法糸が解れた部分や生地の魔法を修復する魔法が込められたブラシで軽く羽織を押さえてその魔法を染み込ませる。

 魔物などの返り血は付着したらすぐに落としているのだろうが中まで染み込んだ汚れは簡単に落とせない。だから京月は翠蓮から貰った羽織を、こうして和服店で魔法によるクリーニングによく持ち込んでいるのだ。


 恐らく一般人を庇った際に付いたのであろう裾の破れ。小さな破れだったが相当ショックだったのか、文葉の手で重ねがけされた修復魔法で綺麗になった瞬間、相変わらず硬い京月の表情が、少し嬉しそうに緩んだことに文葉は気付いた。


「氷上ちゃんからの羽織とても大事にしているのね」


「隊士がくれたものなので、大事にするに決まっているでしょう」


「あらあら、隊士だから以外にも、もっと違う感情があるんじゃないの?京月くん」


 その言葉を聞いた京月の瞳が驚きで丸く見開かれる。文葉の言葉で何か気付いたことがあったのか。少し恥ずかしそうに手で口元を覆うと、文葉に問いかけた。


「俺は、そんなに分かりやすいだろうか……」


「京月くん自覚あったの?無いものだとばかり思ってたわ。遂にこの時が来たわね、それで?氷上ちゃんには伝えないの?」


 なんだかルンルンで聞いてくる文葉の様子に戸惑いながらも、京月は考える素振りを見せる。普段から自分の伝えたいことや本心を言葉にすることが苦手な京月にとって、自分の気持ちを伝えるのは難しいことだった。

 前のめりでソワソワしながら京月の答えを待つ文葉に、京月は照れ隠しなのか顔を少し下に逸らして問いかけた。


「家族、みたいに大事な存在だって、どう言えば伝わる……?」


「アッ、そっちだったのね!?あら、おほほほほ!」


「どうしたんだ?」


 思っていたのと違う答えが返ってきたことで思わず派手に転びそうになった文葉だが、なんとか体勢を崩さずに作り笑いを浮かべる。


「なんでもないですよ!思ったことをそのまま伝えればいいんじゃないかしら?」


「そうか。やはり思ったことを隠さず全て伝えるのが一番だな」


 京月がそう言葉を漏らしたと同時に、文葉が羽織の手入れを終えた。

 綺麗になった羽織を受け取ってすぐに羽織った京月を見送り、最後に文葉は小さかった頃の京月を思い返しながら少し屈むように頼むと、丁度良い位置に来た頭を撫でる。


「えっ??なぜ撫でる!?!?」


「理由なんて無いですよ、ただ私もあまね様も、あなたが幸せになることを望んでいると覚えていて欲しいだけですから」


 その言葉の温かさ。

 以前の京月なら、自分にそんな資格は無いと突っぱねたであろう言葉だ。だが、翠蓮がそんな京月の心を解してくれたから、その言葉が温かいと感じられるようになっていた。そうして向けられた言葉を恥ずかしながらも受け入れた時、通りを外れた町の奥の方から大きな魔力が。

 魔力の感じからして人間のものだろう。反逆指定魔道士が町を襲っていることに気付き、京月は文葉にお礼を伝えるとすぐに店を飛び出した。


 ✻✻✻


 町の人々の元気な様子を見ながら、はやく京月隊長と会えないだろうかと町の巡回をしていた翠蓮と不破。

 それから少しした頃、怪しい人を見たという話を聞いて駆けつけた先には町の人を人質に取って隊の機能を停止させることを狙う、反逆指定魔道士の中でも最近名乗りを上げた悪逆非道兄弟の通称『爆弾兄弟』兄ダイナと弟マイトがいた。


『ヘイヨー!そこの兄ちゃん姉ちゃん!俺らは最近巷で有名な兄弟!と言えばお分かり爆弾兄弟ダイナ&マイト!ヘイヨー!アガってるか〜?アゲアゲ〜!』


『あ……、どうも。マイトっす……。はい』


 意味の分からない高火力テンションの兄ダイナと、兄とは打って変わって火力の無さそうな弟マイト。

 翠蓮は二人のことを知らず、ただただおかしな人物だと思い戸惑うが不破は違う。彼らが直近でどれほどの殺戮を繰り返したかを知っていた。


「氷上ちゃん、この二人は一ヶ月で五十人一般人を殺した反逆指定魔道士だよ。一番隊として今ここでこの二人を逃がす訳にはいかない。一緒に戦ってくれる?」


 不破はダイナとマイトから目を逸らさずに翠蓮に言葉を向ける。そんな言葉を断ったりするほど翠蓮が弱くないことを、不破は知っていた。


「もちろんです!」



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