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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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63 「その強さに憧れる」

 

 あまねの部屋に入ってからというものの、(つかさ)の視線が宇佐に釘付けだ。


 まあ大体の理由は皆想像がついていた。

 なんせ、今までうさぎの被り物を被っていた宇佐が素顔を晒しているのだから。司は今まで素顔を見た事がなかったのだ。


 まじまじと顔面を見てくるものだから、視線に擽ったくなって文句のひとつでも言ってやろうかとしたところで、やっと司がうんうん頷きながら口を開いた。


「はーすごいな、ヤニカスにギャンブラーって感じだ」


「ハ?」


 まさか、というよりかはその通りなのだが誰も予想していなかった業の発言に宇佐以外の皆は思わず吹き出してしまう。顔が怖いとでも言われると思っていた宇佐も斜め上をいく司の言葉には思わず声が出るのを我慢できずにいた。


「お前……久しぶりに会った隊長に対して第一声がそれかよ」


「楪隊長から傷より病人にあるまじき喫煙衝動に苦しめられてますなんて報告受けて恥ずかしい思いさせられて心配すると思いますか?」


 どこか遠い目をして宇佐に問いかけるが、当の本人は口笛を吹きながら顔を逸らした。そんな宇佐に、業が少し笑いながらため息を零したところで、あまねの話が始まった。


「亜良也も呼ぶつもりだったんだけど、丁度任務に出ていてね。まずは、ちゃんと戻って来てくれてありがとう。君たちは隊の誇りだ。政府の……ただの傍観者でしかない外野には好きに言わせておけばいい。隊の被害は大きかった。それは君たちが諦めずに皆を護るために戦い続けた証だ、ありがとう」


 あまねの穏やかな声と優しい言葉は、あの場で死を前にしながらも戦い抜いた翠蓮たちに強く響いた。


「誰もが逃げ出したくなるような魔物を前に、諦めずに戦った。君たちは本当にすごいね。僕や隊長、副隊長たちに情報が伝わった時には僕でさえ焦りが止まらなかった。君たちを失ってしまうんじゃないかと思ったんだ。だから僕は君たちがここに帰ってきてくれただけで、それが一番嬉しいよ。亜良也も、任務先で報告を受けてよっぽど焦っていたようだしね」


 そう言ってあまねはちらりと業に視線を流す。

 視線を向けられた業は何かを思い出したのか冷や汗を流している。そんなあまねの言葉を聞いて、業の様子を見た不破と翠蓮は、一体何の話だろうと顔を見合せて首を傾げた。


 戸惑う二人の様子に、業はあの日たまたま任務の帰りに通りかかった町で任務を終えたばかりの京月を見かけた時のことを話した。

 それは京月が不破や翠蓮のことを侮辱した一般人相手に騒ぎを起こした日のことだ。


 業から聞いたまさかの事実に不破も翠蓮も、いつもは自分の感情に乏しく、滅多に感情を出さない京月が自分たちのことでそんな騒ぎを起こしたなんてと、じわじわと心が温かみを感じていた。


「亜良也ならもう任務を終えて戻って来ているみたいだから今から行けば、雪乃(ゆきの)が許可してくれた和泉莉翠(いずみのりすい)で会えるんじゃないかな。お休みにしてあるから、ゆっくりしておいで」


 恥ずかしくてこの場で口には出せずにいたが、今すぐ隊長に会いたいという気持ちがあまねには筒抜けなのか、会いに行っておいでという総隊長の言葉に隠れた優しさに、二人はすぐにお礼を伝えると部屋を後にする。部屋を出る直前に、今回のお給金は既に伝令蝶に預けているとあまねの言葉を聞いて二人は再びお礼を伝えると今度こそ京月に会うために屋敷を飛び出した。


 ✻✻✻


 列車を降りてから、不破の姿を一目見るために集まってくる一般人たちを何とか撒いて、翠蓮と二人は和泉莉翠の裏路地に逃げ込んでいた。


「あのままじゃ京月隊長に会う前に人間に踏み殺されちゃうよ」


「危ないところでしたね」


 そんな不破の言葉に翠蓮が笑っていると、いつもより少しその表情に影を落とした不破が翠蓮の顔を見て口を開いた。


「氷上ちゃん、ごめんね」


「えっっ??」


 突然の謝罪に、翠蓮は戸惑いの声を漏らす。一体何を謝っているのだろうかと、理由を探すも分からない。


「あの戦いの場で、俺氷上ちゃんにすごい酷いこと言ったからさ。だから、ごめんね」


 そこで翠蓮は、魔王ノアとの戦いの場で不破が自分に対して言った言葉を思い出す。


『戦えないなら下がってて。今、ここにいられても足でまといになるだけだから。今の氷上ちゃんにできることは無いよ』


 翠蓮はすぐに慌てて首を振った。


「あ、謝らないでください!私があの場で一番足でまといなのは事実でしたし……!それに私があそこで下手に動いていればもっと被害が大きかったかもしれない。だから、私がお礼を言うべきですよ」


「氷上ちゃんは強いね。俺には無い強さだ。きっと氷上ちゃんにすぐ追い越されるんだろうな」


「私が不破副隊長を!?むっ、無理です無理です!わたしにはあんなに凄い結界術なんて使えないし、京月隊長の支えになるなんてできませんから。不破副隊長は私の憧れです!」


 そんな翠蓮の言葉を聞いた不破はなんだか気恥しそうに笑う。そして優しく翠蓮の頭を撫でたところでふとある事を思い出した。

 そこは以前翠蓮と不破が二人で遂行した任務の際に魔物と交戦した場所だ。そこから見えていた屋敷は取り壊されており、当時は暗く光の無かった場所が今は光を浴びて綺麗な花が咲き誇っていた。


 そうしてあの日の戦いの場で、翠蓮にとっては二度目となった禁出の魔物との衝突。翠蓮からすればそれは恐怖や、ただただ死を感じるものだったはず。だがそれでも諦めずに戦った。自分がどれだけ傷つこうと、必死に。


 そして、嫌にならないはずが無いというのに翠蓮は前を向き続けている。


「俺も憧れるよ。氷上ちゃんのそういうところ」


 小さく紡がれたその言葉を聞き取ることが出来ず聞き返す翠蓮。


「んーん、なんでもないよ。ほら!久しぶりの外出なんだし、色々見に行こうよ!」


 翠蓮はそんな不破の手を取り立ち上がった。

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