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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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59 「崩壊へ近付く」

 

 翠蓮は、怒りと恐怖、不安、焦りなどの感情が絡まり膨らんでいくのが抑えられなかった。自分の意識を外側から見ているような、真っ白な感覚だった。


 気が付いた時にはレオナの片腕が飛んでいた。


「……あ?」


 レオナの再生速度はノアより早くもう元通りだったが、一体どこからその様な力を発揮したのだと鋭い眼光を翠蓮に向けた。

 翠蓮自身、自分の力が中から溢れようとするだけで、何がどうなったのか分からないでいた。ただ、この力ならきっと、二人を助けるだけの隙が作れるかもしれないと感じた翠蓮は、もっと。もっと、と力を呼び起こそうとする。


 私がやらなければ、二人が死んでしまう。

 そんなこと、あっていいわけがない。


 翠蓮は自分の体が悲鳴を上げていることなど気にもとめずにレオナを見据えた。


「京月隊長の分も……不破副隊長の分も。全部私がやってやるんだ…………」


 面倒くさそうに表情を顰めて、レオナはまだ立ち向かってくる翠蓮だけはこの場で殺しておいてやろうとして、空に手を翳した。


「お前では遊び相手にならん。お前にこれが止められるのか?」


 空に翳されたレオナの掌には大きな魔力の渦が作られて、周囲を漂う魔力や宇佐が残した悪霊の残穢、禍々しい殺気までも取り込んで肥大したそれを翠蓮目掛けて一直線に振り下ろされた。

 隕石のようなそれを前にした翠蓮の瞳からは光が消え、絶望一色に染められたが、翠蓮はそれでも不破と宇佐を未来に繋げる為に自分の中にある力の全てをさらけ出そうとした。だが、翠蓮の力は抑えられて、レオナが放った隕石のような魔力も消滅する。


『駄目だよ。これ以上は今の君の体では危険すぎる』


 その声を聞いた翠蓮は、先程までうるさいほどに自分の中にある力が溢れだそうとしていたのが静まっていくのと、大きな安心感に近いものを感じてその名前を呟いた。


「エセルヴァイト……隊長……?」

「初めてで、しかもまだ目覚めさせてもいない状態でここまで力を使えるとは、やっぱり君はすごいな」


 疲労と出血でもう意識が途切れそうになる中で、翠蓮はぼやけた視界にエセルヴァイトを映す。

 そんな翠蓮の頭を軽く撫でると、翠蓮は眠るように意識を失い倒れていく。そんな翠蓮を抱きとめたエセルヴァイトはゆっくりその場に寝かせると、冷え切った視線をレオナとノアに向けた。


 エセルヴァイトの力に何故だか二体は心臓が震えるのを感じて一旦引くことを選びその場から消えていこうとするが、一瞬にして目の前に現れたエセルヴァイトにより地面に蹴り落とされ激しい勢いで沈んでいく。二体が起き上がるよりはやくそこに大きな力が振り翳されたかと思えばレオナとノアは一瞬にして体が焼失し、あまりの強さにエセルヴァイトの力の底が分からずゾッとする。


 更にそこに一撃を向けられそうになったところで、空の亀裂が大きくなり翠蓮が血を吐き出す。

 エセルヴァイトがそれに気を取られた隙に、レオナはノアと共にその場から姿を消してしまった。


「…………これ以上は世界がもたないか」


 エセルヴァイトはそう呟くと、自分の力を使えばまだ追うことのできるレオナとノアを追うことを諦め、まず亀裂を修復させる為に力を向けて、それと同時に翠蓮の状態の確認を始めた。

 翠蓮が吐き出した血を浄化し、無理に使ったせいで今にも命を食い荒らそうとする力を抑え込み、神の力が残した残穢が世界に影響を及ぼし始めているのを自身の力でかき消していく。


 翠蓮の中で暴走している力を抑え込んだエセルヴァイトは、何やらエセルヴァイト自身の体にも負担がかかるのか痛みに眉を寄せていた。

 翠蓮を治癒する為に、干渉外であるこの世界で大きな力を使ったことでその手は黒く変色し、先程の空のように亀裂が入っている。それらを抑え込むように手を抑えながらエセルヴァイトは翠蓮、不破、宇佐の三人を連れて本部のあまねの屋敷へと転移した。


 ✻✻✻


 あまねの屋敷にエセルヴァイトが三人を連れて飛んだ時、禁出レベルの魔物が現れたようで京月は翠蓮たちのことで頭をいっぱいにしながらも任務に向かっており、丁度屋敷にいたあまねがすぐに五番隊の空き部屋を手配し意識の無い三人の治癒が始められた。


 翠蓮はまだ比較的負傷の程度が浅く、楪の治癒で回復しすぐに穏やかな呼吸を取り戻したが、宇佐と不破の二人はギリギリ息を保っている状態であったため楪の治癒魔法でも回復までには時間を要する程だった。

 緊急での治療のため三人の状態は他の隊士たちには知らせず、一通りの治癒が終わったあとは三人同じ個室に運び込まれていた。戦闘時に右腕を失った宇佐だが、魔力で止血し、補強されていたこともありエセルヴァイトが持ち帰った腕はきちんと繋がり腕を失わずにすんでいた。だが最後レオナから不破を庇おうとした際に受けた傷は適切な応急処置が出来ていなかった為に右目は潰れたまま治ることは無かった。


 包帯が巻かれた右目の部分からはまだ血が滲み、定期的に包帯の交換が必要な程で、その他の傷も包帯に滲み出る血の量を見ればどれだけギリギリな戦いだったのかが見て取れる。

 ギリギリだったのは宇佐だけでなく不破もだ。胸から腰にかけてざっくり斬撃を浴びており、失血もかなり多く治療中にも何度もその命は尽きかけていた。幸い命を取り留めることには成功したがまだ目を覚ますには至らず、傷も残ってしまった。

 翠蓮は大きな傷は少なくとも、魔力の欠乏症に陥っており魔力の回復が急がれた。三人とも出血が多く、輸血を必要としていたが隊が保管する輸血用の血液では足りずにいたところを、総隊長が政府及び実家に掛け合って素早く輸血用の血液パックが集められた。


 この事態を政府は重く見ており、魔王クラスの出現は一気に警戒レベルが引き上がった。加えて伝令蝶の報告から『龍の魔物』にも動きが見られたことで政府は更に警戒を深め、今後更に隊の強化に力を入れるよう指示が出されることに。


 建国祭の日が近付く中で魔王クラス、龍の魔物の出現が公になれば国がざわつき混乱に陥るのは確かだ。だから公にして騒ぎ立てるなと暗に命じられているのだ。表立って動くのではなく隊の犠牲のもと確実に裏で終わらせろと。


 政府からの伝令を聞き終え、あまねは自室で拳を壁に叩きつけた。


「……指示を出し上から見下ろすだけの傍観者にこの腐りきった世界が見えるはずが無い」


 あまねは少し息を吐いて怒りを抑え込むと、司の伝令蝶に宇佐の帰還、京月の伝令蝶に翠蓮と不破の帰還を知らせた。



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