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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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45「総隊長、口が悪いですよ」

 

 この世界で皆で幸せになりたいという翠蓮の言葉を聞いて、エセルヴァイトは笑みを浮かべた。


「翠蓮がこの世界に引き寄せられた理由の一つが、皆と出会い、共に幸せになるためだとするなら、翠蓮の中にある力はきっとこの先役に立つはずだ。今はまだ使えずとも、きっと、その想いに答えてくれる」


 エセルヴァイトがそう言った時、またどこからともなく大きな力が隊本部に降り掛かる。

 あまねがそれを結界で弾きながら翠蓮達の元にやってきて、神の力により京月が重傷を与えられたことを知り眉を寄せる。


「僕の前で亜良也に手を出すなんていい度胸をしてるね、本当に……」


 冷たく呟かれたあまねの声音に不破と翠蓮はその体をぶわりと震わせた。


「不意の攻撃だったとは言え、流石は京月と言ったところだな。無意識に魔力で神力による攻撃を逸らしたことで致命傷には至らなかった。直に目を覚ますだろう」


 エセルヴァイトのその言葉でホッとする翠蓮達。

 しかし翠蓮と不破はまだこの状況をよく理解はできておらず、これからどうするべきか戸惑っていた。


「ここに魔天が来るってことですか」


 不破の言葉にエセルヴァイトは首を振る。


「いや、魔天自体は動いていないよ。今回動いたのは魔天を創り出したこの世界の最高神だ」

「さ、最高神……!?!?そ、それって大変なことなんじゃっ!?」


 神の力の話は聞いたとは言え、翠蓮は最高神という言葉に驚きを露わにした。

 最高神という言葉に翠蓮は何だか力がざわついたが、それに翠蓮自身は気付くことはなかった。


「最高神……」


 翠蓮の口から溢れた呟き。それをエセルヴァイトは拾い上げる。


「はは、以前翠蓮を襲った最高神の力の残穢をかき消したことで、あれは自分より上の原初神がいることに気付いたはずなんだが、今回隊本部に手を出すとはな。俺に喧嘩を売っているつもりか、甚だ不愉快極まりない」


 エセルヴァイトの力の圧に圧され、この隔離された空間がビリビリと震えていく。そして、今度はその力を止めようとしたのか遂に空間内に無数の黒い人影のようなものが姿を見せた。

 その無数の影は翠蓮達の周りを覆うようにして飛び交うが、攻撃する様子はない。


 それに不破が違和感を感じた時、影が自分達の魔力を吸っていることに気付くが、それに気付いたと同時に影は全て消滅する。


「なんだ、魔天を動かさず微弱な力のみ向けてくるのは何か企みがあるのかと思っていたが俺の思い違いだったようだな。あれだけ俺の力の残穢を残してやったというのに、俺の力に気付かなかったのか」


 エセルヴァイトがそう笑う。

 消滅させられた黒い人影はまた現れるが、それすら一瞬にしてエセルヴァイトの力でかき消される。

 一体だけ消さずにいた黒い人影の動きを止めてまたエセルヴァイトが口を開く。


「いや、翠蓮を襲った自身の力がどうして消えたかさえ気付いていないのか。……最高神に伝えろ。お前にとって邪魔でしかない原初はここにいると」


 エセルヴァイトのその言葉で、一帯を覆っていた力が更に圧を増す。しかし、敵は何も姿を見せない。


「エセルヴァイト、最高神はこれからどう動く?」


 そう問いかけるあまね。


「しばらくは魔天共々動かないだろ、この世界の最高神に俺は殺せない。だが何もしないといった訳ではなく、自分達が動かない間は使える物を全て使って今より大きな力を得るために時間を稼ぐだろう。こちらからこの世の最高神に接近することは出来ない、今できるのは向こうが動くのを待つだけだ」


 そう会話をしていた時、何者かが本部に足を踏み入れた。翠蓮と不破は、姿を見せた二人の魔力を忘れていなかった。


 一人は朝霧。翠蓮に禁出の指令書を渡して隊を追放され国家警備隊に連行された重罪人。そして二人目は、不破に見破られたが数少ない結界術の使い手で、それを利用し魔物と手を組み結果として翠蓮を禁出の任務に向かわせた朝霧同様の重罪人。


 今は国家警備隊の監獄にいるはずの二人。そんな二人からは黒い力が感じられていた。


 どうやら凄まじい程の黒い力で操られているようで、エセルヴァイトは実際二人はもう死んでいることに気付いた。


「死の間際まで翠蓮と不破……京月や隊のことを恨み、その恨みを最高神に買われたのか。死してなお悪意に動くとは、救いようがないな」


 翠蓮と不破が二人に対して刀を抜こうとした時、あまねがそれを制して前に出る。

 いつもの柔らかな雰囲気は無く、冷酷ささえ感じるあまね。そんなあまねの様子に戸惑う翠蓮に、不破が慌てて耳打ちする。


「あっ、氷上ちゃん……!耳塞いでっ、聞かない方がいいかもっ!」

「えっ?」


 翠蓮は不破の言葉の意味が分からず、どうして?と首を傾げた瞬間、降りかかったあまねの言葉を聞いて不破がどうしてそう言ったのかを理解した。


「それ以上、隊の敷地に足を踏み入れないでもらえるかな。死者は死者らしく地獄で喚いていればいいものを。僕はね、隊の子たちに手を出したこと、まだ許していないんだ。はやく僕の目の前から消えてくれないと、その腐った頭引き摺り回して僕が直々に地獄に突き落としてやるからな」


 その圧を前に、操られた朝霧たちは生前感じたあまねの怒りを思い出して最高神の縛りから解放されていく。そうして最高神により動かされていた死者二人は再び地獄へと落ちていく。


「ほ、ほんとに……総隊長……??」


 そう呟く翠蓮に不破が小さく頷く。


「まだ今回は甘いほうだね。良かった良かった。ピー音で隠さなきゃいけないくらいのキツイやつじゃなくて良かったよマジで」


 そんな不破の呟きに気付くことなく、あまねは翠蓮たちの方を振り返る。


「よし、あとはここからの脱出だね」


 さっきまでとは打って変わった優しいあまねの姿に翠蓮は呆然としていた。

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