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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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43「翠蓮の居場所」

 

 翠蓮は訳も分からないまま、一旦落ちつくために外の空気を吸おうと隊舎を出て、ただ足の向くままに歩いていた。そんな時、翠蓮は下を向いていてよく前を見ておらず前にいた人にぶつかってしまった。


「わっ、ごめんなさいっ!」


 ぶつかった衝撃で尻もちをついた翠蓮だが、謝りながら立ち上がろうとした所に目の前の男が手を差し伸べる。


「あ、ありがとうござい………って総隊長!!?」

「大丈夫?ちゃんと前を見て歩かないと危ないよ、と言いたい所だけど、何かあった?すごく暗い顔をしていたからね」


 あまねの言葉に顔を更に暗くする翠蓮。

 そんな翠蓮を見たあまねは、翠蓮を屋敷へと連れていく。


「丁度翠蓮には話したいことがあったんだ」

「話したいこと、ですか……?」


 あまねに連れられて屋敷の部屋に入ると、そこには既にエセルヴァイトの姿があった。


「あ、エセルヴァイト隊長」

「今日はね、僕とエセルヴァイトから翠蓮に話があるんだ」


 座るように促されて、翠蓮が二人の前に座るとまずあまねが口を開く。


「単刀直入に話すと、翠蓮の出身のことなんだけれど……」


 あまねがそう言ったと同時に、翠蓮と一緒にいたでんでん丸が前に飛び出す。


「翠蓮がこの世界の人間じゃないって本当なのか!?」

「あっ、ちょっと、でんでん丸!」


 飛び出したでんでん丸を翠蓮が止めようとするが、そんなでんでん丸の言葉にあまねが答える。


「……なるほど、翠蓮はそこまで知ってしまったんだね」

「………本当、なんですか……?一体どういう………」


 状況を理解しようとしても中々理解できずにいた翠蓮を見てエセルヴァイトが口を開く。


「翠蓮の中には原初の神の力が流れていて、この世界の神がそれを求めて翠蓮をこちらの世界に引きずり込んだ。君の中にある両親や、村の記憶は恐らく世界の変化と共に変えられたもの。君の記憶にある両親が魔物に殺されたという事実もね」


「え、えぇ………?」


 戸惑う翠蓮にあまねは魔天に関する話を始める。


「魔天は君の力を手に入れるために作られた」

「魔天が……」


 翠蓮の呟きにでんでん丸が耐えきれずに叫ぶ。


「そんなことと翠蓮が元の世界に帰るって、なんの関係があるんだ!?俺様翠蓮とずっと一緒にいるんだぞ!!」

「あぁ、既に俺達と京月の三人でこの話をしたんだが、まず魔天との戦いに翠蓮の存在は必要不可欠。その力が鍵になる。ただ、言わば囮に近い存在だ、京月はそれに反対でね。本来なら、この世界にいるはずの無かった翠蓮がこうして戦いの場にいること、そして囮になることが許せないんだろう、その気持ちは分からなくも無い」


 エセルヴァイトの言葉に、そんな事があったのかと翠蓮は、何にも話してくれなかった京月のことを思い返す。そんな翠蓮にエセルヴァイトは言葉を続ける。


「京月は、翠蓮を元の世界に帰すことを最優先としている。今使える俺の力では、君が元の世界でどのように生きてきたかなどは分からない。ただ、これ以上この世界で、死と隣り合わせの生活をして欲しくないという京月の願いだと思う」


 翠蓮はその言葉に体の中が熱くなっていくのを感じる。


「わたしは………国家守護十隊で………」


 この世界しか知らなくて、この世界を護りたくて、わたしは国家守護十隊に入った。

 その、わたしの気持ちはどこにいくの?皆に会えなくなる?一緒に、頑張ってきたわたしはどこにいくの?


「京月隊長は…………、わたしを、認めてくれていなかったんですね………」


 そう零された翠蓮の言葉を、あまねは否定する。


「違うよ、亜良也は翠蓮のことを隊士として認めていた」

「で、でも……なんで、わたしは……この世界で、国家守護十隊に入って、頑張ってる……のに………」


 自分の感情がよく分からずぐちゃぐちゃになりながらもそう言葉を紡ぐ翠蓮。そんな翠蓮を落ち着かせようとして、あまねが再び何か言いかけようとするも、翠蓮はそのまま屋敷を飛び出した。


 翠蓮はそのまま一番隊隊舎へと走っていく。


 翠蓮にとって、一番隊は自分の居場所だった。京月隊長にとって、わたしはそんなに簡単に切れるような存在だったの?

 複雑な思いを抱えながら、翠蓮は一番隊隊舎の扉を開ける。扉を開けると、丁度任務から戻った京月があまねの元に報告に出ようとしていたのか少し驚いた様子で翠蓮を見ていた。


「氷上?そんなに慌ててどうした?」


 そう言葉を掛けられるが、翠蓮は答えることなく京月に言葉を向ける。


「京月隊長は…………私を元の世界に帰そうとしますか……?」


 否定してほしかった。お前は一番隊で、俺の隊士だと言って欲しかった。京月にとって必要な存在でありたかった。

 京月は翠蓮の言葉に驚き、それから顔を逸らすように下を向く。


「あぁ、話を聞いたなら分かるはずだ。お前がこの世界の人間じゃない以上、国家守護十隊にいる必要なんて無い」


 その言葉を聞いて、翠蓮は何も言えずにいた。


 二人が戻ったことに気付いて、奥から顔を出した不破がその様子に気付いて声を上げる。


「ちょっっ!!?京月隊長あんた氷上ちゃんに何言ったんですか!!?」


 不破の声で顔を上げた京月は翠蓮が瞳に涙を溜めてぽろりと零した姿を見て、その瞳を見開いた。

 違う、泣かせたかった訳じゃない、なんて後悔の色を表情に宿したところで、翠蓮の涙が止まる訳でもない。


「もう、いい……。京月隊長なんて……、大嫌いです」


 そのまま翠蓮は京月の元を飛び出した。


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