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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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40「変わりゆく心情」

 

 それから翠蓮たちは軽く他愛も無い話をして、まずはせっかくの夜会なのだから他の隊士とも仲良くなれるように楽しもうということで落ち着いていた。


「せめて隊長たちの迷惑にならないようにだけ気を付けておけば……、それに情報交換とか、仲良くなる為の顔合わせの場でもあるんだから、固くなりすぎるのもダメだよね」

「「たしかに」」


 花に言葉に翠蓮と桜が頷き、それはそうとして一体どんな隊士達が集まるんだろうかと頭を悩ませていた。それもそのはず、この三人全員がかつて六番隊隊士であった朝霧により禁出の任務に向かわされ、花はエセルヴァイトが気付いたことで伝令蝶を通じて止められて、向かうことなく難を逃れたのだが、翠蓮達はその時には既に任務の場に到着しており死の危険があった。


 それだけでなく翠蓮に関しては不破により暴かれた二度目の件もあった。

 私たちが行ってもいいんだろうか、だなんて不安な気持ちを残したまま、桜や花は一番隊隊舎を出てそれぞれの隊舎へと戻って行った。


「考えてても仕方ないかぁ」

「俺様知ってるぞ!なるよーになる!ってヤツだろ!?」


 でんでん丸のその言葉に翠蓮が笑みを零す。


「そうだね、なるよーになる!」


 そう言いながら翠蓮は渡されたメモ紙を見て、書かれている時間と場所を確認する。


「十九時に……えーと、十番隊舎……?ねぇでんでん丸、十番隊舎ってどこ??」

「十番隊舎はなー、本部のあまねの屋敷を、えーと、右にびゅーんって行ってぐわーん!ってして、……えーとナナメにびゅーん!右にぐるぐるー!左にびょーん!だぜ!」


 そんなでんでん丸の説明を聞きながら翠蓮は部屋を出て一階に降りると休憩室にいた不破に声を掛けた。


「不破さーん!十番隊舎ってどこにありますか?」


 必死に説明しているでんでん丸の声が聞こえていたのか不破は机を叩きながら腹を抱えて笑っている。


「でッ、ぶふッ!あははははッ!っでん、ッでん丸……ッぶふ、ッふふ、あははははは!無理我慢出来ない!何その説明のしかた!」

「なんだと!俺様をバカにしてんのか!?翠蓮もせっかくこんなに偉い俺様がわざわざ分かりやすく説明してやってるってのに!」

「あはは、ごめんごめん。でんでん丸がまさかあんなに説明が下手……じゃなくて面白い!とは思わなくて」

「むむむむ!……まぁ面白いなら良いか」


 そうして肩に止まるでんでん丸を撫でながら、翠蓮はもう一度不破に聞く。


「十番隊舎行ったことなくて、どこにあるか教えてもらいたくて」


 ようやく笑いが落ち着いてきた不破がそれに答えようとした時、丁度京月が隊舎に戻ってくる。


「あ、隊長おかえりなさ〜い」

「おかえりなさい京月隊長!」


 不破と一緒にそう声を掛けて、不破から説明の続きを聞く。


「本部も広いからね〜、地図あったかな地図……」


 そう言って地図を探そうとする不破と翠蓮に京月が声を掛ける。


「何してるんだ?」

「隊長〜、地図知りません?本部の地図!」

「地図?なんでそんなの探して……」


 そんな京月に翠蓮が口を開く。


「私が今日の夜会がある十番隊舎の場所分からなくて、不破さんに聞いたんです!」

「あぁ、夜会か。さっき俺も総隊長から聞いた。氷上は十番隊舎なのか。時間は?」


 京月にそう聞かれて翠蓮はメモを確認する。


「十九時からです!」

「そうか、俺は十九時半からだから連れて行ってやるよ。どうせ地図があったところで迷子だろ。お前の伝令蝶もたまにおかしな行動取り始めるし、誰かが一緒の方が確実だ」


 京月のその言葉を聞いて翠蓮が慌てて首を振る。


「そんな!大丈夫ですよっ!一人でいけますよ…………多分……」

「無理そうだな?……どうせ帰りも遅くなるだろうし、帰りも呼べ」

「そんな、そこまでしてもらっていいんですか?隊長に迷惑を……」

「うちの隊士が本部内で迷子になったなんて恥ずかしすぎる話が出回る方が迷惑だ」

「う"っ、たしかに……??」

「じゃあ、氷上ちゃんのことは隊長に任せますね〜」


 そんな翠蓮と京月のやり取りをなんだか面白そうに見守る不破。

 そうしてそれからゆっくり隊舎で過ごしていれば、もう夜会の時間が近付いていた。


「連れてきて下さってありがとうございます、京月隊長」

「あぁ。あ。待て、氷上」


 京月が翠蓮を呼び止める。


「はい?」

「酒、十五歳からだとは言え飲みすぎるなよ。後、何か変なこと言われたら俺に言え。後は、そうだな……何かあったら迷惑だとか考えずに俺を呼べ。帰りもまたここに来るから、分かったら伝令蝶に連絡させろ」


 どうしてそんなに心配してくれるのだろうかなんて、考えながらも翠蓮はその言葉に頷く。


 隊長としての京月の優しさだろうか。そのあたたかさに翠蓮は頬を緩める。


「また連絡しますね、隊長!」


 そう笑って十番隊舎の中へと入っていく翠蓮を見て、京月も隊長格が集まるあまねの屋敷での夜会へと向かっていく。


「………………??」


 またしても、自分の感情が分からない。ただの隊士にどうしてあそこまで心配する?

 ただ、他の隊士達とお酒を飲んで酔った翠蓮を想像したところで京月は考えることを止める。


 自分の隊士だからこそ心配なのか、ただそれだけでは言い表せない感情が確かにあるはず。真っ直ぐな明るさや、素直で努力家な一面と、時折見せる年相応の女の子らしさ。翠蓮を形作るそれらに京月は惹かれていた。


 だが、そんな感情を考えたこともなかった京月が気付くはずもない。ただ、行動全てにそれは現れ始めていた。


 京月はあまねの屋敷に到着し、既に隊長達が集まりあまねと共にお酒や食事を楽しみながら話をしていたところに入っていく。


「珍しいですね、京月隊長が()()()くるなんて」


 楪の言葉に四龍院も口を開く。


「遅れるとしか連絡きてないしな。何してたんだ?」

「氷上を十番隊舎まで送っていただけだ」


 その言葉を聞いて四龍院がすかさず反応する。


「京月が氷上を案内?……お前氷上に随分優しくなったな?」

「別に、ただ送っただけだ」


 そんな京月の様子を、あまねや楪、四番隊の宇佐隊長までが何故だか楽しそうに見ていた。


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