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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
魔天月蝕編 序

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39「久しぶりの同期たち」

 

 あれから半日程経ったところで、漸く魔法効果が切れたのか元に戻った翠蓮と不破。

 どうやら幼児化した時の記憶は残らないようで、魔物からの攻撃を受けるところまでの記憶しか残っておらず、二人は自分が幼児化していたことを京月や自分の伝令蝶から聞いて驚いていた。

 そして副隊長である不破は幼児化の影響で別件の任務をズラしてもらっていたため、自分の幼児化を想像して腹を抱えて笑いながらも早速任務へと向かっていき、基地には京月と翠蓮の二人が残っていた。


「そんなことが……、ごめんなさいっ!」


 京月とでんでん丸から話を聞いて、翠蓮は慌ててそう謝る。


「気にするな、体調悪いところとか無いか?」

「はい!どこも悪くないです!」

「なら良い。どこか体調悪くなったらすぐに言えよ」


 何だかいつもより心配の色が見える京月に翠蓮は少し戸惑いながらも、京月に声を掛ける。


「あの、」

「ん?」


 部屋に移動しようとしていたのか、翠蓮とは逆方向を向いていた京月が振り返った瞬間、翠蓮の口からぽろりとその名前が零れ落ちた。


「亜良也」


 無意識だったのか、名前を呼んですぐに翠蓮は呼び方を間違えたことに気付いて顔を真っ赤にして慌てて呼び直す中、京月は目を瞬いて固まっていた。


「ご、ごめんなさい!京月隊長!!あれっ、何でだろう!?間違えましたっ!やっぱり何でもないです!」


 どうして一度も呼んだことない名前が出たのか、恥ずかしさに耐えきれずに翠蓮はその場を飛び出して自分の部屋へと戻っていく。一人取り残された京月もはっとして自室へと向かっていくのだが、その途中、よく理解できないながらも大きな感情に揺さぶられてその口元を手で覆っていた。


「………………??」


 京月は自分の顔が、自身の髪色と同じ赤に染まっていることに気付いていなかった。京月自身も理解出来ない感情に、京月は首を傾げる。

 結局その感情が何なのか理解できないまま、日は過ぎた。


 ✻✻✻


 魔天との戦いを控えた強化期間に入って数ヶ月が経とうとしていた。その間、翠蓮は結界術を無理なく使うことが出来るようになっており、まだ不破のように広範囲に結界を張ったりなどは出来ないが、それでも戦闘面においてかなり役立つ力を手に入れることができた。


 そんな今日、翠蓮達は帝都を離れて久々に国家守護十隊本部にやってきていた。今回は任務を挟みつつでの移動だったためそれぞれ隊専用の転移魔法を使って長距離移動をしていた。

 任務を完了して本部に到着した一番隊の三人だが、京月は総隊長に挨拶に行くとのことで、翠蓮と不破は一足先に一番隊隊舎に。


「はぁ〜〜、帝都の本隊基地とはまた違って田舎の空気は良いね〜〜〜」


 そう言って久々の隊舎に入っていく不破の後を追って翠蓮も隊舎に入ろうとした所で、同期である桜と花の二人が翠蓮を呼んで駆け寄ってきた。


「あれ、二人ともどうしたの?」


 翠蓮がそう言うと、二人は持っていたメモ紙を翠蓮に手渡した。


「すいれんちゃん、会えてよかった〜!これ、今日の夜会の時間と場所だって。私たちと入隊が近い隊士三十人くらいでするからって言ってたよ!」


 そう話す桜からメモ紙を受け取ると、次に花が口を開いた。


「私たちは初めてだけど、今日みたいに全隊招集日は夜会があって同期やそれに近い隊士で別れてご飯食べたり情報交換したりするんだって」


 二人の話を聞いて、そんなものがあったのかなんて考えていると後ろから不破がそのメモを覗き込む。


「へ〜、遂に氷上ちゃん達も夜会デビューか〜。楽しんできなね」


 桜と花はそんな不破の姿を見てすぐに挨拶をする。


「「お疲れ様です、不破副隊長!」」

「わ、そんなに畏まらなくていいよ!ほら、三人で会うの久々なんじゃない?積もる話もあるだろうし、上がっていきなよ」


 そうして桜と花の二人は翠蓮の部屋へと上がっていく。桜と花の二人はあの一番隊隊舎だと言って心做しか緊張しているようだった。


「わぁ、翠蓮ちゃん、綺麗なお部屋だね!」


 花が翠蓮の部屋を見てそう声をあげる。


「そうでしょ!へへ」


 座布団を用意して座ると、二人が興奮気味に翠蓮に話しかけてきた。


「どうしようどうしよう!不破副隊長と話しちゃったよ!!」

「あの不破副隊長に挨拶できる日が来るとは思っても無かったなぁ」


 そう話す桜と花に翠蓮は戸惑う。


「えっ、不破副隊長??」


 何が何だか分かっていないような翠蓮に桜が説明する。


「不破副隊長と言えば副隊長の中でも群を抜いてるって言われるくらいの実力者で次の隊長候補に一番近いんだよ!いくら二番隊や三番隊に入ろうと、隊が違うだけで話す機会なんて本当に無いんだから!うわ〜緊張した!礼副隊長と話すのはもう全然緊張しないのになぁ」


 そう一息に言われて少しびっくりしているところに、花の声が掛かった。


「あ、もしかしたら今日の夜会、大変かもしれないね」

「「え??」」

「だって、私たちあの一、二、三番隊だよ?特に私はだけど隊長や副隊長の話とか勿論聞かれるだろうし、私たち一番下っ端だから下手なことすればそれが隊長や副隊長の評価に繋がっちゃうのかなって……」


 その花の言葉を聞いて、全員の意見が重なる。

 絶対にやらかせないと。

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