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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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36 「隠された世界の全貌」

 

 存在する全ての世界を司る原初……全天最高神。それがエセルヴァイトの正体なのだという。そして、少しずつこの世界の正体も明かされていく。


「そしてその原初神とは別に、存在する世界一つ一つにも神が存在する。原初神と神は似ているようで違い、原初は全て、神は自分のいる世界のみを司る」


 エセルヴァイトのその言葉から、嘘は一つも感じ取れない。だが、その非現実的な話に着いていけず、京月は眉を寄せる。


「エセルヴァイトが原初の最高神なら、この世界なんて簡単に救えるはずじゃないのか?どうしてわざわざ人間に扮して隊長を務めるんだ」


 京月の言葉にエセルヴァイトが答える。


「全てを司ると言っても、世界が無数に存在する中ではかなり厄介でね。全ての世界に俺が干渉すれば、俺の力の残穢が集まり過ぎてぶつかり合いそれこそ世界の崩壊を導く」


 そして、エセルヴァイトはこの京月達が生きている世界は本来ならエセルヴァイトの干渉外の世界なのだと説明した。


「それに、そもそも原初の力は世界に触れやすい。だから、強い力を使いすぎることは世界の歪みとなり崩壊へ向かうことになる。世界にはその世界に合った神がそれぞれ存在する。この世界に存在する神が悪である以上、この世界は悪の手に落とされる運命だった、ということ」

「なんだよ……それ、」


 顔を顰める京月の隣で、不破がそう呟く。そんな中であまねが口を開く。


「エセルヴァイトは、そんな世界を救うために一人でこの世界に降りた。……そもそも世界の終わりの運命は決まっていて、それを覆すことは世界の均衡を崩しかねない。だからエセルヴァイトは他の原初神に何も伝えず一人でここに来た」


『俺がここにいることを誰にも知らせるな』


 そう言ったエセルヴァイトと、その後張られたあまねの世界そのものを包み込む結界。


「本来ならば、俺がこうしてここにいること事態が禁忌。だが俺はこの世界の声に呼ばれた。最初は興味本位だった、しかし来てみれば神の悪意により崩壊へ導かれる世界の中で、あまねが立ち上がった。原初の魔力を持つあまねに、俺は力を貸すことにした」


 あまねとエセルヴァイトを引き合わせたその魔力。


「他の神に俺がここにいることを知られると少々面倒だからな。そうして、俺はここにいるんだが、氷上翠蓮が現れた。あまねの原初の魔力が翠蓮を呼び寄せたのかも知れないな」

「氷上が、この世界の子では無いというのは何か関係があるのか」


 京月の言葉にエセルヴァイトは少し考えながら口を開く。


「そうだな、この世界の最高神はどうやら世界の崩壊を望んでいる。だが、あまねの原初の力を恐れて直接接触してくることは無い。そこで最高神は他に原初に近い者を探し、別の世界で原初の魔法ではなく原初そのものの力を持つ氷上翠蓮を見付け、こちらへ誘った」


 翠蓮が原初そのものであるという言葉。それはすなわち、氷上翠蓮が原初神であるということ。


「だが翠蓮は、普通の……」


 普通の女の子。京月や不破からすれば翠蓮は普通の女の子にしか見えなかった。


「あぁ、翠蓮は自分の力を知らない。だから使えないんだ。この世界の最高神が翠蓮を放置しているのも、翠蓮が力を使えないからだ。だが、ウロボロス戦の一件後のあの上空より降り注いだ力……それを翠蓮の中の力が無意識に防いだことで力が目覚めかけていることに気付かれた」


 そうしてエセルヴァイトは、一息ついてまた口を開く。


「最高神は本気で翠蓮を……国家守護十隊を狙ってくる」


 エセルヴァイトの言葉を聞いた京月と不破の全身に力が入る。そんな二人にあまねが言葉を向ける。


「この世界は最高神により崩壊へ導かれようとしている。その為に翠蓮を狙い、翠蓮がいる国家守護十隊にも危害が及ぶ。元より隊は世界崩壊の為に狙われているのだとしても、翠蓮は自分が理由の一つでもあることを知れば、自分の責任と感じてしまうはず。優しいあの子は自らを犠牲にすることを厭わないだろう」


 その言葉に京月がギリッと音を立てて歯を食いしばり、やり場の無い怒りをその身に宿す。


「だから、俺達は神を相手に戦わなければならない。翠蓮を守るためにも、世界を護るためにもね。もっと、強くなる必要がある」


 エセルヴァイトの言葉にあまねが頷く。


「そこで、最高神の力が及んだ組織……魔天。白月立華(しらつきりっか)を覚えているか?」


 魔天・白月六華。京月はウロボロス戦のあの場に現れた女学生の制服に身を包んだ白髪で猫の耳をした、青と赤のオッドアイの女の子の姿を思い出す。兄である京月総司と共にいたあの女の子。翠蓮と同い年くらいにも見えたが、あの女の子からは凄まじい程の血の気配と禍々しい力を感じた。


「あれは最高神の悪意により作り出された悪そのものを形作ったこの世界の神の一柱だ」


 不破もあの場で感じた六華の圧倒的な力を思い出してその拳に力を込める。そんな京月達に、あまねから次の任務が言い渡される。


「日付は未定。僕と、エセルヴァイト。そして翠蓮を含めた一番隊三人は魔天に乗り込む」


 ✻✻✻

 

 あまねとエセルヴァイトから、魔天と神の繋がり、そして翠蓮のことを聞いてから数日後の今日。あまねとエセルヴァイトの二人は魔天との対決に向けて準備を進める為に既に帝都を離れていたのだが、エセルヴァイトが一番隊本隊基地を出る前に、翠蓮の治癒をしたおかげで翠蓮はすっかり回復していた。

 エセルヴァイトから聞いた内容によれば、翠蓮を襲ったのは神の力が派生したもので、神が欲しがる翠蓮を殺して力を手に入れようとしていたのだという。

 普段翠蓮が何事も無く過ごせているのは氷の原初の神力が神の力を弾いているからで、襲われた時はその力が弱まっていたのだと。京月はあの日のエセルヴァイトとの会話を思い出す。


「あのウロボロス戦後に上空からの力を無意識に翠蓮の力が防いだ残穢を感じたんだが、翠蓮自身が弱っていたところで体力が足りず体に大きな負担をかけたんだろう。中々神力が回復せず、そこを狙われたわけだ。だから翠蓮には死を運ぶ蝶が現れた」


 エセルヴァイトが止めていたあの黒い蝶。あれは地獄蝶といって、死が決まった者の魂を回収するのだという。この世界の地獄蝶に翠蓮が捕まっていたら、翠蓮は神の悪意の赴くがままに操られることになっていただろうと。


「なら、その翠蓮の神力を回復させれば良いのか?」


 京月の言葉にエセルヴァイトが答える。


「そうだな、それが今の最善だ。翠蓮の神力は氷だが、力を辿ればその核には月の神力が流れている。翠蓮の力は原初の月神の派生だから、月の光が治癒には有効だよ。月神と引き合わせればもっと良いんだろうけど、今は長く神界を離れているんだ」


 京月は翠蓮には何も話さないまま、隊長としてこの先を見守ることを決めた。翠蓮が力のことを知れば必ず自分を犠牲にしようとするのは、優しい翠蓮のことをよく知っているからこそ確実にそうすると分かっていた。

 だから海で倒れた記憶はエセルヴァイトが消し、何も無かった風に記憶を封じ込んだことで、翠蓮は何事も無く元気に任務をこなしていた。

 ただ、魔天を相手に一番隊、総隊長とエセルヴァイトの合同任務が控えていることのみ翠蓮には話し、その為の強化期間として一番隊は任務を遂行することに。


 そんな今日、翠蓮は京月との共同任務だった。

 京月がいたこともあってか、いつもより格段に動きやすく、任務はすぐに終わったが最後に油断して魔物の攻撃を受けて髪紐が切れてしまった翠蓮の髪を京月が自分の持っていた予備の髪紐で結い上げていく。


「最後の最後に油断するからだ、もう少し気をつけろ」

「うぅ、ごめんなさい」

「まあでも、以前より動きも魔力の流れも良くなってたぞ。よし、結べた」


 京月がそう言うと、翠蓮が振り返る。


「ありがとうございます!京月隊長とお揃いですね」


 そう言って嬉しそうに笑う翠蓮に京月が目を瞬く。エセルヴァイトから翠蓮やこの世界の話を聞いてから自分でも気付かぬうちに張り詰めていた心がゆっくり和らいでいく感覚。


「氷上……」

「はい、どうしました?」


 京月はそんな翠蓮の明るい表情を見て、何度も何度も閉じかけようとしていた口を開く。


「もし、自分がこの残酷な世界じゃなくて、平和な世界にいるはずの人間だったら、氷上はどうしたい?」


 そんな京月の言葉に、翠蓮はうーん、と難しそうに考え始める。


「難しいですね」

「変な話だな、悪い。忘れろ」

「あ、いやそうじゃなくて、もしそうだとしたらって考えた時、もちろんこの世界で戦うことも私にとっては大切なことだけど、もう一つの平和な世界には、本当の家族がいるんだって思ったら少し寂しい気持ちになりました。ふふ、作り話なのになんだか変な気持ちですね」


 そう話す翠蓮の少し寂しそうな表情を見て、京月は翠蓮の頭を撫でる。


「そうだな」


 そうして二人で基地への帰路につく。そんな中で、ただ京月は翠蓮が本当にいるべき場所はここで良いのかと考えていた。ただ、それと同じくらいに今目の前にいる一番隊隊士としての翠蓮を大事に思うからこそ、京月は自分の気持ちが分からないでいた。ただ今は、翠蓮を守るために出来ることをするだけだ。そんな思いが京月の中にあった。

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