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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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35 「エセルヴァイトの正体」

 

 『今一番自分に必要な者の召喚』


 その効果を持つ魔法具は古びていながらも立派に動き、京月と翠蓮の目の前に、ばしゃんと水音を立てながらその男を召喚した。


「あ、」翠蓮の呟きを男が拾う。

「おっと、どこかと思えばまさか海への呼び出しとは。久しぶりだな、翠蓮」

「エセルヴァイト隊長!?」


 そうして笑みを浮かべる男の名を翠蓮が紡いだのと同じタイミングで京月もその隊服に付けられた三本の飾緒から目の前にいるのが三番隊隊長であるエセルヴァイトだと気付く。


「エセルヴァイト……!」

「あぁ、京月と実際こうして会うのは初めてだったな」


 初めて見るエセルヴァイトの姿に少し戸惑いを見せる京月にそうエセルヴァイトが声を掛けるが、そこにでんでん丸が飛び込んでくる。


「あーっ!エセルヴァイト!あの甘いお菓子くれ~~っ!」

「ん?あぁ、あれか。いいよ」


 収納していた異空間から取り出したのか、その手の中に現れたお菓子の包みを開けてでんでん丸の近くに持っていくエセルヴァイト。でんでん丸の近くでパッと吸い込まれるように消えたそれはとても美味しいようで、でんでん丸の周りには花が飛んでいるように見えた。そんなでんでん丸を見て、エセルヴァイトはふとあることに気が付いた。


「あれ、俺の加護が消えているな。直近で何かおかしなことは無かったか?」

「おかしなこと??俺様翠蓮とずっと一緒だったけど何も知らないんだぞ」

「そうか、わかった。そんなことより、今はまずその魔法具の方をどうにかする方が先だな」


 エセルヴァイトはそうして翠蓮が触れてしまった魔法具を手に取る。もう既に使用済で魔力の無いそれはエセルヴァイトが触れても特に何も起こらない。


「エセルヴァイト、どうして今お前がここに召喚された?その魔法具がお前を召喚した理由に何か心当たりがあるのか?」


 そう問う京月の隣にいる翠蓮を見て、エセルヴァイトは何かを考える。


「まあ、それほどまでに死に近付いた者が必要とするのは俺になるだろうな」


 エセルヴァイトのその言葉に京月が目を見開き、驚きを顕にした瞬間どこか黒ずんだ力が翠蓮の周りに現れ、現れたその力は翠蓮を飲み込もうと肥大して、どこか儚げな黒い蝶の姿に変わる。


「伝令蝶……?」


 京月は伝令蝶かと呟いてすぐに、その違和感に気付いた。その蝶から感じるのはウロボロス戦で見た"神の力"というものに近く、伝令蝶のような柔らかな雰囲気は感じられずにキツくて暗い雰囲気が漂っていた。翠蓮もその力に戸惑い、どこか恐怖を感じて無意識で京月の腕をぎゅっと掴む。そんな中でエセルヴァイトが口を開く。


「駄目だよ、地獄蝶。俺は許可しない」


 その言葉がエセルヴァイトの口から紡がれた瞬間、翠蓮の周りから黒い蝶も、圧のある力さえもが消滅した。


「エセルヴァイト、今のは……っ、氷上!?」


 エセルヴァイトの言葉の意味を知ろうとした京月の腕の中で翠蓮は意識を手放して倒れ込む。


「眠っているだけだ、心配無い」

「エセルヴァイト、お前一体何者なんだ!?」


 翠蓮を抱えて、エセルヴァイトから離れて砂浜で様子を窺っていた伝令蝶の元に距離を取る京月の前でエセルヴァイトは動き出す。


「その話は後だな。今は、この世界の歪みをどうにかすることが先決だ。……あまね」


 エセルヴァイトが海から上がり、自分の魔力でパッと全員を乾かしながらあまねの名前を呼ぶ。すると、エセルヴァイトの元にあまねが現れる。


「エセルヴァイト、君からの呼び出しは珍しいね。……って、京月たちまで。……何かあったのかな?」


 エセルヴァイトは口を開く。


「うん、まさに最悪の事態だな」


 眠る翠蓮にその言葉が向けられた。


 最悪の事態。そのエセルヴァイトの言葉の意味が分からず京月は意識の無い翠蓮を抱き寄せる。


「総隊長、ここまできても隠すおつもりですか。一体二人は何を知って、何故それを隠しているのですか?」


 京月から向けられたその言葉にあまねはゆっくり口を開く。


「翠蓮のことは僕がなんとかするから、亜良也は……」


 そうしてまだ、何も話してはくれない総隊長に初めて、京月は無意識に怒りを向けた。


「氷上翠蓮は、俺の隊士です。何も話して頂けないのであれば総隊長に翠蓮を任せることはできません。総隊長にとって、話さないという判断が正しいのだとしても、俺の意思は変わらない」


 そんな京月の言葉にあまねはその目を瞬く。そうして、そんな二人の間を割るようにしてエセルヴァイトが口を開いた。


「そうだな、氷上翠蓮に関する全てを話すことは出来ないが、恐らく京月が知りたがっている部分に関しては話すことが出来るはずだよ」

「……一旦本隊基地まで戻ろうか。話はそれからにしよう、いいかな亜良也」

「わかりました」


 そう話をしている所に不破が戻ってきたが説明している時間も無く、その場から本隊基地へと転移する。本隊基地に戻ると、ひとまず一階の空き部屋に翠蓮を寝かせて京月、不破の二人はエセルヴァイト達と話をすることに。

 重苦しい空気の京月の隣に座る不破は一体何が起きているのかが分からないでいた。そんな中、あまねが口を開く。


「僕はね、自分の力だけでは翠蓮の出自に関することで亜良也に話したこと以上を知ることができないと判断して、エセルヴァイトに探ってもらったんだ」

「どうして三番隊隊長がそこまで氷上を気にかける?」


 その京月の言葉にエセルヴァイトが答える。


「氷上翠蓮が欲しいからとしか言い様が無いな」


 その発言に京月と不破の二人が目を瞬いて、勢いよく立ち上がる。


「氷上は俺の隊士だ」

「そーですよ!?氷上ちゃんは一番隊ですからね!?」


 思わぬ慌てぶりの二人にあまねが小さく笑う。


「エセルヴァイト、ちゃんと説明してあげて」

「俺は翠蓮の中に隠れている力を必要としている。その力を使うか、使わないかは翠蓮が決めることだが」


 そう話すエセルヴァイト。翠蓮の中に隠れた力という言葉に京月が眉を寄せる。


「隠れている力……?それはさっき言っていた『最悪の事態』に関係しているのか」


 最悪の事態。あまねには話したことのある内容をエセルヴァイトは口にする。


「最悪の事態は氷上翠蓮がそもそもこの世界の人間では無いということだ。そしてその中でも翠蓮の持つ力は特別。……何かに巻き込まれてこちらへ飛ばされたと俺は考えている」

「は……?一体何を言って……」

「理解できなくとも無理は無い。だが、二人はあの日見たはずだよ、あまねの力と似た、魔法とは違う神の力を」


 そこまで話したところで、エセルヴァイトは深い息をつく。


「あまね、もう隠す方が面倒になってきてしまった」

「エセルヴァイト……?」


 あまねの呼び声には答えず、立ち上がったエセルヴァイトは休憩室から見える位置の部屋で眠る翠蓮の方へと歩いていく。エセルヴァイトが向かう翠蓮の周りには無数の黒い手の様なものが生えて翠蓮を取り込もうとしていた。そんな翠蓮の前で、エセルヴァイトが口を開く。


「あまね、結界。俺がここにいることを誰にも知らせるな」


 そう言われて、あまねはすぐに立ち上がって魔力を解放する。京月や不破でさえ見た事の無い大きな結界魔法。ただ、その緻密に練られた魔力層は決して探知できず、あまねの傍で彼が魔法を使うところを目にしていたから京月達は見えたのであって、その結界が世界を覆ったにもかかわらず、この場にいる者以外誰もその結界に気付かない。


『原初天空結界魔法・零零ゼロレイ


 そうして、その結界は何を内に潜めたのか。その答えも、この場にいる京月達のみが知ることになる。


「お前達は、誰の指示でこの子を狙う?」


 エセルヴァイトの言葉に、黒い力は圧を感じて縮こまる。


「言っておくが、この子に手を出すことを俺は許可しない」


 そう言えば、黒い力そのものが自我を持つかのように重苦しい圧の中で口を開く。


「「我らはこの世界を司る原初最高神の力なり!何者か知らぬが、原初最高神に対し頭が高い。我の力の前に平服せよ!」」


 原初最高神の力だというその言葉に京月と不破はあまねの方を見るが、そんな二人にあまねは首を振る。


「大丈夫、よく見ていて」


 その言葉に続いて、エセルヴァイトの方を振り向けばエセルヴァイトは笑っていた。


「原初か……。お前たち、原初の意味を履き違えていないか?」

「「履き違える?」」

「原初とは根源。全ての最初。分かるか?原初最高神が何を表すか。……最高神だと言うのならば、分かっているはず、原初……いや、存在する全ての世界の中で一番最初に生まれた世界と共に一番最初に生まれた神」

「「……なぜ、お前が、原初を……全天最高神ぜんてんさいこうしんを知っている!?」」


 エセルヴァイトは荒れた黒い力が翠蓮を取り込もうとして力を増したその瞬間、その手で力の全てを引きずり出す。

 引き摺り出された力の全てはまるで呪いのように膨らむが、エセルヴァイトの手の中から抜け出せずに彼の圧に呑まれていく。


「お前達が偽り名乗る原初……全天最高神が、俺だからに決まっているだろう」


 その言葉と共に、黒い力はエセルヴァイトの手の中で握りつぶされて消滅する。エセルヴァイトはそのまま京月達に言葉を向ける。


「これが俺が隊に姿を見せない理由。そして、氷上翠蓮の中には俺と同じ原初の氷の神力が眠っている。だから俺は、氷上翠蓮が欲しい」


 目の前にいる男の素性と、翠蓮に隠されていた力の正体を知るも、京月と不破の二人は反応さえ出来ないほど状況の理解が追いつかないでいた。


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