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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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31 「全ての破壊を望む先」

 

 紅蓮羅刹。京月の持つ力の中で最強の剣術。構えただけでビリビリと大気をも震わせ、そこには圧倒的な強者の圧があった。隊の結成前から共に居た四龍院でさえ初めて見るその構え。ただ、その魔力の負荷は今の京月には重すぎる。


「隊長…………っだめ。、だめ、です…………」


 朦朧とする意識の中で楪がそう声を掛けるが京月には届かない。轟々と燃える炎は消えることを知らず、その紅蓮の名の如く燃え盛り、周囲一帯が干上がるような熱を発する。

 そして、羅刹の名の通り、京月は全てを破壊・破滅させる為だけの刀を振るう。そこに人であるはずの京月の心はもう存在しない。その構え、剣技を見たレオナは笑う。


「これではどちらが魔物なのか分からないな。こちら側だと思われても致し方ないぞ、その姿では」


 だがそう言った時にはもうレオナの体は上半身がごっそりと切断され、再生した体は再び羅刹の炎に飲み込まれて、一帯を根こそぎ抉る威力の炎により全身が焼失する。それでもレオナの体は灰から再生を始め、瞬く間に元通りに。

 赤い鮮血を吐き出しながら、今にも飛びそうな意識の中で四龍院はレオナには勝てないと悟る。何とか不破の意識を呼び戻し、ここにいては京月の邪魔、止めることも不可能だと不破を離れさせようとするが、不破はその場を離れない。


「京月隊長…………!!」


 あの場から感じられる熱と魔力。もう京月の体はボロボロで既に限界を超えているというのにその力は京月に重くのしかかり、今にも命が尽きそうに見えた。


「まだそんな力を隠していたとは……面白い!!俺をここまで楽しませることができるとは……、お前は素晴らしい男だ、京月亜良也ァ!!!」


 対する京月はもう何の声も、音も聞こえてなどいなかった。ただ、破壊と破滅の神である羅刹の名の通り敵を破壊・破滅させる意思だけが京月の中にあった。

 京月は今、仲間を護るという強い意思さえ呑まれ、ただ破壊・破滅の意思を持つ羅刹となったのだ。失血でどれほど死に近付こうとも目の前のものを破壊するまで止まらない。暴走する魔力に呑まれた京月はただただ無の領域にいる。

 何も見えず、聞こえず、感じない。ただ、目の前の敵を破壊するためだけに動き続ける。京月自身の体が壊れようともそれは止まらない。いや、もう止められない。そこにもう京月の意思は無い。京月を飲み込んだ羅刹だけがそこにいる。


「もっとだ、もっと俺を楽しませろォ!!」


 ドッと京月の腹にレオナの攻撃が直撃し、大きな風穴を空けたそれはその場で京月を遂に死なせてしまうはずだった。

 遂に意識を途切れさせかけていた四龍院と不破が目を見開く。京月の刀から溢れ出た羅刹の魔力は京月の死を拒絶した。

 破壊・破滅が終わるまで死は許さぬとでも言うように、その体をレオナ若しくはそれ以上の速さで再生させたそれは、まるで京月を魔物にしたかのようだ。四龍院や不破もそれに一気に血の気が引いた。このままでは京月が、京月自身が羅刹の中から戻って来れなくなると。京月の目の前のレオナでさえ、羅刹の再生能力には目を見開いた。

 しかし、それと同時に羅刹の再生と魔物の再生の違いに気が付き笑いを零した。


「やはり、お前は素晴らしいな。自らの命を奪われようとも俺を殺したいか。いや、もうその意思さえ消えているか。もうお前を京月とは呼べないな」


 そうしてお互いが全力をぶつけ合って、一帯から水分が消えていき、燃え盛る業火の中で四龍院たちにまで危害が及んでいく。


「不破、動けるか」


 四龍院の命も既に風前の灯。


「楪を連れて逃げろ。これは、指示じゃない。命令だ」


 そんな中で、四龍院は最後に今できる全力でこの場の守るべきものを守るために動きだそうとした。不破はその場にとどまり共に戦おうとするが、四龍院からの圧に体が動かない。


「行け、これから先、後ろを振り返ることは何があっても許さない」


 その四龍院の言葉からは彼の固い意思が感じられる。全身がビリビリと震える程のそれに不破は逆らえず、全員の死が身近に感じられるその場から不破は意識の無い楪を抱えて逃げ出す。その時、四龍院が不破の視界の端から消える寸前、その顔を隠し続けてきた布の組紐を解こうとしたのを見て、隊長二人は自分達のために犠牲になろうとしているのだと、不破は自分の弱さに涙を零しながらも楪を生き延びさせるために走り続けた。

 ドンッッという激しい衝撃と、爆発するような魔力の圧で不破の体が傾き、その場に膝を突く。もう誰の魔力かなど、不破の消えかけた意識の中では判別できなかった。それでも、楪が立ち上がり、走り出したのを見て不破は叫んだ。


「楪副隊長……ッ!!!」


 レオナの魔力により吹き飛ばされた四龍院と京月。


「その顔、そうかお前があの四龍院家の忌み子か……。どうやら今の状態では自分の力に体が耐えられなかったか」


 もう今は血に塗れ、固く瞼が閉ざされたその四龍院の顔をきちんと見ることができないが、レオナは何かに気付いたようだった。だがもう四龍院は動かない。

 辛うじて息はあるようだが、その出血量ではもう長くもたないだろう。その傍で、京月だけが立ち上がった。一体どれほど血を吐いたのか、その羽織も隊服も、全身が血に濡れている。もう動けているのがおかしい程の状態でも、京月は止まらない。口から血が溢れ、遂に膝を突きそうになるがそれでも京月の魔力は無理にでもその体を叩き起す。


「……まるで悪魔だな。安心しろ、もうお前は俺がここで殺してやる」


 そうしてレオナの攻撃が向くが、京月の禍々しい炎が包み込んで焼失する。

 更に勢いを増した炎を纏った刀を振り上げた時、京月が勢いよく血を吐き出し、その隙を付いたレオナの拳が京月を吹き飛ばす。亀裂の入った地面を抉るように吹き飛び、最終的に大きな岩をも破壊するが、それでも羅刹は止まらない。血を吐き、死にかけようともただレオナへと突き進む。


「俺はお前に死んで欲しくはない。良い遊び相手が出来たというのに。……しかし本気には本気で答えるものだ」


 そうしてレオナが今まで見せることの無かった魔力をさらけ出す。しかし、楪が動いたことで、レオナのその魔力が攻撃に変わることは無かった。


「………お願いです、隊長…………。もとに、戻って…………」


 京月の刀がその体を貫きながらも、楪の手は京月の体を離さなかった。


「……………チッ、来たか。」


 それと同時にレオナは何かに気付き舌打ちをするとその場から消えていく。


「……ね、隊長……………。もう、だい、じょうぶ、です……から………」


 京月の炎に触れるがその体は熱を感じない。羅刹に呑まれながらも、その炎は楪に対する敵意を持たなかった。


「う"っ、………っお願いです………、師範……ッ!!」


 不破も、その光景に涙を流す。


「……や、やめてください……っ京月隊長ッッ!!!」


 痛みに耐えながら、京月の体を離さない楪を何かが濡らす。


「………ふふ、戻って、……くれまし、たか……?」


 そう血の気の無い顔で薄く笑みを浮かべた楪の瞳には涙を流す京月の姿が映った。


「楪………、なん、で………?、ちが、!俺は………ッ、まもり、たくて……………」


 ずるずると、体から刀が抜けて、楪の体が京月へと倒れ込む。京月の体もボロボロで、受け止めただけでその場に傾きしゃがみこんでしまうが、自分のことなど気にせずただひたすらに楪へ懸命に治癒魔法を向ける。その治癒魔法の魔力でさえも京月の命を削る程、京月の魔力は弱まっていた。


「だめ、です………師範……………」


 京月が治癒魔法を向ける手を掴んで止めて、楪は睫毛を震わせながら目を伏せる。


「楪、………だめだ、絶対、死なせない」


 不破も、四龍院もその時には既に意識を失っていた。ただ楪は最後に京月に言葉を向けた。


「隊長なら、大丈夫。私はもう……一番隊としては、いられないけど………、きっと、」

「そんなこと言うな、……………俺が、弱いせいで……」

「違う………。隊長が強いから………。全てを背負わせてしまった。……でも、きっと未来では皆を守れるくらいに強い隊士たちが入ってくる。………隊長だけじゃない。……皆が強くなるから……」

「今、目の前にいる隊士は楪だ!!」

「隊長……、わたしは、一番隊が大好きです。………だから、わたしがしんでも………」

「そんなこと……言うな、頼むよ……。

 大丈夫だから、」


 頼むから。羅刹の魔力が完全に体内から消滅し、ただの京月亜良也として言葉を紡ぐ。


「起きてくれよ、楪……」


 楪の声は聞こえなかった。


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