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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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30 「京月の叫び」

 

 京月とレオナの戦いは続く。


「紅蓮!!!!!!!」


 京月の赤々と燃える炎を纏った斬撃が初めてレオナに直撃する。だが、レオナの体は他の魔物とはどこか違う特別さを感じさせた。斬撃を受けた胸部がすぐに再生する。


 体を再生する魔物となれば、中級でごく稀、上級にもなると大半がそれに当てはまる。しかし、レオナはそれらの再生とは違った。再生速度が異様に早かったのだ。斬った瞬間にはもう再生しており、斬っても斬っても、レオナの死が見えないでいた。


レオナの魔力がぐん、と今以上に膨れ上がったかと思えば、一瞬にして大地を抉りとるほどの衝撃が京月のいる場所を襲う。砂埃で一面が白く染まった中で、京月はその重い衝撃に耐え切れず吹き飛ばされ楪の後方の木に激突する。


 大きな衝撃が轟き、木の下にずるずると沈む。京月の内臓からの出血は更に増し、呼吸が乱れ始めていた。


「ぐ、ぁ"ッ」


 その口から大量の鮮血が吐き出される。だが止まらずレオナの魔力が再び膨張したかと思えば、レオナの魔法が上空より一気に降り注ぐ。京月と楪を除いた隊士達に降り注ぐそれは一瞬で隊士の骨をも残さず消し去ってしまった。


 楪が治癒にあたっていた隊士の血が顔に散る。

 そんな想像を絶する程のレオナの強さに呆然とした楪のすぐ前に距離を詰めたレオナが楪へ攻撃魔法を向ける。


「……くッ!!」


 ギリギリで楪が刀を抜いて受け止めるが威力の強さが今までの魔物より桁外れに強く、流しきれない。刀が弾かれそうになった時、炎の斬撃が二人の間に飛び込んで地を別つ。


 立ち上がった京月が刀を握り直し、レオナに再び斬撃を飛ばし、同時に炎を纏いながら瞬時に距離を詰めてレオナの右腕を斬り落とす。京月から距離を取ったレオナだが、その時には既に右腕は元通りに再生していた。


「息が乱れているなぁ、京月?」


 息が乱れていることをレオナに指摘されるが、聞き入れる余裕など無い。


「げほッ、ッう"ぐ」


 京月は潰れかけた内臓からの出血が酷く、今まで感じたことのない痛みが襲っていた。それを必死に堪えてレオナを見据える。だが、魔力にはなんの変化も気配もみられなかったが、一瞬で京月はレオナに背後を取られてしまった。瞬時に振り返りながら距離を取り、その体を斬ろうとしたが、斬ったのは風だった。


「何を斬っているんだ?」


 背後からレオナの声がしたと理解した時にはレオナの魔法攻撃が腹部を貫いていた。潰れかけていた内臓が完全に潰れる。


「ぐぁ"あ"あ"ッ!!!!」


 意識を飛ばしそうな程の激痛に目を見開き、口からは大量の鮮血が吐き出される。とめどなく血が溢れるが、歯を食いしばって刀を握りしめる京月。呼吸が乱れ、上手く呼吸できない。

 片方の肺が裂け血が入り、呼吸することにも激痛が伴う。京月の全身から冷や汗が流れる。炎の魔力を持ちながらも、一気に体が寒さを感じ出す。炎の魔力が弱まっていく。それでも絶対に諦めなかった。自分の隊士を守り抜くために。


「あ"ああ"ああああああ"ああああ!!!!!」


 ビリビリと京月の叫びが轟く。京月の全身からは魔力が曝け出される。楪も、そんな京月の姿を見たのは初めてで、全身がビリビリと痺れる。


灼火陽炎しゃっかようえん!!」


 京月の刀を中心として大きく爆ぜた炎が環状に噴き出す。三つの炎の円が重なった瞬間、大きな円となり爆発した炎が最大の威力のままレオナへ向かった。


「へぇ、これはなかなかのものだな。これが隊長レベルか」

「俺の後ろには、何が何でも守り抜かなきゃならない隊士がいるんだ!!」


 レオナは余裕な表情で京月の攻撃を自ら受ける。爆炎が晴れると、左半身をほぼ失ったレオナの姿がそこにはあった。

 そしてそれを理解し終わる前に完全に再生したそれは恐怖すら感じさせる笑みを浮かべ京月に一瞬で距離を詰め、魔法攻撃を向けた。

 京月に死が見えた瞬間だった。


 ✻✻✻


 京月へ向かう死を、大きな魔力が弾いた。


龍泉蛇腹りゅうせんじゃばらッッ!!」


 その二人の間を凄まじい勢いで毒の龍が走る。距離を取るその足元には毒蛇がうねり、そこから空に飛び上がるレオナを毒龍がどこまでも追いかけていく。

 四龍院と不破が援護で遅れて到着する。四龍院が割って入っただけで、体が後ろに倒れて尻もちをつく程に京月は重傷だった。


「京月、大丈夫…………か、……は?」


 冷や汗を流しながら吐血し、腹部を貫通するほどの深い傷を負っている京月の姿に四龍院が言葉を失う。


「た、隊長…………っ!その傷……っ!」

「大、丈夫だ。問題、ない。」


 口から血が溢れ、痛みで表情が歪む。


「ッ、四龍院隊長!!」


 不破と楪が叫ぶ。レオナの魔法が四龍院へと飛び、それを咄嗟に避ける。避けたが、威力が強すぎてその風圧で四龍院の体は軽々と飛ばされてしまう。


「うおっ!!?」


 地面に着く前にレオナが一瞬で飛びかかる。しかし四龍院は魔法を放ち回避する。


蛟竜毒蛇こうりょうどくだ!!」


 吹き荒れた毒がレオナを包む。四龍院の黒い手袋からのぞく腕が紫に変色していく。


「毒を抑えろ、伊助!お前の体が持たないぞ……!」


 京月が苦しげに血を吐きながらそう叫ぶ。地面に着地してすぐさま距離を取ろうとした時、毒の海から無傷で出てきたレオナの魔法が四龍院のこめかみを掠め、掠めただけでも凄まじい衝撃に耐えきれず地面に押しつぶされそうになるが、なんとか耐える。


 重い衝撃で地面に亀裂がはいり、圧で鼻血を流す四龍院。

 至近距離に近づいたレオナへ再び毒を向けるとレオナが瞬時に距離を取る。毒に触れ、溶けた目でさえ瞬く間に再生する。


「バケモノめ……!」


 レオナが再び京月の背後に瞬間移動する。そこで大きく爆ぜた炎が当たりを揺らす。


「紅蓮・煉獄鳳凰ぐれん・れんごくほうおう……ッ」


 京月の全力の一撃がレオナに直撃し、ついにその頸を斬り落とすことができた。しかしそれもすぐに再生してしまった。もはや絶望しかそこには無かった。

 今までとは違う魔物に冷や汗を流す四人。再び魔法攻撃を向けるレオナの攻撃を防ごうとした京月の意識が一瞬揺れ、出血が多すぎた影響で視界がぼやける。


「亜良也ッ!!!!」


 その隙を突かれそうになったが、間一髪のところで四龍院が間に入り京月を庇う。なんとか受け流せたが衝撃による突風で京月が吹き飛ばされ、不破がそれを受け止める。


「京月隊長……っ!!ッ!四龍院隊長!!!!」


 四龍院へ重い攻撃を直撃させたレオナが一瞬で距離を詰め、当時入隊一年目だった不破を狙う。はやすぎるその攻撃は、防ぐだけで手一杯で攻撃など、出来るはずがなかった。まだ習得中の結界がはじかれ、不破へと攻撃が当たる直前に京月が不破を突き飛ばす。


 不破を庇った京月がギリギリで攻撃を避けるが、もうろくに動くこともままならず、その場で崩れ落ちるように膝をつく。腹部からは止めどなく血が溢れ出す。更にレオナが京月に攻撃を向けたところに雪の斬撃が飛び、斬撃が吹雪のように強く、吹き付ける。


「白雪!!」


 白く染まった刀でレオナの攻撃から不破と京月を庇う。


「フン、なかなかの魔法だが、全て俺には及ばない。……あぁ、どうしたものか。戦いとはこうもつまらない物だったか」


 刀を構えた楪の肩を見えない斬撃が斬りつける。


「い"ッ、ぅぐッ!!」


 いきなりのことに反応することができずに強く吹き飛ばされ、受け身も取れないまま地面に体を打ちつけた楪。そこにレオナが再び攻撃を直撃させる。


「ぁ"あ"あぁあ"!!!」

「つまらん。」


 そうレオナが言う。京月の目の前で、楪、四龍院、不破がどんどん傷ついていく。内臓は潰れ、肺は片方が裂け、腹には穴があいている。そんな状態で、楪に向けられた一撃を庇った。


「つまらん」


 レオナがそう言いながら向けた攻撃を受け止め、炎の斬撃を直撃させる。その京月の斬撃はレオナの両腕を斬り落とす。だが、斬り落とすと同時にレオナの魔法がさまざまな方向から刃に直撃し、刃が折れてしまった。今度こそ、死ぬ。京月が、死ぬ。一番隊隊長ですら、敵わない。誰もがそう理解した。


「楪……!逃げ、ろ……!!」


 京月は血を吐きながら楪に途切れ途切れの言葉を向けるも、楪はその言葉には従わず京月の体を突き飛ばした。その楪の行動に京月の瞳が見開かれる。


「楪…………?」


 楪の体にレオナの攻撃が直撃する。肩から腰にかけて大きな斬撃。そして溢れる大量の鮮血。京月を庇ったことでレオナの攻撃をその体に浴び、楪は血を吐いて倒れていく。


 レオナはそんな楪から距離を取り両腕を再生させていた。

 そんなレオナのことなど気にせず京月が楪を抱き起こす。


「楪!!!!」


 痛みに顔を歪める楪は浅く荒い呼吸で、その口からは大量の血が溢れ出ていた。


「う………………っ」


 ごぽっ、と口から血が溢れ、京月の羽織を楪の血がべっとりと染め上げていた。


「雪乃……!!」


 京月の必死な叫びに、じわ……と楪の目尻に涙が浮かんで頬を伝う。


「師範…………ごめんなさい…………」


 痛みで辛いはずなのに、悔しそうな顔をして泣きながら謝る楪。


「なんで…………っ、もういい喋るな、」

「師範の方が重傷ですよ…………」


 そう苦しげに薄ら目を伏せながら言う姿を見た京月の瞳からは涙が溢れて止まらない。


「大丈夫、大丈夫だから……なぁ、絶対、大丈夫だから。ッ、」


 その間にも、レオナの攻撃を四龍院と不破が食い止める。


「なにも、できなくて…………ごめんなさい………………」


 更に楪の口から血が溢れる。


「そんなの、」


 京月の瞳からボロボロと涙の雫が零れ落ちる。ドンッ!!という轟音と共にハッとして振り返ると、不破と四龍院が遠くの斜面へ吹き飛ばされ、強く沈んでいた。大量の鮮血が二人の口から吐き出される。


「た、隊長、私は…………大丈夫。大丈夫だから、四龍院隊長達を………………」


 涙を流しながら震える声で京月に言う。


「俺は…………」


 涙が楪の頬に落ちる。そんな時、あまねの声が京月の脳裏に蘇る。


『君はその力で、大事なものを守るんだ』


 京月は母を殺した父に、覚醒した魔法と剣術で打ち勝ち、そうして四歳にして家を出た自分が何年もの間独りで盗賊などを相手にしてさ迷っていたところをあまねに助けられ、国家守護十隊に入隊した時のことを思い出す。


(あぁ、なんで俺は国家守護十隊に入ったんだ……。この、世界を……大切なものを、護るためだ)


 楪や皆を護るという強い思いと、あまねに誓った忠誠が限界を超えてなお京月の魔力を爆発させた。意識を失いかける楪をそっと寝かせて、京月はレオナの前で刀を構えた。


 自分に剣術を覚えさせようとした父に毎日読まされた京月家の剣術指南書。その剣術を使うようになったのは家を出てからで、ほぼ京月の剣術はそれを超えた自己流のものとなったが、ただ唯一、最後に勝手に見た指南書の最後の頁。


 京月家に伝わる剣術の中の禁術はそれを超える剣術を身につけることが出来なかった。そして、強すぎるが故に、扱いきれないでいた。


 だが、京月は最後の一撃をそれに賭けた。限界を超えた魔力の圧が自身の体に重く伸し掛り負荷をかけていく。吐血し、腹部からは大量の血が溢れる。


 それでも、京月は止まらなかった。

 京月の限界を越えた更にその限界の先。最後の一撃が放たれる。日本帝国最強と名高い剣術の名家京月家に伝わる剣術の中でもただ一つ秘匿されて来た最終奥義。


紅蓮羅刹ぐれんらせつ

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