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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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27.5 「でんでん丸とエセルヴァイト」

 

 ぐしゃぐしゃと何かが潰れる音がした。すっごく痛い。でもすぐに何も聞こえなくなって、痛みも無くなった。


「ん?あれ?俺様死んだのか??」


 キョロキョロと辺りを見渡そうとした時、羽が誰かにぶつかる。


「驚いたな、まだ君は死んでいないよ」

「わっ!?……って、オマエは、……………………えーと、……うーん?」


 でんでん丸が名前を思い出せず唸る様子を見てぶつかった男は笑みを零す。


「俺はエセルヴァイト。三番隊隊長だ。君は確か、でんでん丸だったかな?以前あまねの屋敷で会ったな。氷上翠蓮の伝令蝶だろう?」

「おう!そうだぜ!なんだオマエ翠蓮のこと覚えてるのか??」


 そう言えば、男は先程よりも楽しそうに笑う。


「俺に気付かれるとは思いもしなかったからね。俺にとってあの子は興味を引く存在だ、それだけじゃなくあの子は強い、これからの活躍が期待出来る」


 でんでん丸は男の言葉を聞いてうんうんと羽をバタバタさせて喜んだ。だが、少ししてでんでん丸は羽をしょんぼりと下げる。


「……どうやら、君が俺のところに飛ばされたということは悪い事態になっているようだな」

「そーなんだ!翠蓮がっ!翠蓮が……!俺様翠蓮の伝令蝶なのに、あいつを独りにしちまったんだぞ〜〜〜!!!」


 そうして泣き喚くでんでん丸を見て、エセルヴァイトは何かを考える素振りを見せた。


「……悪いが、その場に俺が助けに行くことは出来ない」

「なんでなんだ!?翠蓮が、アイツが死んじゃうかも知れないんだ!!」


 羽をバタバタしてエセルヴァイトに鱗粉を撒き散らそうとするでんでん丸。だが、続いたエセルヴァイトの言葉がでんでん丸を止める。


「俺が助けに行くことはできない。俺には俺のやらなければならないことがある。だが、君は知っているはず、隊にいるのが最強だけでは無いことを」


 でんでん丸は、そうして"最恐"を思い出す。


「あまねならば、きっと俺よりも君たちの力になれるだろう。俺はあまり表立って動けない。だが、きっと君たちの役に立てるように動いていく」


 そう言ってエセルヴァイトはその力をでんでん丸に向ける。


「~~……の祝福を」


 小さな声で呟かれたその言葉の全てを聞き取ることはできず、でんでん丸はその力がなんたるかを知らない。だが、内から感じる温かい力からはまるで希望そのものかのような眩い光を感じた。


「君たちならきっと、大丈夫。俺はその先を信じている」


 そう言ってエセルヴァイトはでんでん丸をその指先に乗せて、どこかへと飛んでいく。その先の空間に目的の人物以外いないのを確認し、足を降ろせば、目的の人物であった朱雀あまねが少し驚いたようにしながらも慣れたように声を向けた。


「エセルヴァイト、本当にいつも急に来るね。……あれ、でんでん丸?」


 エセルヴァイトの指先に止まるでんでん丸に目を瞬くが、続く言葉を遮って、あまねの元にでんでん丸は飛び込んだ。


「あまねっ!翠蓮を助けてくれーーっ!!」


 そう叫びながらバタバタとあまねに突撃するでんでん丸。


「わっ、でんでん丸っ??ちょ、ちょっとどうしたの?わぁ、いて、いたたっ!?でんでん丸っ?ちょっ、いたたたっ!どうしたの!?」

「うわぁぁぁぁああああん!!翠蓮がぁぁぁあ!うわぁぁあん!」


 泣きじゃくって返事にならない返事を返しながらもでんでん丸はあまねに飛びつくのを辞めない。そんなでんでん丸をふわりと何かの力で引き離したエセルヴァイトが口を開く。


「でんでん丸が俺のところに飛ばされてきた。……力の残穢からして、あまねが今追っている魔天の神が関与しているもので間違いない。あまねが持つ力なら抑えられるはずだ」

「魔天か。……翠蓮たちのところに現れたんだね」

「世界の崩壊の原因となり得る力。今回のものはそれでは無いが、人類改造計画の原因となった力の派生的なものだろう。俺の干渉外のものだ、あまねはどうする?」


 エセルヴァイトの言葉にあまねはひとつ息をついて立ち上がる。


「そうだね、今回は僕が動こうか。政府への責任説明は後で良い。でんでん丸、教えてくれてありがとう。君は翠蓮の立派な友達だね」


 あまねはそうでんでん丸に言葉を向けると、そこでエセルヴァイトと別れて絶望の淵にいた翠蓮たちの元へと飛んだ。でんでん丸はあまねの魔力の中に飛込み、共に転移する中で最後にエセルヴァイトの方を振り返る。どこか遠い目をするエセルヴァイトを見て、でんでん丸は素性不詳である彼は一体何者なのかと考えたが、結局答えは見つからなかった。

 そうしてエセルヴァイトの元に飛ばされてからの内容をでんでん丸は京月たちに伝える。一体エセルヴァイトは何者で、何を探しているのか。あまねに聞いても、その答えは聞き出せなかった。

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