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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

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27 「戦いの後で」

 

 翠蓮が目を覚ましたのは、全てが終わった後だった。自分の知らぬところで何だか大変なことが起きていたのだと、桜の話から分かり、そんな大事な時に自分は呑気に寝ていたのかと、翠蓮は自分の力不足を悔やんでいた。

 あの後、戦いは終結し、準一般隊士やその他の一般隊士は各自隊舎や本隊基地などに戻り、四龍院、礼凛、桜の三人は総隊長と共に一番隊本隊基地にしばし滞在することとなっていた。

 翠蓮が目を覚ましたのは本隊基地の自室。まだ必要最低限の備品しか無い殺風景な部屋だが、それでも翠蓮からしてみればどれもが高級品であり、使うのが申し訳無いくらいだった。翠蓮は起きてすぐに、京月たちがいるであろう共用スペースの休憩室へと向かう。


「あ、翠蓮ちゃん…………。今は、その……やめておいた方が……」


 桜が戸惑いながらもそう言ったが、翠蓮がそれに気付いた時には、既にその光景を目にしていた。


「隊長のバカーーッ!!この、朴念仁!!わからず屋!!!このっ、口下手!!アホ!!!」


 そう大きな声で叫ぶ不破と、その不破の目の前には京月がいて、二人はどうやら言い争いをしているようだ。礼凛もどこか不機嫌そうな様子で四龍院の前に立ち、四龍院は気まずそうに顔を逸らしていた。


「どっ、どういう状況……??」


 翠蓮がそう言った瞬間今の今まで言い争いをしていた不破と京月の二人が一気に振り向いたかと思えば、ずんずんと翠蓮の元に近寄ってくる。無言で近付いてくる二人の圧に、逃げ出したくなる翠蓮が身構えたところで、二人は翠蓮の頭をわしゃわしゃと撫で回し始めた。


「わっ!えっ!?ちょっと、どうしたんですか二人とも!?」


 翠蓮がそう言うが、二人はただひたすらに頭を撫で回し続け、遂に禿げてしまうのでは?と思い始めたところで漸く解放されて、翠蓮がどうしたのかと二人のことを見あげてみれば、もうそこにはたった先程まで言い争いをしていたとは思えないほど、優しい表情をした二人がいた。桜が止めに入ったことで、礼凛の機嫌も落ちついたようだ。

 京月がもう一度、今度は優しい手つきで翠蓮の頭を撫でる。


「あーっ!隊長ずるいずるいずるい!俺も氷上ちゃんのこともっと褒めたいのにーっ!ちょっとそこ変わってくださいよ!」

「嫌だ」


 そう言って京月は翠蓮の頭を撫で続ける。


「あ、あのっ、京月隊長……??一体なにを??」


 翠蓮はなぜ自分を撫でるのか、不思議そうな表情で頭を撫でてくる京月を見上げる。


「今回もよく頑張ったな、氷上が繋いでくれたから俺はあいつを斬ることができた。流石一番隊の隊士だな」


 そう言ってくれる京月や、翠蓮を褒めたくてうずうずしている不破を見た翠蓮はそこで漸く張り詰めていた気持ちが解けていく。突然ぼろぼろ涙を流し始めた翠蓮に慌て出す京月と不破。


「お、おい?なんで泣く??どこか痛むのか?」

「氷上ちゃん!?どどどど、ど!?どしたの!?」


 翠蓮はぼろぼろと溢れて止まらない涙を必死に止めようと手で擦りながら口を開く。


「で、でんでん丸がぁ〜〜〜!!!」


 わっと泣き出してしまった翠蓮の手が瞳を傷つけないように優しく掴んで下げさせると、京月は翠蓮にそれを伝えようとする。だが、丁度そのタイミングで声がした。


「なんだ〜??おい翠蓮!俺様を呼んだか〜??」


 はた、と翠蓮が丸く目を見開く。

 休憩室に現れたのは紛れもなくでんでん丸で。翠蓮は問いかけるように名前を呼ぶ。


「で、でんでん丸……?」

「おうよ!!ってなんで泣いてんだ!?俺はオマエをそんな弱っちく育てた覚えはないぞ!?」


 翠蓮が泣きながら言葉を漏らす。


「うぅ〜〜!でんでん丸に育てられた覚えないよ〜〜〜、うぇぇ〜〜〜ん」

「わ、わかった!わかったから泣くんじゃねぇ!あ!もしかしてオマエが翠蓮を泣かせたのか!?」


 そう言ってでんでん丸は京月の頭を羽でバタバタと叩き始める。


「は、おい、俺は泣かせてないぞ。いてっ、うわ!おいやめろ!」

「うるせ〜〜〜!翠蓮を泣かせるやつはこうだからな!!」


 ようやく落ち着き始めた翠蓮は、まだまだ京月を叩き続けるでんでん丸にギョッとしてすぐにでんでん丸を捕まえる。


「ち、違うよでんでん丸!わたしでんでん丸が死んじゃったと思って……!……ちゃんと生きてるの??」

「なんだ俺様が泣かせてたのか!?俺様さ、ほらこの前総隊長の屋敷で会った変な奴……誰だっけ??んー、まぁとりあえず死んだと思ったらそいつのとこに飛ばされたんだ!」


 京月やその場で静かにでんでん丸と翠蓮の話を聞いていた四龍院達は誰のことを言っているのか分からずにいたが、その場にいた桜はそれに気付いた。


「あっ!三番隊隊長のこと??」


 そう言った桜と同じで翠蓮もその名前を呟く。


「エセルヴァイト隊長のとこに飛んだの!?なんで!?」


 翠蓮たちは何事も無いように話しているがその名前はそこにいた隊長、副隊長にとっては衝撃な発言だった。


「「エセルヴァイト!!??」」

「「エセルヴァイト隊長!!??」」


 それもそのはず、今まで一度も隊に姿を見せなかった三番隊隊長の名前が出たのだから。翠蓮はそこで秘密にしておいてくれると助かる、というエセルヴァイトの言葉を思い出す。


(あっ、ごめんなさいエセルヴァイト隊長……)


 そんなことはさておき、でんでん丸とエセルヴァイトに一体何の関係があったというのか。


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