表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
帝都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/148

26 「朱雀あまね」

 

 突然現れた京月の兄だという総司と、六華と呼ばれる女の子の姿に、京月を除いたその場にいる全員が状況を理解出来ずに佇んでいた。


「なにしにきた、六華」

「だって暇だったし、わたしもまざりたいな〜って」

「お前が入ったら面倒くさいからやめろ」


 そう会話を交わしながらも、総司は京月の刀をひょいひょいと軽く躱し続け、遂には足でその刀を止めてしまった。


「はいはい、お前が俺に刀で勝てる日はまだまだ先みたいだな」

「黙れ、ここに魔天が何しに来た」

「……ジェイドから聞いたのか。なにって、国家守護十隊がどんなもんか様子見だけど。……まぁもう良いかな。四龍院家の隠された力を見てみたかったけど、使ってくれなさそうだし」


 総司の言葉に四龍院の纏う空気が張り詰めるが、総司はそれ以上触れることなく。そうして総司は国家守護十隊と戦いたくてうずうずしている六華を、半ば強引に引きずりその場を離れようとする。

 止めようとする京月と、会話の雰囲気から危険人物だと認識し四龍院達も二人を警戒する。

 しかし、六華の魔力か何なのか、先程デルから感じたような、どこか異質な力が一帯に蔓延したと同時にその場から動くことができなくなってしまった。


「……、」


 そして京月は外にいた隊士達が戦闘を始めたこと、新たな魔物の気配に気付き、これ以上二人を追うことは不可能だと判断する。


「お前は、なにをしようとしている?」


 最後に一言、京月は総司にその言葉を向ける。


「……さぁね」


 答えになっていない答えが返ってきたが、それと同時に大きな力が降りかかる。先程まで感じていた不気味な力より更に不気味さを増したその力。


「何だこの力は…………、」


 四龍院がそう言うのも無理はない。

 六華はそれを『神の力』だと言った。


「神の力だとかなんとか、どう信じろって言うんだよ」


 不破がそう声を漏らした時、凄まじい力の一閃が降り注ぎ、六華と総司がため息をつく。


「ああ!勝手に来たから怒ってるじゃん、そーじのせいだよ!!」


 そう言う六華に総司が怪訝な顔をする。


「勝手に着いてきたのはお前だろ。とにかく戻るぞ。そろそろ時間だ」


 降りかかる力の一閃は徐々に力を増すが、何かに弾かれているのか実際的な被害は無かった。だが、遂に誰が見てもわかるほどに大きな力が天空より溢れ出し、一直線に京月達のもとに降りかかろうとした。本当に神の力だとでもいうようなその天空からの力。

 この状況でもどんどん肥大するその力を前に作戦を立てる時間など無く京月達はただただ『逃げろ』と外の隊士に叫ぶ。外にいた隊士達もそれを聞いて動こうとするが、天空からの力で魔物が強化されていき、先程のデルが召喚した魔物とは比べ物にならない程の力に、為す術なく神の力により殺されるのを待っていた。遂に城の空間魔法も消滅し、その場に取り残された京月達。

 広範囲に広がる天空の神の力を前に逃げることはできない。そう気付いてすぐに、四龍院は自分の隊士達のもとに走り、今できる最大の魔力を解放し、京月も不破と翠蓮の前で自分の中で最大の力を刀に乗せる。

 その様子を上空に浮いたまま見つめる総司と六華。


「ねぇ、話さなくていいの?そーじが家を出た理由」

「なに、珍しいね。俺の心配してくれてんの?」

「意味わかんないんだけど。わたしはただ元気無いそーじは張合いなくてつまんないからイヤなだけだし」

「はいはい。ん、でもまだ今はその時じゃない。まだ、亜良也にはやってもらわなきゃならないことがあるからな。その為に六華、お前が必要なんだ」


 そう言いながら総司は翠蓮達の前で刀を持つ京月を見て小さく微笑んだ。


「大きくなったなぁ。あいつに似なくてよかった」


 そして、天空から今にも放たれようとする巨大魔法を前に呟く。


「死ぬなよ、亜良也」


 総司のその言葉、そして彼には何が隠されているのか。総司が呟いたその言葉は京月には届かない。だが、兄としての愛が確かにそこにはあったように思えた。そうして遂に放たれた巨大魔法。

 この周囲だけでなく、世界一帯を支配するかのように広がる力を前に、深い苦しみと葛藤の末、京月は二度と使わないと決めた剣術の構えを取り、四龍院はその顔を隠す布の紐に手をかけた。


「「隊長っ!!!」」


 自らの命を盾にして前に立つ隊長へ二人の隊士が止まるようにその名を叫ぶが、彼らは止まらない。自分が育て、未来へ連れていくと決めた隊士達をここで死なせることなどできなかった。未来を信じて、二人は前に立つ。誰もが迫り来る力と、隊長に迫り来る死の予感に恐怖した時、よく知った声が響いた。


「うちの子たちに、何をしようとしているのかな」


 その声で、京月は刀を持つ手から力が抜け、四龍院は紐から手を離す。そしてその一帯に隊士達の大きな声が響き渡った。


「そ、っそ、そ総隊長っっ!!!??」


 笑みを浮かべる朱雀あまねの魔力は、放たれた天空からの巨大魔法を止めるだけでなく、そのまま消滅させてしまう。


「総隊長……」


 京月と四龍院の声に気付くと、あまねは優しい声を二人に向けた。


「隊長として立派に隊士を守ろうとしてくれたんだね。ありがとう、二人とも」


 突然降りかかった力に、隊士達の前に立つしかできなかったのだと、二人は言葉に詰まる。


「ありがとう。もう大丈夫だから、全員下がってて」


 二人を含めたその場の全隊士にそう告げると、あまねは皆の前で天空を見つめる。天空は再び力を増幅させ、今度はあまねに向かって一直線に放たれる。


「総隊長っっ!!!」


 隊士達の声が響く中、離れた上空から様子を見ていた総司と六華。


「うわ、わたし総隊長初めて見た!かっこいいね、すきかも!」


 そう言って、欲しい欲しいと総司に駄々を捏ねる六華に総司が呆れたように言う。


「やめとけ、朱雀あまねはまじでぶっとんでる。亜良也が隊最強なら、あいつは恐い意味での最恐だ」

「最恐??なんで??」

「見てろ、あいつは俺らの天敵だ。」

 

 なんせ……


『ボスと同じ神の力を使う男だからな』


 朱雀あまねが遂にその魔力を解放する。不気味さを感じさせていた力と似たなにかを感じるが、決して不気味さの無い青く澄んだ力。


「なんだあの魔法…………」


 天空より国家守護十隊に向けられる巨大魔法は空を黒く染め尽くしていた。だが、朱雀あまねの魔法は光となり天空を支配する。礼凛が総隊長の魔法のみならずその魔力に目を見開いた時、四龍院が口を開く。


「あれが、総隊長の魔法……原初天空魔法。原初の神の力より生まれた魔法。総隊長にふさわしい魔法だ。あの魔法以外に、神の魔法など存在しない。奴らが言った神の力など、所詮はまがい物に過ぎない」


 隊のトップにふさわしいと、誰もがそのあまねの魔法に身震いする。


「僕の前で神を語る行為ほど、愚かなことは無いよ」


 あまねがそう呟いた時、もう天空からはなんの力も感じられなかった。気付けば総司と六華も姿を消しており、その場は国家守護十隊により守りきることができた。総隊長はぱっと笑う。


「さ、帰ろうか、みんな。」


 誰もがその背中に憧れている。

 これが国家守護十隊最恐と言われる総隊長……朱雀あまねである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ