表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
一番隊入隊編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/148

1 「一番隊入隊」


 令明二十三年。


「これより、国家守護十隊(こっかしゅごじったい)の入隊試験合格者を発表する」


 国家守護十隊の隊士である男が、その場を制するような声で式を進めていく。

 自信に溢れる者や、不安に震える者など、さまざまな感情が交錯するそこは、政府により国家守護十隊の入隊試験時のみ使用が許可された、本部地下の専用基地である。


 一年に一度行われる入隊試験。設立から五年を迎えた国家守護十隊は、着実に地盤を固め、実績を重ねてきた。

 毎年、世界中から入隊希望者が集うが、その試験の厳しさに崩れ落ちる者は後を絶たない。


 試験には役職を持つ隊士も同席しており、その姿を一目見たいがために軽い気持ちで参加し、現実を突きつけられる者も多かった。


 中でもひときわ異彩を放つ二人。


 総隊長・朱雀(すざく)あまねと、設立当初から所属する一番隊隊長・京月亜良也(きょうげつあらや)、そして二番隊隊長・四龍院伊助(しりゅういんいすけ)である。


 国家守護十隊の中でも一、二を争う実力を誇る彼らは、隊の関係者のみならず一般人からも絶大な人気を誇り、多くの受験者が彼らの隊を目指して試験に臨んでいた。


 五年間で試験受験者は延べ十万人。

 一次試験は書類審査、二次試験は魔法適性の測定。そして二次試験通過者のみが挑める最終試験は、本隊の一般隊士との実戦だ。


 国家守護十隊は一番から十番隊まで存在し、一から五番隊には隊長・副隊長の役職者が在籍する。

 六番隊以降は一般隊士のみだが、その実力は並大抵ではなく、合格者でもかすり傷を与えるのがやっとだ。


 五年間で入隊を果たした者は、わずか百名ほど。十万の中から選ばれるのは、ほんの一握り。

 さらに、入隊時から上位五隊に配属された者は、設立直後に総隊長に見込まれた者を除き、これまで存在しなかった。


 ――だからこそ、今年の結果は異例だった。


氷上翠蓮(ひがみすいれん)神崎桜(かんざきさくら)一条花(いちじょうはな)。以上三名の入隊を認める。なお、総隊長の指名により、三名は上位五隊いずれかへの配属を、この後行われる会議で決定する」


 例年よりもさらに少ない合格者数。そして全員が上位五隊行き。

 名を呼ばれなかった不合格者たちの様々な視線を浴びながら、選ばれた三人は新たな道へと足を踏み出した。


✻✻✻


「答えろ。お前は何者だ」


 背中に走る激痛。燃えるような赤髪を後ろで結った長髪の男が、美貌からは想像できないほどの力で、翠蓮を床に押し倒す。

 身動きの取れない状況に冷や汗を流しながら、彼女は口を開いた。


「えっ……と。一番隊の……新入、です」


 男の眉が寄る。


「はぁ?」


 暗い青の瞳で睨まれ、今にも泣き出しそうになったその時――


「氷上ちゃーーん!!ごめーん、待たせた〜!!」


 勢いよく扉を開けて入ってきたのは、紫の髪を後ろでハーフアップにした男。

 入隊後の会議で翠蓮を一番隊に引き入れた張本人、一番隊副隊長の不破深月(ふわみつき)だった。


「あっ、不破さん……!た、助けてくださいぃぃぃ!」


 知った顔を見た安心感から、翠蓮は堰を切ったように涙をこぼす。

 しかし、不破は彼女よりも、彼女を押さえつけている男を見て、黄色い瞳を見開いた。


「あ……か、帰ってたんデスネ……京月隊長…………」


「任務で出られない俺の代わりに会議に出ろとは言ったが……、まさか隊士が増えてるとはな。なぁ? 不破ァ」


「ひぃぃっ!す、すみません隊長!!」


「選べ。斬られるか、燃やされるか」


「どっちにしても死ぬじゃないですか!?総隊長も許可してくれたんだからいいでしょ!?」


 総隊長という言葉に、京月の動きが止まる。


「総隊長が?」


「はい……!今回はうちだけじゃなくて、二番隊と三番隊にも新人が入ったんです!」


 不破は続けざまに叫ぶ。


「そもそも!一番の戦力であるはずの一番隊が二人だけってどうなってんすか!?京月隊長がいるから実質一万人みたいなもんですけど、俺だって死にたくないですよぉぉ!」


「……悪かった」


 不破を無視し、京月は翠蓮を起こし、少し乱れた青と白の髪を整える。


「お前、名前は」


氷上翠蓮(ひがみすいれん)です……」


「不本意だが、総隊長の決定に反対はしない。お前は一番隊で何ができる?」


 試すような問いに、翠蓮は真っすぐ顔を上げて答える。

 水のように淡い瞳に、強い意思が宿っていた。


「みんなを守れるくらい、強くなります」


 一瞬、京月の表情が変わる。


「そうか」


 短くそう告げ、京月は隊舎から出ていった。

 呆然とする翠蓮のもとに、不破が笑顔で飛びつく。


「やったぁ! これから仲間だよ〜!」


「み、認めてもらえたんですか……!?」


「あの人、朴念仁だから分かりにくいけど、認めてくれたんだよ! 嫌だったら即追い出す人だから!」


「わ、私……国家守護十隊に……」


 噛みしめるように呟く翠蓮に、不破は優しく微笑む。


「国家守護十隊、そして一番隊の仲間だよ。改めて、よろしくね」


「よろしくお願いしますっ!」


 これが、一番隊隊士となった翠蓮の始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Xからきました! ヘビーなエピローグから、この先どうなるんだろうというワクワクで読みましたが、まさかの総隊長……! 文章は読みやすく、長さも丁度良くどんどん読み進められる作品だと思います!ブクマさせて…
Xから来ました 大正時代な時代背景、素敵ですね。 1番隊への入隊を決めた水蓮さんの実力も気になります。 不破さん、実はいい人なんですね^^ 皆様個性が豊かで魅力的だと思いました。☆評価させていただきま…
Xから来ました。 設定がよく練られているのが、既にわかります。 めちゃくちゃ面白そうです! 文体も読みやすくて、スイスイ読んでいました。 あと、不破のハイテンションが個人的に好きでした! 面白くて、続…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ