1 「一番隊入隊」
令明二十三年。
「これより、国家守護十隊の入隊試験合格者を発表する」
国家守護十隊の隊士である男が、その場を制するような声で式を進めていく。
自信に溢れる者や、不安に震える者など、さまざまな感情が交錯するそこは、政府により国家守護十隊の入隊試験時のみ使用が許可された、本部地下の専用基地である。
一年に一度行われる入隊試験。設立から五年を迎えた国家守護十隊は、着実に地盤を固め、実績を重ねてきた。
毎年、世界中から入隊希望者が集うが、その試験の厳しさに崩れ落ちる者は後を絶たない。
試験には役職を持つ隊士も同席しており、その姿を一目見たいがために軽い気持ちで参加し、現実を突きつけられる者も多かった。
中でもひときわ異彩を放つ二人。
総隊長・朱雀あまねと、設立当初から所属する一番隊隊長・京月亜良也、そして二番隊隊長・四龍院伊助である。
国家守護十隊の中でも一、二を争う実力を誇る彼らは、隊の関係者のみならず一般人からも絶大な人気を誇り、多くの受験者が彼らの隊を目指して試験に臨んでいた。
五年間で試験受験者は延べ十万人。
一次試験は書類審査、二次試験は魔法適性の測定。そして二次試験通過者のみが挑める最終試験は、本隊の一般隊士との実戦だ。
国家守護十隊は一番から十番隊まで存在し、一から五番隊には隊長・副隊長の役職者が在籍する。
六番隊以降は一般隊士のみだが、その実力は並大抵ではなく、合格者でもかすり傷を与えるのがやっとだ。
五年間で入隊を果たした者は、わずか百名ほど。十万の中から選ばれるのは、ほんの一握り。
さらに、入隊時から上位五隊に配属された者は、設立直後に総隊長に見込まれた者を除き、これまで存在しなかった。
――だからこそ、今年の結果は異例だった。
「氷上翠蓮、神崎桜、一条花。以上三名の入隊を認める。なお、総隊長の指名により、三名は上位五隊いずれかへの配属を、この後行われる会議で決定する」
例年よりもさらに少ない合格者数。そして全員が上位五隊行き。
名を呼ばれなかった不合格者たちの様々な視線を浴びながら、選ばれた三人は新たな道へと足を踏み出した。
✻✻✻
「答えろ。お前は何者だ」
背中に走る激痛。燃えるような赤髪を後ろで結った長髪の男が、美貌からは想像できないほどの力で、翠蓮を床に押し倒す。
身動きの取れない状況に冷や汗を流しながら、彼女は口を開いた。
「えっ……と。一番隊の……新入、です」
男の眉が寄る。
「はぁ?」
暗い青の瞳で睨まれ、今にも泣き出しそうになったその時――
「氷上ちゃーーん!!ごめーん、待たせた〜!!」
勢いよく扉を開けて入ってきたのは、紫の髪を後ろでハーフアップにした男。
入隊後の会議で翠蓮を一番隊に引き入れた張本人、一番隊副隊長の不破深月だった。
「あっ、不破さん……!た、助けてくださいぃぃぃ!」
知った顔を見た安心感から、翠蓮は堰を切ったように涙をこぼす。
しかし、不破は彼女よりも、彼女を押さえつけている男を見て、黄色い瞳を見開いた。
「あ……か、帰ってたんデスネ……京月隊長…………」
「任務で出られない俺の代わりに会議に出ろとは言ったが……、まさか隊士が増えてるとはな。なぁ? 不破ァ」
「ひぃぃっ!す、すみません隊長!!」
「選べ。斬られるか、燃やされるか」
「どっちにしても死ぬじゃないですか!?総隊長も許可してくれたんだからいいでしょ!?」
総隊長という言葉に、京月の動きが止まる。
「総隊長が?」
「はい……!今回はうちだけじゃなくて、二番隊と三番隊にも新人が入ったんです!」
不破は続けざまに叫ぶ。
「そもそも!一番の戦力であるはずの一番隊が二人だけってどうなってんすか!?京月隊長がいるから実質一万人みたいなもんですけど、俺だって死にたくないですよぉぉ!」
「……悪かった」
不破を無視し、京月は翠蓮を起こし、少し乱れた青と白の髪を整える。
「お前、名前は」
「氷上翠蓮です……」
「不本意だが、総隊長の決定に反対はしない。お前は一番隊で何ができる?」
試すような問いに、翠蓮は真っすぐ顔を上げて答える。
水のように淡い瞳に、強い意思が宿っていた。
「みんなを守れるくらい、強くなります」
一瞬、京月の表情が変わる。
「そうか」
短くそう告げ、京月は隊舎から出ていった。
呆然とする翠蓮のもとに、不破が笑顔で飛びつく。
「やったぁ! これから仲間だよ〜!」
「み、認めてもらえたんですか……!?」
「あの人、朴念仁だから分かりにくいけど、認めてくれたんだよ! 嫌だったら即追い出す人だから!」
「わ、私……国家守護十隊に……」
噛みしめるように呟く翠蓮に、不破は優しく微笑む。
「国家守護十隊、そして一番隊の仲間だよ。改めて、よろしくね」
「よろしくお願いしますっ!」
これが、一番隊隊士となった翠蓮の始まりだ。




