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黎明の氷炎  作者: 雨宮麗
一番隊入隊編

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14 「初めての一番隊隊舎」


 総隊長により件の隊士は朝霧(あさぎり)と同じく殺人、並びに国家転覆扱いで国家守護十隊(こっかしゅごじったい)を追放され、国の警備隊(けいびたい)に身柄を拘束された。

 それにより、政府組織から今ある指令書の一斉点検が入る為、本日、明日・明後日の短い期間ではあるが、隊自体が活動休止日となった。

 その間発生した事件などは基本的に大きなもの以外は準一般隊士(じゅんいっぱんたいし)が当たることとなり、突然のお休みに隊士たちはざわめいていた。

 そして、その後引き続き行われた会議では、人類改造計画の派生組織である『ウロボロス』が帝都攻めを計画している動きを見せたようで、その予定日周辺の対応についての話し合いが行われていた。


 その結果、帝都(ていと)本隊基地(ほんたいきち)を置く一番隊、そして(きょう)より二番隊が参戦し、この二部隊と、準一般隊士、並びに一般隊士合わせた約百名が組織の討伐に当たることとなった。予定されるのは約二週間後の明朝。


 敵組織の情報は少ないが、その組織は大型の魔導飛行船(まどうひこうせん)を所持しているらしく、空からの攻撃が重要視されていた。

 魔物だけでなく、今回は人類改造計画側についた反逆指定魔道士が多数を占めているとされる。


 帝都は大都会で一般人の数も多い。それだけに、総隊長には政府からも重圧がかかっている。当日は一般人に危害が加えられぬよう、不破のみならず結界術の使い手により強大な結界が張られることになっている。

 そのため大きな被害は無いだろうが、魔物などが襲い来る様は一般人からすれば恐怖でしかないのだ。


 いつだって国家守護十隊は完璧な対応が求められる。

 そうして各々配置を決め、そこで会議は終了する。


 京月と不破があまねの屋敷を出たところで、丁度一番隊の隊舎へ帰っているところだったのか二人を見て走り寄ってくる翠蓮(すいれん)


「あ!京月隊長〜!不破副隊長〜!」

「あ!ひがみちゃ〜ん!どしたの〜?」

「不破さん〜!!わたし寝ちゃってて、ほんとごめんなさい!」


 不破に背負われて五番隊舎まで運ばれてきたことを聞いたのだろう。そう謝る翠蓮(すいれん)に不破が笑う。


「あは、そんなこと気にしなくていーよ!」

「ほんとにごめんなさい、あと京月隊長も!」


 京月が目を瞬く。


「俺?」

「はい!あの時は助けて下さりありがとうございました!それと、お二人共、お花もありがとうございました」


 そう言う翠蓮の元気な様子を見て、京月は小さく頷く。


「あぁ、もう大丈夫なのか?」

「おかげさまで、すっかり元気ですよ!今日のもそこまで酷くなかったのでもう大丈夫って言われました!」

「そうか。なら戻るぞ」


 そう言って京月は隊舎へと歩いていく。翠蓮もそれに続くようにして不破と三人で一番隊隊舎へ向かう。


「あ、氷上(ひがみ)ちゃんまだ初日にちょこっといただけで、一番隊舎で過ごしたこと無かったよね」

「はい!ほぼずっと五番隊舎でお世話になってたので……へへ」


 隊舎までの間に、不破が軽く説明してくれる。

 隊舎にはそれぞれ隊士一人に一部屋と、執務室、訓練場、休憩室などがあるそうで、本部で過ごす際は隊舎に寝泊まりすることになるため、浴場や台所まで備え付けられているのだ。


「一番隊は三人しかいないから部屋余りまくってて夜まじで怖いよ。絶対なんかいそうだもんあれ。夜中トイレに起きたら突然お化けが……なんちゃって……って、氷上(ひがみ)ちゃん?」


 大のお化け嫌いの翠蓮は不破の話を聞いてがくがく震える。

 ため息をつきながら不破の頭を叩く京月。


「あいたっ!!」

「なに馬鹿な話してるんだお前は。たく、ほら着いたぞ」

「もー!叩かないでくださいよー!」

「うるさいバカ」


 京月と不破に続いて、翠蓮も中へと足を踏み入れる。翠蓮は、自分も一番隊なのだとそこで口角が上がる。


 隊舎の中は広く、三人だけで使うには勿体ないほど綺麗な建物だった。


「不破、案内任せたぞ。案内終わったらさっきの会議の話するから降りてこいよ」

「はいは〜い、じゃあ氷上ちゃん行こっか!」


 そう言われて、翠蓮は不破の後を着いていく。

 まず一階部分の案内から始まり、入ってすぐ右の通路を通っていけば、広い訓練場があり、そこで任務後などに各自鍛錬ができるようになっていた。

 そして訓練場から戻り、右手には男女で別れた浴場があるため鍛錬後すぐにお風呂に入ることができる。

 その奥には休憩室、台所があり、基本的に本部の隊舎で過ごす時も帝都の基地で過ごす時も週交代で料理当番があるのだそう。

 休憩室の横には執務室があり、大体任務が無い日はここで書類整理をしたりすることが多いという。


「じゃあ二階に行こっか!個人の部屋は全部二階にあるんだけど、全部で十部屋あって、あと七部屋も余ってるから空いてる好きなとこ使っていいよ〜!」


 そう言って二階へ案内された翠蓮は、不破に色んな部屋を見せて貰っていた。どの部屋も広くて綺麗で、翠蓮は一部屋一部屋に目を輝かせていた。


「氷上ちゃんならこの次の部屋気に入りそうだな〜」

「え!どんな部屋ですか!?」

「見てからのお楽しみ〜!ほら、見てみなよ」


 そう言いながら不破が案内してくれた部屋を見て、翠蓮はその美しさに目を瞬いた。一番隊近くに植えられた木々と、美しい空の景色が広がっている。


「わぁ、きれー!不破さん、わたしここがいいです!!」

「ふふ、いいでしょ!ならここが氷上ちゃんのお部屋ね!大体生活できるだけの家具はあるから、後は好きに使ってね。案内するところももう無いかな〜」

「ありがとうございます!!自分の部屋なんてもったことなかったので嬉しいです!」

「ふふ、改めて、これからよろしくね、氷上ちゃん」

「はい!よろしくお願いします!」

「じゃあ、ちょっと話あるみたいだから下にいこっか〜」


 そうして翠蓮は不破と二人で下にいる京月の元へと向かう。


「隊長〜、案内終わりましたよ〜」


 執務室にやってきた不破がそう言うと、京月は先程会議の場であまねから渡された書類をそれぞれに渡す。


「あぁ。氷上、お前は一番隊の本隊基地が帝都にあることは知っているか?」

「はい!」

「予定では約二週間後、帝都に人類改造計画の派生組織の一つが攻め入るという話がある。そこでうちと二番隊に組織討伐の任務が割り当てられた」


 人類改造計画と聞いて翠蓮の手に力が入る。でも新人の自分には何もできないだろうと、悔しさを感じていたとき、京月は言葉を続けた。


「総隊長からは氷上を後方支援にとの声もあったが、俺はお前を最前線に連れていきたい」

「えっっ??わたしが、最前線……?」

「あぁ。判断はお前に任せる。ただ俺は、他の隊士よりもお前の実力が欲しい」


 翠蓮がその言葉に驚きを顕にしていた時、不破も口を開く。


「そりゃそーだよねぇ。新人で禁出二件生き延びただけじゃなく、どっちもしっかり一般人救出って。まじですごいからね。氷上ちゃんってさ、戦いの中で自分を成長させられるすごい子って感じ」


「そういうことだ。最前線には俺と不破もいる。経験を積むなら良い任務だからな。二番隊からは神崎も出るみたいだぞ」


 二人の言葉から伝わる信頼に答えるために、翠蓮は強く頷いた。


「わたしは、最前線にいきます!」


「そうか、総隊長には俺から伝えておく。今日、明日明後日は休みになるそうだからゆっくり休むといい。休み明けには本体基地に移動する」


「はい!わかりました!」


 話が終わって、どこかに行こうとする京月に不破がふと声を掛ける。


「あ、あれ?そういえば隊長、羽織は?」


 不破の言葉にギクリと翠蓮の肩が揺れる。


「ん?あぁ、丁度今から新しいのを買いに行く所だ」


 その言葉を聞いた翠蓮が勢いよく振り返る。


「ぅえ!?」

「ん?なんだ、どうした」

「あ、いや。なんでもないです!」

「そうか?ならいい。じゃあ俺は少し出る」


 そう言って隊舎を出ていった京月。京月が出ていったのを見てどんよりと溶けたように落ち込む翠蓮に、不破がびっくりして声を掛ける。


「えっ、なに、どしたの氷上ちゃん?!」

「ふ、不破さん〜〜〜どうしよどうしよう〜〜〜!!!」

「わ、わ〜!わかった、話聞く!話聞くから泣かないで〜!!」


 そう言って翠蓮の頭をわしゃわしゃ撫でる不破に、翠蓮がぽつりぽつりと話し始める。


「京月隊長が羽織無いの、わたしのせいなんです……」

「えっ、追い剥ぎでもした??氷上ちゃんてば大胆だねぇ」

「違いますよ!?禁出の任務で助けてもらった時に隊長の羽織にわたしの血がべっとり染み付いちゃったみたいで、それで羽織着れなくなっちゃったんです!」


 そこまで言ったところで不破が翠蓮の言いたいことを理解する。


「なるほど?お礼に羽織を買っちゃったわけだ?それで受け取りがまだで、京月隊長にはまだ言えないと!」

「そ、そうなんですよ〜〜〜」


 翠蓮が不破に泣きつくと、翠蓮を妹のように感じている不破はふむふむと何かを考えるように頷き始め、ふっと笑って言う。


「なるほどね、これはお兄ちゃんである不破さんがひと頑張りしちゃいますか〜!」

「……へ?お兄ちゃん?」

「なんとか京月隊長を今日行かないように引き止めてみるから氷上ちゃんは明日羽織を渡すことだけ考えてて!」


 そんな話をしていると、京月が隊舎に戻ってくる。そこでニヤリと笑った不破が京月に声をかけた。


「あれ?隊長なにしてるんですか?」

「忘れ物取りに来た」

「あのー、隊長ー?」

「なんだ」

「ちょっと剣術の稽古付けてくれません?」


 不破から出たその言葉に京月が目を瞬いて、すぐに怪訝そうな顔をする。


「お前……。はぁ……、なに企んでる?」

「えっ!?なんでそうなるんですか!」

「今まで散々嫌がってたやつのセリフだとは思えないな。熱でも出たか?」


 そう言って隊舎を出ていこうとする京月に不破が最後の切り札と言わんばかりに悪い表情で呟く。


「そんなこと言うなら、隊長の伝令蝶の名前みんなにバラしますよ」


 その不破の言葉で京月の動きが止まる。


「お前、まさかとは思うが俺を脅してるのか?ハッ、わかった。良いぞ、そんなにやりたいならいくらでもやってやるよ。行くぞ」


 一瞬にしてやる気、ではなく殺る気を出した京月に不破は(あ、やりすぎた)と気付くが時すでに遅し。

 朝が来るまで京月と不破は訓練場から戻ってこなかった。


 そこまで秘密にしたがる京月の伝令蝶の名前とは一体何という名前なのか?


「でんでん丸は知らないの?」

「殺されたくないから言わないぜ俺様は」

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