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終戦と宣言

「うわ、なんか凄い人数!」

 遅れて記者会見場へ入った――敗軍の将として当然の扱いである――俺は、スタジアムの会議室に集まった報道陣の数を見て思わず声を漏らした。

「(今日でリーグ戦前半が終わりですから)」

「えっ!? どういうコト!?」

 ナリンさんが小声でそっとそう告げると、背後にいたタッキさんが俺とコーチの顔を交互に見回しながら聞いた。

「(メディアの皆さんも、仕事を終えた後はアブリ島で遊んで帰るつもりなんですよ)」

「(ああ、なるホド! それにアローズのセンシャもあるからネ!)」

 それを聞いたモンクは拳ダコのある両手を打ち鳴らし頷く。退場となったユイノさんの代わりにGKとして出場した彼女は最低限の仕事をした。

 つまりボールを破壊はしなかったのだ。代わりに2失点してアローズは逆転負け、敗戦とセンシャでリーグ前半戦を終える事となったのだが。

「ショーキチ監督! ココまでのリーグ戦の総括からお願いできルカ?」 

 そんな事を囁き合いながら椅子に座った俺に、最前線のゴブリンの記者さんから声がかかる。

「え!?」

「それはもちろん話してもらうが、まずは今日の試合からではないかブウ?」

 驚く俺の代わりに中央付近のオークさんが窘める。確か古株フリーランスの……レキッブウさんだ。

「ああ、ソウダ! スマン!」

「気持ちはもうビーチへ向かっているから急いだんじゃないですか? じゃあ簡潔にいきますよ」

「いや、じっくりとナ!」

 そのやりとりで会見場が笑いに包まれる。どうやら采配ミスで負けたチームの監督を吊し上げる屠殺場にはならないようだ。

「我々もアブリ島のバカンス気分に浮かれた訳ではないんですが……」

 俺はそう言って、今日の試合の振り返りを始めた。


 リーシャさんがシュートを外し、カウンターを喰らったシーン。アレで試合の趨勢はほぼ決してしまった。

 攻撃時はサイドにいるローズ選手は裏に出されたボールを追って、もの凄いスピードでライン際を駆け上がっていった。小柄なミノタウロスはラインを目印にしていたのでオフサイドトラップにはかからず、俺たちの偽SBは中央に寄っていたのでライン際の防御が薄かった。

 どちらも懸念していた部分である。が、懸念はしたが対策はしていない。『許容できるリスク』として意図的に放置していたとも言える。

 ただ一名、そのゾーンを気にしていた選手がいた。GKのユイノさんである。彼女は足下のテクニックとライン裏のスペースをカバーできる能力を買われてFWからGKへ転向した選手だ。

「ここで役立たねば!」

という気持ちがあったのであろう。こちらも矢の様な勢いでPAを飛び出し、ボールへ向かった。

 勇気のあるプレイであった。タイミングもそれほど悪くなかった。しかしピッチがそれに応えてくれなかった。スコールで生じた水溜まりが予想外の位置でボールを止め、結果としてローズ選手が先にボールに触れる事となった。

 ユイノさんはそれから半秒ほど遅れてボールにアタックした。しかしその足が触れたのは、ローズ選手の蹄であった……。


「……一人少なくなった事でやり方を変える必要ができて、その混乱を最小限に抑える事が、我々コーチ陣にはできませんでした。選手たちには申し訳ない気分です」

 俺が試合をそうまとめると、記者さんたちは一斉にメモをとりつつ頷いた。恐らく誰の目にもあそこが分水嶺である事が見えていたのだ。

「じゃあツギに……」

「前半戦について、ですね?」

 例のゴブリンさんが急かす様に言い、再び笑いが漏れる。やっぱり早くビーチへいきたいんだな?

「全チームと一通り当たりまして、新生アローズの良さやサッカードウというモノは見せられたかな? とは思います。ですが楽な勝負というのは一つもありませんでしたし、勝利を収めた試合も運とかホームの利とかに頼った部分も多いです。中断期間によく休んで分析して鍛えて、カップ戦と後半戦へ向かって行きたいと思います」

 あと俺の囮とか音痴とか奇策にも頼ったからね! とは心の中でだけ唱えておく。

「会心のゲームと苦戦した試合をそれぞれ一つ上げるならどれブウ?」

 これはレキッブウさんの質問だ。

「苦戦したのはノトジア戦ですね。やはり分析の難しさがありますし。会心のゲームは……」

 そう言いながら何試合か思い浮かべてみる。開幕戦、オークに勝ったのは非常に意味があった。残留争いのライバルであるゴブリンやハーピィに勝ったのも、宿命のライバルであるドワーフに勝ったのも。

 だが俺は少し考えて次の様に言った。

「会心のゲームは、次の試合です。常に次の試合を、自分たちの最高の試合にしたい」

 俺はそう言いながら同じ壇上のナリンさん、タッキさん、そして記者席の全員を強い眼差しで見渡す。

 強い眼差しで見渡している……ということは嘘である。リーグ戦を戦い残留争いをするにあたって、捨て試合というのはどうしても存在する。だがそれは指揮官である俺が、俺だけが心に秘めていれば良い話だ。

「ここまでの試合で、俺はサッカートウの難しさと楽しさをたくさん教えて貰いました」

 その代わりと言っては何だが、次の言葉は真心を込めて言う。

「今度は俺が、俺たちのチームがサッカードウの楽しさを伝えていきたいと思っています。後半戦も楽しみにしておいてください」

 その言葉は、表面的には記者会見お開きの合図である。しかし同時に、後半戦へ向けての意気込みと奮闘をみんなに約束する『誓い』でもあった。

 みんな……期待して待っててくれよな!


第39章:完


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╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ

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