解説員の仕事
「誰が解説員やねん! 砂の上やからって相撲に引っ張られ過ぎやろ!」
俺は思わず身を起こし、ツッコミの声を上げる。それが己の場所を皆に知らせてしまう結果になるとも分からずに。
「ワォ! ショー、いたんだ!」
「えっ!? ショーちゃん、もう動けるの~?」
そんな声と共に、全員の視線が俺に集まってしまう。ただ位置を確認したのはツンカさん始めデイエルフ陣の方が早かったが、先に到達したのはシャマーさんだった。
「えっ!? シャマーさん、何で腕を組むんですか!?」
「だって足元不安定だし、ショーちゃんも病み上がりでしょー?」
例によって魔法でふわりと飛んできたシャマーさんは俺の腕を掴み、潜んでいた高所からビーチサッカードウ場へ連れて行く。
「だからって介助して貰わなくても! あ、皆さんもお構いなく!」
だが彼女の言葉とは裏腹に、降りていく足取りは驚くほど軽く安定していた。もしかしたらシャマーさんがこっそりと魔法で補助してくれているのかもしれない。
「ショウキチさん、お加減はどうですか? まだ顔が赤い様ですが」
完全に試合を中断し集まった選手達の中からダリオさんが進み出て、様子を訊ねる。
「ほぼ回復しています。食事もとれましたし」
指摘されて更に紅潮しつつ俺は答えた。現在、触覚と嗅覚はシャマーさんの柔らかさと良い匂いを感じ、視覚と聴覚はダリオさんの迫力ボディと色っぽい声に圧倒されている。そりゃ顔も赤くなりますって!
「まあ姫様の水着姿に鼻の下を延ばしているくらいだから、元気でしょ」
そこへリーシャさんから容赦の無い声が飛ぶ。
「なっ!?」
「そうなんですか? あ、確かに~」
図星を突かれて慌てた俺の顔を見て、楽しそうに笑うのはシノメさんだ。デイエルフにしては緩い線の身体を白いビキニが包んでいて、妙に生々しいというか親近感がある。なんかこう、普通の人間の女性の、下着姿に似ているというか何かね……。
「だったらいっそ、練習は中断して水着ファッションショーをこれから行えばどうでござる?」
「良いっすね! 水着回!」
そこへ脇にいたリストさんとクエンさんが乗りかかる。このコンビはどちらも水色の水着で、ナイトエルフが持つその藍色の肌と合わさって裸に見えなくもない。一般的な肌色の日本人女性がベージュの下着を着た時の様だ。
ただどちらもキャラ的に色っぽくないとと言うか……某履いてない様に見えるが安心して良い芸人さんっぽくもある。お陰で俺は少し、冷静になれた。
「水着会!? 何か面白そう!」
黒い競泳水着に長身を包んだヨンさんが嬉しそうにいった。いやヨンさん、たぶん君の思う会とクエンさんの言った回は違うと思うぞ?
「じゃあショーキチは解説員から審査員へ転職ぴい!」
お祭り騒ぎなら何でも好きなスワッグがそれに便乗だ。だがそのグリフォンの言葉で俺は更に冷静になりある事を思い出した。
「審査員やるくらいなら解説員をしますよ。先程のリーシャさんのオーバーヘッドですが、俺は正当な範囲内のプレイだと思いますね」
俺はエルフ達の向こうにいるアカサオに向けてそう言った。エルフの中からエルフを探すのは難しいが、双頭の蛇人間を見つけるのは簡単だな!
「だ、だよね! う、美しかったもん!」
「してその根拠は?」
エレガントなプレイが好きなサオリさん――最推しがレイさんなあたりから、彼女がそういった系統の選手とそのスタイルがお好みなのは簡単に推測がつくだろう――は簡単に頷いたが、アカリさんはチョロくはなかった。
「今のはオフェンスの選手の方がかなり先にモーションへ入ってましたし、ディフェンスの選手の方こそ自分の身を守る為にも頭から突っ込むのを控えるべきシーンでした」
あまり個人名を出して贔屓や個人攻撃にとられないよう、俺は『オフェンスの選手』『ディフェンスの選手』という呼び方を強調して言う。
「もちろん、ガッツは褒めたいと思いますが。みなさん、闘志溢れるプレーと身の安全を省みないプレーの区別はつけて下さい」
「「はーい」」
一度、区切った後の言葉は選手全員へ向けたモノで、彼女らもそれを察して皆で返事をした。ふむ、素直じゃないか。
「じゃあ今のゴールを認めて練習再開で」
確か心理学的に、着ている衣服の質や量によって精神的なガードも変わるみたいな話があったよな? と思いながらそう宣言し、俺はガニアさんの方へ向かった。
「実際どうです? 頭にかすったりでもしていませんか? タッキさんではなくても、サッカードウ選手のキックは立派な凶器ですから」
そう言いつつ彼女の額付近を確認する。この奥様CBは俺よりもまあまあ背が高く、背伸びする形にならないと額をつぶさに見るのは難しい。
「額は大丈夫ですわ。でも少し怖かったので、胸がこんなにドキドキと……」
ガニアさんは上に延ばした俺の右手を両手で掴むと自分の胸元に押し当てた。
「ええっ!?」
俺は慌ててその手を引こうとしたが間に合わず、指先が彼女の下乳付近をツンと押し上げてしまう。
「あん、また鼓動が早くなっちゃっいますわ……」
ガニアさんはそう言いながら潤んだ瞳で俺の顔を見下ろし、そっと自分の唇を舐めた。繰り返すがこのCBは奥様である。同じデイエルフの旦那様もいる。
しかし常日頃から言動がねっとりで、どことなく男性を誘うような素振りがある。いわゆる一つの人妻の火遊び的な。いやエルフ妻が火遊びしたら森林火災の危険があるじゃないですか!
「ぴぴ!? 火災がどうしたぴい? 風で煽った方が良いぴよ?」
と、そこへスワッグの気の抜けた声が割り込む。いや煽るな煽るな!
「何でもない! でもスワッグ良いところに! 俺、やっぱり少し無理してたみたいなんでサーロ・インへ戻るよ。乗せてってくれるか?」
例によって勝手に心の中を読まれていた訳だが、そこは不問とし俺は気の良いグリフォンに助けを求めた。
「そうなのかぴよ?」
「あら大変。でしたら私も一緒に帰って看病を……」
「いや結構!」
俺はタッキさん直伝の関節技の極意――言葉で説明するのは難しいが敢えて言えば手首を上手く使い梃子の要領で掴みを解く動きだ――を使ってガニアさんの手を外し、素早くスワッグにまたがった。
「それじゃあみなさん、夜の食事会場で!」
俺はそう言ってスワッグを発進させる。グリフォンは羽根を広げ颯爽と飛び立ち……はせず、ずさずさと砂を踏みながらゆっくりその場を去って行こうとする。
「うん、ショーちゃん後でねー!」
「また様子を見に行きますわ!」
その背にシャマーさんやガニアさんの声が飛ぶ。これはアレだ。スワッグの気遣いで、飛ぶと砂埃が舞うので歩いて少し離れたところから羽根を動かすつもりなのだ。
「早く行きなさいよ」
「監督、リーシャねえさまの水着を目に焼き付けようとしているんですよ!」
結果、かなり好き放題に言われまったく格好がつかないまま、俺たちはプライベートビーチを後にすることとなった……。
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