砂と芋
シャドウブリリアンの鉄板焼きを出すようなホテル、しかも南国のリゾートが必ず持っているものは何だ?
正解はプライベートビーチだ。俺はステフに行き方を聞き、宿泊客しか入れない入り江の砂浜へ向かった。
何も泳ぐ為ではない。そこへ移動し練習している選手たちを視察する為である。
「あ、どうも」
ビーチへつ繋がる小道の入り口にはアロハシャツを着ていかにもロハスな感じの、しかし筋骨隆々で絶対に夜道では会いたくないタイプのミノタウロスさんが突っ立っており、さりげなく不審者が入れないように護衛していた。
「2号室に宿泊中のショーキチです」
もちろん俺は不審者ではなく宿泊客なので、名乗って通して貰う。
「……どうぞ」
従業員のミノタウロスさんはそう言って身体をずらし道を譲った。俺は軽く会釈してその隣を通る。
「ふむ。大人数が通った後だ」
小道はスコール――アブリ島にも南国あるあるの通り雨が降るらしい――の影響かぬかるんでいて、足跡がハッキリと残っていた。俺はそれを見ながら格好つけて呟いてみた。
「しかもそれほど時間は経っていないな」
少ししゃがみ混み跡に触れながら更にそう付け加えてみたが、実はぜんぜん分かっていない。俺は狩人でも野伏でもないからだ。だが後ろで聞き耳を立てていた護衛のミノタウロスさんは
「ほう」
とばかりに耳をパタパタとした。やったな成功だ。
なーんて、実際はステフから
「練習はプライベートビーチで、ビーチサッカードウへ変更になった」
と聞いていたお陰で推測できただけだが。
そう、ビーチサッカードウ。普通のサッカードウと異なり砂浜で、少人数で行われる過酷な球技である。もっとも我々がやるそれは、どちらかというとコンディション調整やレクリエーションの色が強い。
なにせ下が砂なので怪我の危険が低く、それでいてバランス感覚や瞬発力を養いつつ楽しめるからだ。なんとも素晴らしいトレーニングである。このメニューを思いついた他ならぬ俺が、わざわざノトジアの砂を輸入してビーチサッカードウ場を作った事は記憶に新しいだろう。
そこまでしてクラブハウスに設営した砂だが、ここアブリ島には天然のビーチがそれこそ砂の数ほどある。その事に遅蒔きながら気づいたコーチ陣の誰かが、予定を変更してそこでのトレーニングにしてくれたのだ。
「ウップス! 砂が隙間に!」
「待って下さい! ズレた上を直しますので……」
いましも試合中らしいツンカさんとダリオさんの声が、小道に沿って生える防風林越しに聞こえてきた。そう、このトレーニングの素晴らしい点はもう一つある。
水着で行われているのである!!
「おお、ガニアさんずいぶん際どい水着で来たのだ! 大丈夫なのだ?」
「ええ。でもこれしか持ってきていませんの」
アイラさんが不安げに訊ね、奥様エルフがしっとりと答える声も聞こえた。今回の遠征、実は全員が水着を荷物に入れてきている。これは海で遊んでやろう! とかビーチサッカードウの練習があるから! とかで持ってきているのではない。
試合に負けた際にセンシャ――出場した選手が水着姿で相手チームの馬車を洗う儀式――を行うかもしれないからである。
このセンシャ、俺個人はスポーツとは無縁で不要なセレモニーだと思っているけどね……。まあクラマさんがこの異世界にサッカーを伝えた際にセンシャとサッカードウは切っても切れないモノ、として根付かせてしまったので仕方ない。
ともかく選手たちはセンシャの可能性に備えて水着を持参していて、便利な砂浜があって、コンディション調整が重要……といった要因が揃った状態であれば、ビーチサッカードウのトレーニングが水着で行われるのも当然であろう。不自然ではないだろう。
「誰かこっそり見ていないかチェックしよう」
俺は努めてそう自然に呟き道をそれて茂みへ入った。センシャはもう『そういうもの』で仕方ないが、今のトレーニングは違う。邪な気持ちを抱いた誰かからイヤラシイ目で見ているかもしれないのだ。
しかも今の彼女たちは独特の危険を抱えている。いやさっき危険が少ないと述べたばかりじゃないのかって? それは怪我についてだ。俺が懸念しているのは『ポロリ』についてだ。
実はセンシャとビーチバレー等では水着の種類が違う。後者で着用されるモノは競技用で簡単に外れたり破れたりしないようになっているが、前者はそうではないのだ。普通の仕様と強度なのだ。
つまりヘディングの為にジャンプした時に何かが飛び出したり、スライディングをした際に食い込んだり破れたりする可能性があるということなのだ!
そんなシーンを誰か部外者に目撃されないよう、彼女たちはこんな場所で練習を行っている。そしてそれを不埒な野郎に知られないよう、ステフが本来のトレーニング予定地に残って嘘の情報を来訪者へ伝えてもいる。なかなか気が利いた策だな。
もちろん俺は不埒な野郎ではなく関係者なので本当の事を教えて貰ったが。
「うん、ここが一番、ホットなスポットだな」
俺は防風林の中で、少し小高くなりつつ茂みに隠れた部分へたどり着き呟いた。選手たちが起こしそうなドッキリハプニングを目撃するのに、もっとも適切な場所がここだろう。俺はFPSでスナイパーをやっていた経験もあるから詳しいんだぞ!
因みに決して芋砂――ある地点に伏せてずっと狙撃だけをして、戦況やチーム戦術に合わせて移動したりしないプレイヤー或いはプレイスタイルへの蔑称だ――ではなかったこと主張しておく。
それは兎も角、この場所に誰もいないと言うことは不埒な覗き野郎もいないという事だろう。だがもしそいつが俺よりもスナイパーとしての能力に劣る、或いは勝るとしたら? 別のスポットを見い出しているかもしれない。
そこで俺は今の場所にそっと伏せた。それこそ芋虫の様に。
総合ポイント1000を越えました! ありがとうございます!
引き続き、評価やブックマークを頂けると作者が喜びます!
宜しくお願いします。
╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ





