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見えるエルフ

「今度は俺が気になっている件を訊いても良いですか?」

 そう問いかけるとアガサさんはすっと眠そうな目になって頷く。何でも訊くが良い、迷える子羊よ……といった感じの表情だ。

 彼女の本業は哲学者、しかもそれなりに上位の存在らしい。オフの期間はシャマーさんの様に学園都市アーロンの学院へ戻り、生徒というか門徒というかに授業というか説法をしているとか。

「急なキャラ変、何故なんですか?」

 そんな彼女にする質問としてはあまりにも俗過ぎる質問を俺は放った。

「ぐ……」

 それを聞いたアガサさんはぐらっと傾き、彼女の側のカーテンに頭を押しつける。

「あ、いや、駄目とかじゃなくて。正直、似合ってますよ。普通の黒髪ポニーテールばかりで見分け難いデイエルフの中では目立ちますし」

 どうしてか分からないがアガサさんが精神ダメージを受けた様なので、俺は慌ててフォローを入れる。その最中にさらっとデイエルフ連中へ失礼な事を言ってしまったが、まあ大丈夫だろう。

「家族にバレて噂とかされると恥ずかしいし……」

 暖簾に腕押しならぬカーテンに頭押しつけしていたアガサさんは、少し間をおいてからそう恋愛ゲームのヒロインみたいな台詞を呟いた。

「家族にですか。あれ? えっと、ご両親のスヌマさんとカズサさんは懇親会に来られていましたよね? 彼らではなく?」

 俺は記憶を掘り起こし、アガサさんの父親と母親の名前と顔を思い出して問う。うん、確かにいた。お父さんの方は知的で学校の先生って感じで、お母さんの方は娘と同じく長く美しい髪をもった美女だった。

「うむ。両親は問題ない」

 案の定、アガサさんはそう答える。

「ではどの家族に問題があるのですか?」

 他人の家庭環境には首を突っ込まない、という美徳に反して俺は深堀する。一つにはプライベートが充実してこそ仕事でも良いパフォーマンスを発揮できるという考えがあるからで、もう一つにはそういう部分のフォローこそが総監督、ジェネラルマネージャーとしての自分の仕事と思っているからだ。

 特にサッカードウの戦術方面ではあまり貢献できてないって負い目もあるしね……。

「祖母がな。来た」

「お婆ちゃん?」

 彼女の回答に俺は首を捻る。いや来訪者の全てを把握している訳ではないが、そんな感じのエルフがクラブハウスまで面会に来てたっけ?

「どのくらいに?」

「来て以来、ほとんど常に」

 何時? というつもりで聞いた質問に哲学者は頻度で答えた。だがその部分を問い直すつもりにはならない。だってずっといるんでしょ? 見慣れぬお婆さんがその辺りをフラフラしているのに気づかないなんてある!?

「それは……俺にも見えていますか?」

 俺は少し怖くなって小声で訊ねた。霊的なヤツかはたまた俺が熱を出しているせいで見えてないのか。いや病気の時って逆に見えないものを見てしまうもんじゃないのか?

「見る、ではない。君も診られている」

「ひい!」

 そう告げられて、南の島にいるというのに寒気がした。

「俺まで!? どうして……」

「それは君が病人で……」

 怯える俺へ深遠な真実を伝えるかのように、哲学者は言い始める。

「病人で……。そうか、悪霊って弱ってる人間を狙うもんだし……」

「祖母の前職が治療士だからだ」

 と、予想より短く台詞は終わり、アガサさんはこれで分かったな? という風に頷いた。

「それだけ!? いや、そっか。死者は生前の行動をなぞるとか言うし、生きていた時みたいに行動するという意味か」

 短い断片を与えて本人に考えさせるって本当に哲学者と弟子みたいだな、と思いながら俺は推測を口にする。

「役者になったと聞いていたが、まさかチームで再会するとはな」

 一方のアガサさんは遂にカーテンと戯れるのに飽きたか、今度は自分のツインテールを弄びつつ言った。

「夜叉!? 悪霊からグレードアップした!?」

「しかも場内アナウンスまでしよる」

「アナウンス!?」

 生前は治療士で死んで夜叉になってクラブハウスをさまよっていて場内アナウンスまでしている。アガサさんのお婆さんは随分とアグレッシブというか手が広いというか……ん? アナウンス?

「もしかして……ミガサさん?」

 俺は最近チームに加わりメディカル及びイベント部に所属する銀髪エルフの名を挙げた。

「ああ。彼女がワシの事を知ったらきっと大騒ぎしよるでな。親にも黙っていて貰ったのだが……向こうから来るとは」

「ミガサさんがアガサさんの祖母?」

 にわかには信じられず口の中で反芻する。いやまあマイラさんとアイラさんの例もあるし見た目で年齢は分からないのだが。

 あ、見た目と言えば!

「彼女に気づかれないように見た目を変えたんですか?」

「ああ。マイラに手助けして貰った」

 アガサさんはちょうど俺が脳裏に浮かべていたドーンエルフの名を出した。なるほど、金髪と黒髪の差はあれどどちらもツインテールで、明暗の違いはあれどどちらもフリフリの服を来ている。

「でもアガサさんはメディカルスタッフとしてチームの名簿も見ていますよ。そっちで分からないんですか?」

「アガサは登録名だからな。ワシの本名はミモザだ」

 名とは仮面の様なモノで付け替えられるからな、とアガサさんは事も無げに哲学っぽく言う。一方の俺はあだ名を選手登録名にしているブラジル人選手とか、バートさんの事を思い出して納得していた。

「ワシは幼い頃、身体が弱かった。故に祖母は異常に過保護でな。それが今やサッカードウ選手なる過酷な職業に従事していると知ったらなんというか」

「ああ、そういうパターン」

 俺も両親を失った後は祖父母の世話になったのでそれは少し分かる。

「いま、君がチームに植え付けようとしているフィロソフィーは非常に興味深いものだ。しかし時間はかかるだろう。どうか何物にも邪魔されず、健やかに育って欲しいものだな」

 アガサさんは今の問答を締めくくるようにそう語った。ちょうど牛車がガタンと揺れ、停車する。どうやら今日の宿に到着した様だ。

「その部分については同感です」

 言いながらそっとカーテンを開ける。先程の推測どおり、近くに立派な木造の建物が見えた。

「まだちょっと体調と心境が乱れていますが、落ち着いたらそれらについても相談しましょう」

 俺がそう言うとアガサさんは了解した、とばかりに掴んでいたツインテールを振った。その髪から良い匂いが漂ってきて俺は確信した。

 彼女は間違いなくミガサさんの孫娘だな。


第38部:完

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╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ

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