南流の歓待
アブリ島の魔法陣はアロハの掛け声もフラダンスで迎えてくれるダンサーもおらず地味だった。場所としては海岸にそびえ立つ大きなロッジの中で、藁葺きの屋根こそあるが壁はなく開け放たれた状態だ。昼間だというのに大きな篝火が焚かれており、魔法の設備というよりはリゾート地にある開放的な酒場といった感じ。
「ようこそ、アローズの皆様」
と出迎えてくれたのはミノタウロスが用意してくれたコーディネーターのロングリーさんで、普通の牛人族よりふくよかで愛想もあるが彼女が俺達の首にレイ――ナイトエルフの問題児ではない。花で作られた首飾りで、ハワイでは歓迎の意味で贈られたりする――をかけてくれるという事もなかった。
「マハロ……ありがとうございます。距離があるので早速ですが移動の方をお願いできますか?」
チームの代表としてとりあえず監督の俺が返礼の言葉をかけ、それから後方を見る。ちなみにマハロとはハワイの言葉で感謝の意味だ。もちろん通じる筈がない。俺、ちょっと太平洋の南国に意識が引っ張られ過ぎているな!
「荷物用の牛車は用意されているか?」
「ああ、ザック様! はい、全て万端に」
後ろから前に出てきたザックコーチの顔を見て、ロングリーさんが異種族の俺でも分かる程に嬉しそうな顔になった。街中で憧れのアイドルに偶然、出会ったファンの乙女といった感じだ。
うすうす感じていた事だが……ザックコーチはミノタウロス界におけるモテ男なのかもしれない。
「私モウいます!」
そこへラビンさんが顔を出す。
「あら? 貴女もですか。お帰りなさい」
途端にロングリーさんの顔と声が無愛想なモノに変わり、南国だというのに俺の背筋に寒気が走る。ミノタウロスのコーチと奥様にとってこの遠征は里帰りでもあり、俺の体調面も考えて彼の方に色々と表に立って貰う予定なのだが、もしかしたら余計な火種を招いたのかもしれない。
「牛車に座席モウ設置する事はできますか? 監督さんの体調が思わしくないので、歩かせたくないのですが」
ラビンさんがその空気に負けずに話しかける。まさかそんな提案をしてくれるなんて……優しい! でも声に険がある! 明らかに
「夫に色目を使う女への牽制」
が込められているヤツだ!
「もちろん、既に用意済みですわ。勇者ショーキチ様にその他大勢と同じ扱いをするなど!」
一方のロングリーさんも応戦の構えだ。その話の中身は僥倖だがラビンさんへの態度は強硬だ。俺は喜びよりも不安が勝り、引っ込んでいるつもりだったのに思わず口を出す。
「それはありがとうございます。でも勇者なんて大袈裟ですよ~。なんて事をゆうしゃ!」
因みにザックコーチも時々、俺の事を勇者呼ばわりするが、それはミノタウロスが強さやパワーやストレングス――全部ほとんど同じ意味だけどね!――と同じくらい『勇敢さ』を重視するから、らしい。
俺がしばしば矢面に立って選手を守る姿、相手を挑発する態度が牛頭人身の種族には勇気の証と見なされ、高く評価されているんだとか。いや俺としてはそのスタイルがやり易いからやってるだけなんだけど!
「あ、今のは『勇者』と『言うんじゃ』をかけたヤツで」
しかし今の俺は勇気の欠片もみせられず、それどころかギャグの解説を自分で追撃するというタブーを犯す臆病さを出していた。笑いたければ笑うが良い。と言うか誰も笑ってくれないね?
「その他大勢だなんて失礼な! 彼女たちモウ、立派なエルフ代表選手ですよ!」
「わたくしは選手の皆様へ言ったのではありませんわ!」
一方、ラビンさんとロングリーさんは笑うどころか顔を突き合わせて睨みあっていた。なにせミノタウロスとハーフミノタウロスだ、どちらも立派な胸部を持ち合わせており、実のところ鼻よりも胸の方が先に相手に接触し押し合いへし合いしている。
シチュエーションとキャラさえ違えばちょっとエッチな絵における『乳合わせ』ってやつなんだろうけど……これは色気よりも殺気が勝る!
「まあまあ、時間が無いからさっさと出発しようではないか」
そこへ鶴ならぬ牛の一声、ザックコーチが両者を引き離し一触即発の空気は一旦、収まった。モテる男は大変なんだな。
「おほん! それではショーキチ様はこちらへ」
ロングリーさんは一つ咳払いをし、案内を始める。俺は
「(闘犬や闘鶏は犬同士鶏同士が闘うけど、闘牛ってなると牛対人間のイメージが強いよなあ。実際は牛同士もあるのに)」
と急に気になった疑問に悩みながらそれに従った……。
「あー確かに牛車……」
俺は案内された場所に鎮座する車両を見て呟く。荷物だけは牛車で運ぶ、と聞いた時に思い浮かべていたのは所謂『荷馬車』を牛が牽くバージョンだった。前にミノタウロスのラッパー、キング・オグロヌーさんもそんな感じのラップをドナドナと歌っていたし。
しかしその場にあったのは、長方形のオープンエアーな感じの車ではなく正方形に近い形で壁が全方向にあって、簾やカーテンで中が見えなくなっている平安時代の貴族が乗るような乗り物だった。
「さあどうぞ、勇者ショーキチ様!」
ロングリーさんがご丁寧に足場を置き前方のカーテンを上げて俺の搭乗を待つ。モタモタしているとラビンさんとロングリーのリマッチが開始されてしまうかもしれない。
俺は礼を言いつつ場を和ませようと
「ありがとうございます。うわ、とても快適そうだ! 広さもあるしもう一人くらい乗れそうですね!」
と口にした。
それが間違いと気づいたのは、ほんの一秒後だった……。
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