さんかっけー
フィールドプレイヤーの集まるグランドでは、相手を置かず自分たちだけでフォーメーションにつくシャドウトレーニングが始まっていた。
あれ? 今日はコンディショニングの日じゃないのかって? 確かに普段のスケジュール的にはそうなのだが、月曜に試合があって次のミノタウロス戦がアウェイで……と日取りに余裕が無いので少し練習を詰めて行う必要があるのだ。
「激しく動く必要は無いのじゃぞ! 頭じゃ! 頭の方に汗をかけ!」
こちらの思考をトレースするようにジノリコーチが大声を上げる。彼女の現在地は、いつも俺が上から眺めているベランダだ。俺も彼女に倣おうと階段を登った。
「おお、綺麗な5レーン!」
高い所から見たピッチには魔法の鬼火で4本の線が引かれ、フィールドが縦に5分割されていた。地球では芝生に白線などを描く事になるのだが、この異世界では魔法でそれを代用できる。いや代用どころか、あの鬼火は空中にも浮かせるし身体に当たってもすり抜けて害が無いので地球よりも優秀なくらいだ。
そういう利点を考えれば、もしかしたら地球で戦術理解の低いチームに教えるよりももっと簡単に導入できるかもな? と思いながら、俺は次の試合で試してみるあるシステムへ思いを馳せた。
ミノタウロス戦は1433のシステムで挑むつもりだった。だがこの世界で一般的に用いられている形――前線に3人のFWを並べ兎に角サイドからクロスを放り込んでゴールへ殺到する――ではない。
俺達が狙うのはピッチを広く使って相手の守備の隙間を広げ、ボールを保持しパスを回しながらポジションを調整し、完全にゲームを支配し相手を崩してゴールを奪う偶然性を廃した新しいサッカーだ。
スタメンはGKユイノ、DFライン左からマイラ、シャマー、リスト、パリス。中盤は逆三角形でアンカーにアガサ、IHは左クエンで右がツンカ。前線は左からリーシャ、ダリオ、エオンだ。
そのメンバーで分かる通り完全にテクニック重視の選考だ。更にシステムの1433は一説によると三角形――パスの選択肢が常に複数ありサポートへ走り易い――がフィールド上にもっとも多く形成される形であり、この組み合わせならきっと無限にパスを回し続けられるだろう。
だがパス回しそのものは手段であって目的とは異なる。サッカーはパス回しで芸術点が入ったり判定勝利したりできるゲームではなく、相手よりも1点でも多くゴールを上げないと勝てない競技だ。
それでもチーム全体でパスを回しボールを握る事には利点がある。理論上、自分達がボールを持っている間は決して失点しないということである。理論上と言う通り現実にはポゼッション100%という事はほぼ無いが、相手の保持率が低ければ同時に攻撃試行回数も少ないという事になり、失点の可能性は確実に少なくなる。
という部分までは実はサッカードウにも存在したけどね。インセクター族の行っていたプレイスタイルがそれだ。彼女らも個々の選手が広く遠くポジションを取り、虫らしく冷静だが無難なパス回しを続けて時間を浪費していた。
では昆虫人間達と同じ段階を越え、目的である『得点を奪う』にはどうすれば良いか? その鍵がフィールドに引かれた4本の線とCFに入ったダリオさんだった。
「悩んだら前の味方と同じレーンにいない事だけ考えるのじゃ! 後ろの事は考えんで良いぞ! 後ろは後ろでそれを見て動け!」
ジノリコーチが練習を止め、動きの原則を叫ぶ。レーンとは一般的に車線や陸上トラックのコースの事だが彼女が言っているのはフィールドを縦5つに分割したエリアの事だ。
「二つ以上、前は良いのよねー?」
「そうじゃ! 一つ前のエリアとさえ重ならんかったらよい!」
シャマーさんが確認で叫ぶとジノリコーチがすぐに応えた。ドワーフの天才コーチが言う通りレーン分けは動きを制限すると言うよりも、自分が被っていないかどうかを確認させる為にある。
ではなぜ被ってはいけないかと言うと……そうなるとパスの向きが縦になってしまうからだ。自陣方向から真っ直ぐ縦に来たボールを受ける時は、基本的に選手は相手ゴールに背を向ける形になる。それは相手DFにとって守り易くこちらにしては攻め難い。
その形から前へボールを運ぶには、自分がついてきたDFを背負って何とかターンして前を向くか、後方へボールを落として別の選手へパスをして貰うしかない。
一方、縦の位置関係でレーンが被っていないとどうなるか? パスが基本、斜めになるのである。斜め方向から来たパスはトラップさえ上手くいけばターンし易いし、パスを前――原則に従えば自分の前の選手も斜めのレーンにいる筈なので、まず縦方向を守るDFを躱せる――にも出せる。
またシャマーさんの疑問にジノリコーチが応えたように、二つ以上前のポジションにいる選手とはレーンが被っても良い。例えばDFとIHとかアンカーとWGとか。何故かと言うと距離が空いた選手へパスを出すのはそれだけ危険を犯す価値があるからだ。
それだけの距離を前進すれば攻撃面でかなり有利になるし、もし受け手がターンして前を向くのが無理でも、先ほどの原則を守っているならば一列下の斜めに味方が存在している筈である。彼女にパスを返して攻撃をやり直せば良い。
あと単純に……2列前の選手まで見ていたら動けなくなるってのもあるけどね。
「確かに、脳味噌に汗をかく練習っすねー」
「アガサにゃんが可愛くなって見つけ易くなってなかったら、もっと混乱してたかもぉ」
休憩の合間にクエンさんとマイラさんがそう言い合っているのが聞こえた。奇遇だね、このシステムについて考えている俺も頭が痛くなってきた所だ。
だって本来ならこの段階で導入するようなシステムではないからだ。これは非常に難しい戦術なので、もう少しゾーンプレスの成熟度が増し俺と選手達のサッカードウへの理解が進んだ後で……
「おーい、ショーキチ殿ー! そんなに身を乗り出したら危ないでござるよー!」
考え込む俺の耳にリストさんの呼ぶ声が聞こえた。ああ、今回の彼女は久しぶりのCBで難しいからなあ。ちょっと解説してやらないと。
「しょ、ショーちゃん! そこは手すり!」
シャマーさんも何か叫んでいる。だが俺は構わずベランダの手摺りを乗り越え、頭から階下へ落ちていった――
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