それぞれのGK事情
一つのチームが何名のGKを保持すべきか? というのは難しい問題だ。例えば地球で最も注目を集める大会、ワールドカップであれば3名を登録するチームが多い。もし決勝まで勝ち進んだとしても試合数はそこまで多くないしGKが3人とも負傷してしまう、という事態は滅多に無いからだ。他の国際大会でも事情は似たようなものだろう。
次にそれぞれの国のプロリーグに参加するクラブチームなら? 国内リーグ戦は試合数も多く、もしその長丁場に3人登録で挑んだら1人怪我して離脱するだけでギリギリになってしまう。またそうなってから補強するとしても上手く回せるとは限らない。
かと言って5人以上となると余剰戦力、つまり無駄になってしまいがちだ。GKというポジションはFPに比べてスタメンを入れ換える機会が少なく、そんなに抱えたらそのシーズンに1試合も出ない選手が何名も出てしまう事になる。
それらを考慮すれば4名。或いは5名でスタートしシーズン途中で1名をトレードしたりレンタルで下部リーグへ武者修行へ出すのが理想と言ったところ……とここまでは地球の話。では異世界のGK事情はどうだろう?
今まで何度か語った通りサッカードウにおいてGKの扱い、重要度は非常に低い。プレイする側にGKまで組み込んでの戦術が無ければ、観る側にも良いGKを評価する観点が無い。
そういう状況にあるので、殆どのチームがGKは2名体制だ。しかも出場するのはシーズン通して正GKのみ。アローズの様に試合相手や戦術でサブと交代したり、GKにライン裏のカバーをさせたり攻撃の起点に使ったりするのは異例中の異例なのだ。
だがそんな異端児――正確には異端女児か? 変な言葉だ――アローズも、ここまで第3GKを正式には設定してこなかった。それは他のチームに倣ったのもあるし、余剰戦力を保持したり育成したりする程の余力が無かったからでもある。
しかし今回はその判断のツケを払う時がきた。正GKのボナザさんがレッドカードで退場となったからである。例によってDSDKによる審議と発表があるまで何試合の出場停止となるかは不明だが、少なくとも次のミノタウロス戦は出場できない。その上でリーグ前半終了後に始まるカップ戦まで続く可能性がある。
その間を初心者GKユイノさんだけで乗り切るには流石に不安だ。そこで3番目のGKとしてタッキさんへ白羽の矢がたったのだ。
「本当に申し訳ない。あんな退場を喰らってしまって」
微妙な空気の中で先ずボナザさんが口を開いた。
「そんな! 謝らないで下さいよ。ボナザさんにはお世話になっていますし、貴女じゃなくても誰もプレイの結果に謝罪する必要はありませんから」
俺は頭を下げるベテランGKを慌ててフォローする。なるほど彼女の申し訳なさそうな表情の理由はこれか。
「レッドになったシーンもだが、その前の時点でもう少しアラートを出して置けば良かったなと」
俺に否定されてなお、ボナザさんは反省の弁を述べる。基本的にGKという人種はこんな風に内省的だ。そうでなかればあれほど特殊なポジション――選手の中で唯一、手を使用し最後尾からチームを見守り、ユニフォームの形状や色も違う――はできないんだけどね。
「まあそれもタラレバですし、あの大歓声の中で相手陣内へ声を届けるのは無理ですよ」
タラレバって南米系の選手の名前みたいだな、と思いつつ俺は言った。自チームのセットプレイというのは意外と集中力が途切れるタイミングで、彼女の言う通りそこで注意喚起をしていればあの出来事は無かったかもしれない。
だがエルドワクラシコという何時も以上に騒がしいスタジアムの中で仮にボナザさんが叫んだとして、DF陣は聞き取れただろうか? エルフが俺の何倍もの聴力を持っているとしても無理だろう。
「そうですよ。それに私だった、『何か言わなきゃ』とすら思わなかっただろうし」
もう片方のGK、ユイノさんも俺を援護射撃して言う。いや君はもう少しピリっとして欲しくはあるのだが。
「二人ともありがとう。だが次の試合、ミノタウロス戦という鬼門でユイノに託すのも申し訳ない点の一つでね」
「あー」
「ううっ、頭が!」
俺は納得の声を漏らし、若きGKは頭を押さえた。何も彼女は超能力発動の副作用で頭痛を起こしているのではない。俺が初めてこの異世界へ来た日――それは初めて指揮をとった日でもある――のミノタウロス戦でユイノさんはCFとして出場し、頭部に裂傷を負ったのである。きっとそれを思い出しているのだろう。
「それでタッキさんをスタメンに推したんですね」
ユイノさんの方の表情の理由はこれか、と理解しつつも俺は彼女を説得する言葉を探す。
「うん、ちょっと苦手意識がね……」
「まあ今回はユイノさんもGKで頭同士をぶつける訳でもありませんし、頭部を守りつつ空中で競り合う方法は、それこそタッキさんから逆に学べるかもです」
「えっ!? そうなの?」
それを聞いたユイノさんがびっくりして頭痛の演技を止めた。
「ええ。肘を使って自分の制空権を確保する技術は、もともと地球のサッカードウでもありますし」
「それは興味深いな。私も知りたくなったぞ」
「あ、私も行きます!」
とは言え南米の選手が使うちょっとダーティーなテクニックなんですけど、という説明までは聞かず、新旧のGKコーチはタッキさんやニャイアーコーチの方へ向かった。
「なんだかんだでユイノさんもGKっぽいメンタルになってきたなあ」
さっきも述べたがGKは特殊なメンタルの持ち主が多く、良く言えば求道的。悪く言えばマゾである。あれほど怖がっていた割にボナザさんが行こうとしたら自分もついて行くあたり、ユイノさんもそっち系になってきたということだろう。
ちなみにタッキさんも修行僧だから元々そういう面が強いしニャイアーコーチもGKだしナリンさんもドがつくほどの真面目だ。
つまるところ……あの場に加わるのはちょっとしんどい。俺は彼女らに気づかれぬよう、そっとフィールド練習の方へ向かった。
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