ダンパかサンバか
ドワーフ戦翌日。試合の次の日は本来であれば月曜日なのだが、今回はマンデーナイトマッチを行ったので今日は火曜日だ。それでも試合翌日には違いないのでチームは完全にオフの日である。
一方、監督である俺にオフの日は無い。自覚できる程度に倦怠感と寒気が出始めた身体に鞭を打って王城の方へディード号で出勤した。今日は外せないセレモニーが二つほどあるのだ。
正直、あまり気が進まない式ではある。しかし片方にはダリオさんも出席するし、もう片方は大事な収入に関わる事だ。こればかりは俺不在ですませる訳にはいかない。
「上に立つ人間ってのはこういうものだよなあ」
俺はそんな事を呟きながら、ヨットをいつもの船着き場へ向けた……。
「それではロビン女史の断髪式を開催いたします」
ミガサさん落ち着いたアナウンスが王城内の特設会場に響く。その声に出席者達も佇まいを直し壇上に注意を向けた。俺も、知り合って以来たぶん初めて噛まずに言葉を言い切ったエルフの方を向く。
「わたくし本日、司会進行を努めさせて頂きます傾国歌劇団のミガサと申します。宜しくお願い致します」
ミガサさんはそう言って頭を下げ、長い銀髪がさらさらと波のように流れた。その幻想的な雰囲気に出席者達も見とれながら同じく頭を下げる。
「彼女、なかなか上手くやっていますね」
俺の隣にいるダリオさんがそんな賛辞を贈った。ステフでもノゾノゾさんでもなく彼女をこの式の司会に任命したのは正解だったな、と俺は頷きつつ会場内を見渡した。
本来はエルフ王家の式典用の一室であるこの部屋はフットサルコート程の大きさだ。そのスペースの大半を断髪用のステージに取られているので余分があまりなく出席者もそれほど多くはない。エルフとドワーフ代表選手のOG、僅かな報道陣、俺と姫様、そしてセレモニーのスタッフくらいである。
おそらくそのお陰でミガサさんもあまり緊張していないのだろうな、と考えている間にその彼女が言葉を続けた。
「かみて……失礼しました。みなさまから見て右の方向より、ロビン女史の入場です」
エルフの美女は少し言い間違えたが素早くリカバリーしてロビンさんの入場を宣言した。アローズではイベント部とメディカルを兼業しているが、本来の職業は役者だ。普段の言い方が出てしまったな?
「「おおー」」
入場するロビンさんの堂々たる姿をみて、会場内がどよめきに包まれる。幸い、彼女に注意が集まり新人女優の言い間違いを気にする出席者は俺以外にはいないようだった。俺も彼ら彼女らに倣い、本日の主役に目をやった。
「ここで簡単に経歴を紹介させて頂きます。ロビン女史はサッカードウドワーフ代表選手として500以上の試合に出場、200点を上げる活躍をされてきました……」
ミガサさんの紹介をバックに壇上へ進むロビンさんは、黒い柔道着の様な衣服の上に大きなエプロンを装着していた。断髪式に黒い着物、と単語が並ぶとどうしても相撲の化粧回しを連想してしまうが違うらしい。
アレは炉の前で作業をする時に着用する前掛けだ。ドワーフにとって鍛冶は神聖な行為であり、鍛冶屋用のエプロンを纏う事はある種の正装なのだ。
だからロビンさんの後ろに儀礼用の鎚を持つ従者が控えていても、そもそもドワーフ女子がふんわりと力士を想起させる体型をしていても、大相撲とは何の関係も無い筈である。
無い……よね? まさかクラマさん、女子サッカーだけじゃなく女相撲――この場合キッズ相撲の方が的確だろうか?――まで異世界に導入してないよね?
「それでは最初の鋏を、発案者のシャキルさんからお願いします」
アナウンスを聞いて視線を動かすと、ロビンさんの後ろに列ができつつあった。彼女の髪に鋏を入れる参加者の群である。
あの列には俺も誘われたが断ったんだよな。一応、試合にはこちらの髪もかけられていたから自分にも権利はあるのだが、女の子の髪を切り落とす辱めに参加する気にはなれなかったし。まあダリオさんはやるみたいだが。
しかしこういう残酷な行為があってしかも見せ物にする――センシャの儀式の代わりに放映されるらしい――なんて、やはり異世界の倫理観は地球とは違うなあ。いやまあメキシコのプロレスであるルチャリブレでは『カベジュラ・コントラ・カベジュラ』とか言って敗者髪切りマッチがあるけど。
ちなみに余談だがルチャで定番のマスクマン同士がマスクを賭ける場合だと『マスカラ・コントラ・マスカラ』になる。
「ウ~ハッ!」
そんな事を思い出していた俺の耳に、威勢のよい奇声が飛び込んできた。我に返りつつその方向を見ると、例のシャキルさんが変な格好をし、何名かを引き連れ踊りながらロビンさんへ近寄りつつあった。
「なんだ……あれ……?」
往年の名ストライカーはキラキラした金色のレオタードの上に羽根を装飾した衣装を身に纏い、ご丁寧にスキンヘッドの上にも羽毛の生えた冠を被っている。その他の連中も似たような感じだ。
更に各々が丸いシャカシャカ鳴る楽器、マスカラ……じゃなくてマラカスか? を両手に持って振り、紙吹雪を撒きながら奇妙なステップで歩いていく。
「お父様!? 今日は姿を見ないと思ったら……」
ダリオさんの呟きで改めてちんどん屋めいた連中を見ると、なんとその中にレブロン王まであった。
「オレ~オ~レ~♪」
なんだろう……風邪で寝込んでいる時って、こんな感じの意味不明な悪夢を見るよな? と考える俺の前で、シャキルさんとレブロン王はビシっ! と最後のステップを終えた。
「散髪……サンバ~♪」
「オレ!」
迷ストライカーと狂王がそう決めると会場が拍手に包まれた。そうか、そのネタの為だけにここまでやったのか……。頭が痛い。
「すみません、俺はちょっと休んできます……。後のには帰ってきますので」
目を開けて見るタイプの悪夢に震えるダリオさんにそう耳打ちし、俺は会場を後にした。
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