にゃんまみーあ
後半早々に失点し出鼻を挫かれたとしても、ドワーフ代表は簡単に諦めるようなチームではなかった。そもそも粘り強さや敢闘心といった根性に類するものが売りな種族の上に、相手は宿敵エルフである。誰も勝負を捨てることなく団結して守り、運良くボールを握った時は丁寧にパスを繋いで前進し少なくないチャンスを作った。
だがその後のアローズが産み出したチャンスの数はそれを遙かに上回った。リーシャさんのドリブルやポリンさんのパスがドワーフDFを何度も切り裂き、ルーナさんの強烈なショットやレイさんの技巧的なシュートがリプレイの様にゴールを奪った。
『にゃんだかにゃ~』
ベンチ前へ来たニャイアーコーチが苦笑いしてフレーメン反応――口の中にある感覚器で臭いを嗅いだ時に猫や蛇がなる例のやつだ――みたいな顔になりながら何か言った時には、時計の針は後半29分を指し得点は6-2。試合はかなり大味なモノになっていた。
「ニャンマミーヤ! って所ですか?」
俺はイケメン猫人の顔を見て思わずそう呟く。フェリダエ族にとってサッカードウは攻撃でありフェスティバルである。しかし彼女はGKコーチであり目指すのはクリーンシート、無失点だ。目前で行われている試合はいささか不本意なモノなのだろう。
「はて? それはどういう意味でありますか?」
「えっと、イタリア語で『マンマミーヤ』というのがありまして。ニュアンスとしては『なんてこった!』くらいの、意味というより驚きの感情を表した言葉なんですが。それと猫の鳴き声を合成させた訳で」
そう説明しながら俺は、つまらない冗談を言った事を悔やむ。なんかこう、関西人的に自分の言ったギャグの解説をさせられるのほど屈辱的な事はないね!
「猫の鳴き声と言うのは?」
ナリンさんはふむふむとメモを取りながら質問を続ける。屈辱ではあるが、彼女は真面目に日本語の勉強をしているので無碍にもできない。いやマンマミーアはイタリア語だけど! 映画のタイトルにもあるし古いCMでカズさんが言ってたし、馴染みがあるんだよね。
「日本人の耳には『ニャン』と聞こえるんですよ」
「それと?」
「『マンマミーア』のマンを繋ぎまして」
ナリンさんに強いられた説明は微に入り細を宇賀神、もとい穿つという感じだった。サッカードウの戦術でもここまで求められた記憶はないぞ?
「なるほど。マンと?」
「ニャン」
「マン」
「ニャン!」
『試合中に何をイチャイチャとしてんだよ!』
何度目かの鳴き声を上げた俺の後頭部を、誰かが紐の様なモノで叩いた。振り向くと見慣れぬ青髪のエルフがこちらを睨みつけている。
「誰!? ってティアさんか。髪を降ろしているから誰か分からなかったわ」
『お前の忘れ物を持ってきてやったのに遊んでんじゃねえよ』
俺とシャワーを終えたらしいティアさんは口々に好きなことを言う。何せ翻訳のアミュレット――ティアさんが俺の後頭部を攻撃するのに使ったようだ――は彼女の手にあるが、今は魔法無効化フィールドの中にあって機能していないし、相手に伝わる事がないからだ。
『あら、ショーキチ殿のね。ありがとう、ティア。体調に問題が無いなら、ベンチで試合を観戦しなさい。ツンカが興味深い動きをしているから』
その辺りの機微を弁えたナリンさんが何か言って、今日はお役御免の右SBからネックレスを受け取り席に座らせる。ティアさんは何か反論しかけだが、コーチの言葉を聞いてピッチへ目を向けた。ほう、随分と従順だな。珍しい。
「ナリンさん、ナイスです」
「いえいえ、どうぞであります」
称賛を囁く俺にナリンさんはネックレスを手渡す。って称賛も何も、ナリンさんが俺にニャアニャア言わせたからああなっていたんだけどね!?
「でもティアには何て言ったんです?」
マッチポンプ気味だった事には少し目を瞑って、俺は気になった事の方を追究する。
「ツンカの動きに注目するように、であります」
それを聞いたナリンさんは、交代出場中のデイエルフの方を指さした。
エルフのWGプレイヤーとしては便利ではあるがごくごく標準的――ドリブル突破が出来るテクニックとスピードを持ち両足で蹴れて左右どちらのサイドもできる――な選手であるツンカさんを、WGからIHへ転向させる。そう宣言したのはゴブリン戦の数日前だった。あれから数ヶ月の間、彼女は良く練習し交代出場も何度かした。だがこのドワーフ戦ほどインサイドハーフとして出色のプレイができた日はなかっただろう。
サイドではなく中盤のやや真ん中寄りで、ボランチでもありトップ下でもあるような役割。つまりDFラインの前で守備のフィルターにもなるし、サイドやFWの選手へパスを繋いだりもする。
特に効いていたのは中間ポジションでボールを受ける動きだ。サイドでもセンターでもない間のゾーンでツンカさんがボールを持つと、アローズの攻撃は一気に活性化した。
金髪のデイエルフが前を向いた時点でパスコースはクロスを狙う同じサイドのポリンさん、ライン裏へ走り込もうとするレイさん、逆サイドからゴールへ突進しようとするリーシャさんと豊富にあり、自身も直接シュートを撃てる状態にあった。はっきり言って攻撃面では無敵である。
もちろん、ドワーフのDFがまだ未整理で編み目の薄いゾーンDFであったこと、双方退場者が出て10vs10になっておりスペースが広かったという美味しい状況であった事は否定できない。しかしそれを加味してもなお、ツンカさんのインサイドハーフは大成功だった。
「もしかしたら、カップ戦からもう試していけるかもしれませんね」
躍動するツンカさんを見て俺はそっとナリンさんへ囁いた。
「何をでありますか?」
「サッカー戦術革命の、逆側の枝を、です」
第37部:完
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