わたしゃシャワりましたわ
リーブズスタジアムには豪華な入浴設備があり、ホームチームの選手は大きな湯船やサウナまで利用できるようになっている。アウェイ側には簡単なシャワーだけだ。随分な格差だがそこはまあホームの特権ということで。
とは言えゆったりとお湯に浸かるような時間は、今はない。俺はスタジアム内にある監督室――ダリオさんと仮契約を結んだ部屋だ。あのミノタウロス戦が遙か昔に思えるな――に寄って予備の服とタオルをとると、ホーム用のシャワー室の方へ走った。
「誰もいませんかー?」
中へ入る前に、施設の女子トイレに入る時の清掃員さんみたいな声をかける。今はハーフタイム中で選手もスタッフもロッカールームにいる筈だが、警戒するに越した事はない。
「よし、いけるか」
シャワー室の入り口は高い所に張ったロープに布を通したカーテンのみだ。俺は外に着替え類を置いて中へ入ってからスーツを脱ぎ、脱いだ服をそのロープへかけていく。そうすれば万が一誰かが来てもそれらを見て引き返してくれるだろう。
「奥に行こう」
裸になった俺はそう言いながら奥の方へ向かった。この部屋には個室ブースのような区切りは無く、シャワーヘッドも地球にあったような便利なブツではない。ボタンを押すと、魔法で暖められたお湯が上を走る何本ものパイプの穴から部屋全体へ落ちてくるという仕組みである。
それでも奥へ行ったのは、跳ねたお湯が脱いだスーツを濡らすのがなんとなく嫌――どうせ洗濯へ出すのにね? なんでだろう?――なのと、身体から流し落とした髪がなるべく速く奥の排水溝に流れ込むのを狙ってである。
余談だが、このスタジアムの排水能力は非常に高い。何せエルフ以外の種族もシャワーを利用する上に、それらの多くはエルフより毛深いからだ。人間程度の抜け毛を想定して設計すると、たちまちパイプ詰まりを起こしてしまうだろう。
「うわ、冷たい!」
そんな事を考えながらボタンを押した俺に冷水が降りかかる。恐らくパイプに残っていた水がお湯に押し出されて先に出てきたのだ。
「お、おう~」
その予想通り水はすぐお湯になり、頭や肩に熱い飛沫を降らす。俺はまず身体の裏側を中心にシャワーを当て、次に上を向いて顔や喉についた細かい毛と疲労を洗い流す。
『ま、まもなく、テル&ビッドによるしゅてきなショーが始まります!』
と、上を向いた俺の耳と目に、ナレーションと映像が飛び込んできた。なんとこのシャワー室、上にスクリーンがあって中継が視聴出来るのだ。しかも壁にそれ用の操作盤があり他の番組も選べる。試合後に暖まりながら試合を振り返ったり、綺麗な映像を観てリラックスしたりも出来る。なかなか画期的な設備である。
とは言え今の俺には何を言っているか分からないんだけどね。翻訳アミュレット、服と一緒に外しているし。だって全裸に首輪だけってフェチ過ぎるでしょ!?
『盛り上がってるかリーブズスタジアム!』
『まだまだこんなもんじゃねーだろ!』
何やら叫びつつピッチに出てきたのは見慣れたエルフとドワーフのコンビ、テル&ビッドだ。きっと観客を煽るような台詞を言っているに違いない。
言葉を理解できないに分かるのかって? 何故なら俺はこのあと行われるイベントを知っているからだ。彼らはハーピィ戦で行われた音痴大会『バード天国』の優勝者で、その賞品としてメジャーデビューが約束されている。今日はそのプレメジャーデビューミニコンサートを行う予定なのだ。
エルドワクラシコのハーフタイムに演奏するアーティストとして、エルフとドワーフの友愛の証として、このエルフドワーフ混成バンドほど相応しい存在はいないだろう。
まあ、実力の程が相応しいか? と言えば難しいが。
「なんか見た目だけはプロっぽくなってきたな」
俺は演奏の準備を始めるテル&ビッドを見て、壁の操作盤でスクリーンの音量を少し下げながらボソっと呟いた。彼らはあの日以来サインを書いたり音楽誌のインタビューに応えたりする為の猛練習をしていると聞く。
「なんて雑誌に掲載されるのが夢って言ってたかなあ。ローリング・ストマック……ローリング・ストレンジ……」
髪を洗いながら俺は雑誌の名前を思い出そうとする。
「ローリング・スト……」
「ローリング・ストーンヘンジだろ?」
「そう、それだ! 回転する石柱の環ってなんだよ!? って感じですよね……ってへっ!?」
とそこへある筈のない声の助け船が飛び込んできた!
「誰ですか!? 今、使用中なんですけど!?」
俺はそう叫びつつ、部屋中を満たすシャワーの飛沫と湯気越しに声のした方向に目を凝らす。白と透明が作り出すカーテンの向こう側に、うっすらと青い頭が見えた気がした。
「もしかして……ティアさんですか!?」
「おう、正解!」
その声は嬉しそうにそう応えながら、何か紐っぽいモノをブンブンと振り回す。
「何かご用ですか? 今は取り込み中なので少し後で良ければ話を聞きますけど。あと、それは何を振り回しているんですか?」
俺は壁に身体を向け前を隠しつつ、首を捻って顔だけ出入り口の方を向いてそう声をかける。どうやらティアさんはカーテンを横に開いたものの、中までは入ってない様だ。
「これか? いつもお前がつけてる翻訳のアミュレットだよ。じゃないと言葉が分からないだろ?」
彼女はそう言って魔法の首飾りを自分の首に装着した。そうそう、それは首に着けてなくても、手に持ってても効果を発揮するんだったよな。
「そうでしたか。って言うか何故、装備するんですか? 外してその辺りに置いて下さい。終わったら、着けるんで」
ティアさんのその動きに不安を覚えながら、俺はひとこと加える。
「あとお前じゃなくて監督です」
「いやさ、服を脱ぐのに両手が空いてないと不便だろ?」
「何で脱ぐんですか!?」
やばい不安的中だ!
「ちょっと待って下さい! 俺、すぐ出るんでシャワーを浴びるならその後にして下さい!」
「そう言うなよ。ここでいっちょ、裸の付き合いといこうぜ!」
ティアさんはそう言うと、一気にユニフォームの上を脱ぎ去った!
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