授業料はおいくら?
「ポリンさん、今の状況の問題点はなんだと思う?」
『ポリン、今はどこが不味いと思う?』
俺はやってきたポリンさんにナリンさんを加え、3人で話し合う。同じ問題でも外から見えるのと中から見えるのでは異なるからだ。こちらからは穴に見えるモノが、選手にとってはわざと空けてある罠だったりする事もある。
まあ試合中に話し合う機会は珍しいけど。
『えっと、レイちゃんに気持ち良いパスが入っていないことかな?』
「分かっているようであります」
ポリンさんは少し考えて何か答え、ナリンさんが中身を省略して教えてくれた。
「OK。何でポリンさんがパスを入れられなくなっているか? というと。ポイントは2つ」
俺はそう言いながらナリンさんの腕を引っ張ってシチュエーションを再現する。いわゆる『なぜなぜ分析』だとこの後も引き続き問いかけることになるが試合中にそんな時間は無いし、そもそもアレは人間相手――エルフに対しても――使う手法ではないのでやらない。てかアレはそもそも事象に対してやる事だからね。人に対して使えば、究極的には聞かれた相手を問いつめるパワハラにしかならない。
「1つ。ドワーフDFは兎に角、ポリンちゃんの右足を切る守備をしているから。キックを防ぐのですらなくて、右足の前に立つ事を基準にしているみたいだ」
その言葉を聞いてナリンさんがポリンさんに模して、ドリブルやキックのフェイントを入れる。一方、俺はその動きに併せて位置を微調整した。どんなに彼女が素早く動こうと、意識するのは右足の前に移動するだけだ。
「『パスをいれさせるな』だとフェイントにかかるけど、『右足の前にいろ』だとそれほどでもない」
そう言う間に何度かフェイントにかかっているが、それはナリンさんが凄くて俺が鈍いだけだ。その程度の誤差は許して貰えるだろう。
「もう1つには身長差。レイさんは浮き玉のコントロールが非常に上手いけど、一番得意な高さはドワーフの頭部と同じなんだ」
次の説明はさすがにセンシティブな位置なので一人で説明する。ここまで動きながらの通訳をしていたナリンさんは翻訳に専念だ。
「同じくらいの背丈の選手だと腕や膝で触ろうとして悩む高さだけど、ドワーフは躊躇なく頭でいける。それでカットし易いんだ」
俺は架空のボールを自分の胸でトラップしたり、肩で弾いたりするジェスチャーをする。
「ピピー!」
そこまで説明した所で審判さんが笛を吹いた。見ると両チームのもみ合いは終息し、レイさんも担架でピッチの外へ運ばれている。どうやらこちらのFKでの再開を待つ構えだ。
「急ぎなさい」
「はい、すみません!」
審判さんの言葉に慌てて頭を下げる。やべえ問題だけ話題にして解決法を伝えてない! と思ったがここまで言えただけでも上等だ。普通、サッカーの試合中に選手と監督が長々と話す間などない。
『行って! 自分で出来たら良いけど、時間があればまた来て!』
『ううん! ありがとうナリンちゃんとショーキチお兄ちゃん!』
これ以上、引っ張ると遅延行為で退場になると察したナリンさんが従姉妹の背中を押した。ポリンさんもその意図を組んで、こちらに背を向けたまま何かを叫んでポイントへ向かって走る。
「最後まで言えなかったなあ。大丈夫ですかね? 彼女は何て?」
「きっと大丈夫であります。『ありがとう』と言っていたでありますから」
デイエルフのコーチはそう言って俺をベンチの方へ促す。見ると騒ぎに参加していたコーチやスタッフたちもそちらへ戻りつつある。そうだ、ポリンさんにかかりっきりであっちの事態を放置していた!
「今のでどうなりました?」
俺は片目でベンチのアカサオの方を向いて訊ねつつ、片目でピッチの方を伺った。
試合の方はポリンさんのFKで再開となり、久しぶりに彼女がキックを邪魔されず送ったボールはムルトさんの頭めがけて飛んでいった。
「よし!」
「ピッ!」
俺の喜びの声と同時くらいに笛がなる。セットプレイの為に上がっていた長身CBがドンピシャで飛び上がりヘディングシュートをゴールへ叩き込む! ……のは叩き込んだのだが、実はボールがまだ空中にある間に笛が鳴り、プレイは止められていた様だ。
「あり?」
首を傾げる俺やざわめく観衆の前で審判さんと副審さんは選手の密集を指す。どうやらゴール前のポジションの取り合いの中で、アローズ側にファウルがあった様だ。
「うそやん?」
よし! と歓声とガッツポーズを上げた俺はその手を少し降ろし、頭をかきむしった。アローズサポーターも選手も納得いかない様子で抗議をするが、判定はもちろん覆らない。
「かきむしる毛がまだある間に聞いてくださーい。さっきのでティアとジノリコーチに警告がでてまーす」
そこへ先程の事態の結果をまとめていらアカリさんが声をかけてきた。元から毛の無い蛇人ゴルルグ族は冷たい目で結果を読み上げる。
「え? こっちだけ?」
「そっすよー」
マジか。まあウチの喧嘩番長ティアさんやジノリコーチがのせられてしまうのは予想がついたが、相手に出てないとは。
「乱闘やり損じゃん! くっそー」
『心配ないで。その髪はウチが守ったるから』
前髪を引っ張っていじける俺に、傍らから声をかける存在がいた。そちらを見ると、足に包帯を巻かれたレイさんが立っている。
「え? 行けるの?」
「スパイクで出来た傷の止血は終わったそうであります」
俺の質問にはその隣のナリンさんの方が答えた。
「いやでも前半はもう終わるから無理に入らなくても……」
『しんぱんさーん!』
時計そのものは45分を過ぎている。騒ぎやセットプレイの準備の間にそれほどの時間が流れたのだ。しかしレイさんは俺の制止を聞かず、審判さんの合図を受けて――負傷により外へ運ばれ治療を受けた選手は、審判の許可なくピッチへ戻る事はできない――中へ走っていった。
「……いいのに」
「きっと、前半で変えられてしまうと思っているからであります」
ナリンさんも呆れ半分、共感半分な雰囲気で話す。まあ状況によってはそうだけどさ。
「そんな頑張らなくてもよいから、無事に前半を終えて欲しいですね」
監督にあるまじき言葉を俺は吐いた。だが本心でもある。ただその直後に起きた出来事は、俺のそんな態度が招いたものかもしれなかった……。
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