翼か槍か
「ナリンさん! リーシャさんをお願いします」
完全に狙い通りの先制ゴールに沸くベンチの中でコーチ陣と握手をしつつ、俺はナリンさんを掴まえて控えFWを連れてくるようにお願いした。
『ほっほっほどうじゃどうじゃ!』
『ここがちがうねん!』
ベンチではジノリ台の上でジノリコーチがドワーフベンチへ向かって胸を張り、ドワーフゴール裏では祝福の輪の中のレイさんがそのゴール裏のドワーフサポーターに向かって自分の頭を指していた。
「開幕の奇襲が成功したら、プレイ再開までなるべく時間をかけるように」
と全員に通達してあったが、ここまで相手を煽るとは……。サッカーだと反スポーツ行為でイエローカードの対象だが大丈夫なのかな? まあ昔のエルドワクラシコだと喧嘩で退場者もいたくらいだから、これくらいは普通なのかもしれない。
『あれはどういう事じゃ! 注意せんか!』
『まあまあ……』
見るとポビッチ監督が第4審判のリザードマンさんに抗議をしている。やっぱりそうだよね。そして第1審判というか主審のドラゴンさんが笛を鳴らしプレイ再開の為に位置へ戻ることも促している。それでレイさんのゴールを祝福していた選手たちもゆっくりと自陣へ戻っていった。
欲を言えばキリがないが、十分にダメージを与えられただろう。開始直後のゴールは先制パンチとして相手にショックを与えられる反面、
「まだ反撃する時間は十分にある」
と開き直られる可能性もある。しかしこれだけ煽られれば、ドワーフもそう冷静にはなれない筈だ。
「ピッ!」
選手が両陣に戻ってすぐ、審判さんが笛を鳴らして試合を再開させた。今日の主審ストックトンさんは俺の性格を良く知っている。こりゃあまり好き放題はできないかもな……。そう思いながら俺は腕を組んだ。
『ただいまの得点は……エルフ代表チーム、背番号14、レイ選手!』
ドワーフ代表のキックオフで試合が再開し、ノゾノゾさんの声が響いた。ドワーフがボールを自陣深くへ戻し慎重にパス回しを始めたので、アローズサポーターは安心して次の展開を待つ。
『ゴールを決めたのは?』
『『レイ!』』
『ヨミケの太陽ー!』
『『レイ!』』
『ちゅ! 可愛くて~』
『ご・め・ん!』
ひとしきりいつものコール&レスポンスが行われ、観客席の騒音は一段落を迎えた。いや、いつものと言ったが最後の方が少し怪しい。何か、俺に報告されているのとは別の事を言っているような気がする。
イベント部の連中、具体的に言えばステフとスワッグとノゾノゾさんが何か暗中飛躍の翼を広げているのかもしれない。基本的に、悪い奴らではないのだけれど。
「あんな部署にミガサさんを入れて良かったのかな……」
「はい? 何でありますか?」
思わず声に出していた呟きに、戻ってきたナリンさんが首を傾げた。
「いや、なんでもないです。それよりも、どうも」
俺はコーチがリーシャさんを連れて来てくれた事に例を言い、今日は控えでスタートしたFWの肩を叩いて上空のスクリーンを指さす。
「リーシャさん、あのレイさんのヘディングシーンを見て欲しい。彼女は別にリストさんやガニアさんの用に長身で屈強な選手じゃない。でも自分のスピードを殺すことなく飛び上がる事で、驚異的な跳躍を見せている」
俺はそう言いながらその場で背伸びして飛び上がる、少し助走してふわっと飛び上がる、という二つの動きを見せつつナリンさんが通訳するのを待つ。コーチは阿吽の呼吸でリーシャさんにエルフ語で説明した。
「そうすれば何も屈強なCBと競り合うことなくヘディングをする事が出来る。マーカーが近くにいても、空中ではノーマークなんだよ。まあ今回のアレは相手がドワーフだというのを差し引く必要はあるけどね」
元は足が速いWGタイプの選手だったが、CFとして得点を挙げるのに集中しだしたらそのスピードをジャンプ力に生かし、ヘディングでも得点を量産するというケースがある。俺がリーシャさんに期待しているのはそれだった。
『あんた、私にアイツの真似をしろって言うの?』
「えっと、レイさんとは少しプレイスタイルが違うので参考になるのか?と心配しているであります」
リーシャさんがぶっきらぼうに言った言葉をナリンさんが翻訳してくれた。うむ、今のはだいぶ言葉を選んでいる感じだな。
「参考にするんじゃなくて、上回って欲しいんだ。まあもちろん、スタイルは違うけどね。同じジャンプでもレイさんはふわり、って感じでリーシャさんはギューン! だろうし」
ふわりとギューンについてはナリンさんも通訳が難しかろうと、俺は手つきを交えて言う。
『ショーキチ殿は、リーシャがレイ以上の存在になれると信じているわ。特に、得点感覚についてはそうよ』
『あいつ以上……』
ナリンさんの言葉を聞いたリーシャさんはぐっと手に力を入れた。むむむ! これはスポ根漫画の波動を感じるぞ!
「上回る為には今以上にレイさんのプレイを見て、盗んで、彼女以上に努力して下さい」
俺はすでに燃え始めていた火を炎にすべく、少しだけガソリンをかける。タイミングを心得たナリンさんも間髪入れずその言葉をリーシャさんに伝える。
『分かった。……でもあれも見習うべき?』
強気なデイエルフは強く頷いた。しかしその直後、ピッチの方を指さす。
「なんて?」
「分かったと。でもアレは? と」
どれだ? ナリンさんの通訳を聞いた俺はリーシャさんの指さす方向を見た。
そちらではリーシャさんだけでなく良い子の皆さんには真似して欲しくないプレイが行われていた……。
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