スッキリしたトーク
「それじゃあ、子供たちはゴー!」
そんなノゾノゾさんのかけ声を切っ掛けに、子供たちがピッチへ走り込んできた。一斉に選手達の身体に緊張が走る。これはマズいな。
「おーどの選手が人気かなー? みんな、全員は無理だから、一番大好きな選手から先にお願いするんだよー」
俺は子供たちに優しく話しかける……という形をとりつつ、選手達の気持ちを別方向へ向ける。途端に引き攣っていた彼女らの顔が営業用スマイルに変わった。
「はーい! それはもちろんエオンに決まってますぅ! よい子のみんな! エオンちゃんはこっちだよー!」
「いえいえマイラも負けてないにゃん! 来てくれなかったら、マイラ泣いちゃうぞ?」
アローズが誇る2大アニメ声の選手が甘えた声で来場者に呼びかけ、少年少女はそれに応じたり応じなかったりした。つまり彼女らの元へ走る子もいれば、別のお目当ての選手へサインを求める子もいたということだ。
「サイン会にしたのは大成功ですね!」
その様子を見てナリンさんが俺に笑いかけた。今はもう日曜日。スタジアムでの前日練習の日である。
既にドワーフ代表はそれを終えスタジアムを後にしている。今はエルフ代表の番でいつもなら公開練習のち非公開練習という流れだが、俺は公開練習の時からスタンド席を開放しファンを入場させ、非公開練習も辞めてファンサービスの場にしていた。
ピッチに降りてサインを貰えるのは子供限定ではあるが。
「ええ。でもまあこの後のトークショーまでお客様に残って欲しいですし。それに……」
俺はセンターサークル付近に立ち360度、無数の子供たちに囲まれる感覚を確かめながら続けた。
「昨日のトラウマだけは、解消しておいた方が良いですからね……」
土曜日の午後練習。少し狭いフィールドで手を繋いで2名1組となった子供たち相手の試合は、かなりの苦戦だった。いや苦戦過ぎた。
繋がった状態のキッズで埋め尽くされた守備陣内はほぼスペースが無く、選手側が連動した動きや個人技で作った隙もすさまじい運動量ですぐに埋められてしまった。しかも時間が経つにつれて手繋ぎ状態に慣れたコンビは役割分担で前後左右を確認できるようになり、最後にはその隙ですら殆ど作れなくなっていた。
謂わばドワーフの幅と双頭のゴルルグ族なみの認知力を持った選手達を相手にする事となったのである。しかもガンス族の様な運動量というおまけつきで。
はっきり言って練習の設定ミスである。失敗である。選手たちはこの練習で何かを身につけると言うよりは、ただただあの状態にうんざりした、というのが正確だろう。
そうそう、たまに何かの対戦ゲームの未経験者へそのゲームを紹介しようとして、手加減し損なってボコボコにして好きになって貰うの失敗するようなヤツっているじゃん?
それが俺だ。そして昨日の練習の主導者も俺だった。実はジノリコーチは別件で不在だったので、あの練習は俺が仕切ったのだ。もし彼女がいれば修正してくれたかもしれないけどね……。
ともかく。実りの少ない練習をしてしまったのはまだ良いとしても、選手達が集団へ苦手意識を持ってしまっては困る。
「あの練習の事は嫌いになっても良い、でも子供とその集団については嫌いにならないで下さい!」
である。
なので俺は非公開練習を子供相手のサイン会へ変更した。周囲の選手達の表情を見るに、その変更は成功だった様だ。良かった……。
当初の予定を越え1時間以上のファンサを終え、選手は更衣室へ子供たちは観客席の親の元へ帰って言った。
「しょ、しょれでは! 次はエルフ代表OGとドワーフ代表OGによるトークバトルでしゅ!」
入れ替わる様に年嵩のエルフとドワーフがピッチ上の特設ステージへ現れ、噛み噛みのナレーションが流れる。この声と滑舌はミガサさんだな? エルフの国民的名優にしてアローズの熱烈サポーターであるニコルさんに押しつけられた、もとい紹介されたミガサさんはベテラン治療士にして新米役者である。
先日の身体測定で治療士としては初仕事を終えているが、エンタメ部――人員も増えてきたので広報、宣伝、スタジアムイベントの部署を統括する事になった。長はもちろんステフだ――の一員としては今日がデビュー戦だ。
舞台度胸をつけてやって欲しい、というのがニコルさんの依頼だ。それには応じる構えではあるが、ナレーションだけですらあんな感じなので前途は多難だろうな……。
そんな出だしと裏腹にトークショーは順調だった。座席位置やトークテーマを入念に打ち合わせした甲斐があったというものだ。かつての名勝負の思い出話しに花を咲かせ、まだ衰えぬライバル心に火花を散らす。参加者はみな高齢、と言ってもエルフとドワーフだからね。そりゃ花も火花も大きいだろう。
因みにこちらのイベントの想定客層は年輩客だ。なのでお子さんには辛い内容になるのだが、当の子供達はおねむのようだ。自分を連れてきてくれた親の膝で眠っている子も多い。実はこれも狙って、さっき芝生の上で走って貰ったんだよね。我ながら良いアイデアだった。
「言ったな! その言葉、忘れるでないぞ!」
そんな声が耳に入り、自画自賛中の俺はステージの方を見た。今のはドワーフ代表のOGロビンさんがエルフ代表のOG、シャキルさんへ投げた言葉の様だ。
「もちろんだ! いっそ賭をしようじゃないか? もし負けたら……お前も俺みたいに髪を剃るのはどうだ?」
エルフ代表のかつてのスター選手はとんでもない提案を行った。全盛期に何度も得点王になったシャキルさんは、その言葉通り自身はスキンヘッドである。デイエルフ屈指の長身と体格を誇る彼女はその頭から放つヘディングシュートでゴールを量産したものだ。
とは言え自分が平気でも相手がそうだとは限らないじゃん、ねえ?
「良かろう! 明日の試合でドワーフ代表が負けたら、潔く剃髪するわい!」
いや平気だった。平気……なのかな?
「「おおーっ!」」
「おおっと、ここで爆弾発言がでたよ! 二言はない?」
観客がワンテンポ遅れてどよめき、ノゾノゾさんが煽る。
「ドワーフに二言はない!」
「おっけー! じゃあアローズが負けたらシャキルさんはどうする?」
ドワーフの言質をとったノゾノゾさんは素早くシャキルさんへ話を向けた。やってる事は褒められないがあのリズムの良い司会術をミガサさんも学ぶと良い。
「おお、それなあ」
一方、言いだしたシャキルさんは悩み顔で頭髪の無い頭をかいた。彼女は体格もスキルも闘争心もある名選手だが、同時にかなりのお調子者でもあった。リストさんの身体にティアさんの精神が宿っている様だものだ。その場のノリで言ってしまったので、何も考えて無かったのだろう。
「アビーが代わりに……」
「イヤだからね!」
シャキルさんに話を振られたバートさん――選手としてはアビーという名で通っている――は即座に拒否した。傍若無人なストライカーも、この名ウイングには頭が上がらない。何せアシストのパスを何百本も送って彼女を得点王にしたのは、他ならぬバートさんだからだ。
「じゃあ……」
シャキルさんは順に他のOGに眼をやり、全員が顔を背けた。しかしまあスキンヘッドのエルフ、しかも女性というのはなかなか珍しい存在だな。こうしてみるとファンタジーというよりはSFに出てきそうだ。
「あ!」
「あい?」
あまりにもジロジロと見過ぎたせいか、シャキルさんと俺の眼が合ってしまった。俺はステージから離れたベンチに座っていたのだが、エルフは本当に眼が良い。それはそうとしてこれはまさか……?
「ショーキチ監督がいる! よし、負けたらショーキチ監督が丸坊主になるぞ!」
「「おおーっ!」」
スタジアム中がざわめく。それは既に様々な物事が賭けられているなエルドワクラシコに、またあたらしいモノがベットされることを意味していた……。
第三十六章:完
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