良い雰囲気と悪い空気
「まずえっと、あの夜は断りもせずにあんな事をしてすみません」
「いえ、大丈夫です。嫌じゃなかったですし」
「それでも、やっぱり断りを入れてからやるべきでした」
アリスさんは口調は真面目に塩らしく、しかし頬を赤く染めながら謝罪を繰り返す。脳内の方では、あの場面の余韻を繰り返しているとみた。
「しかもあの場面を激写されちゃって……。ショーキチ先生にあらぬ汚名まで被さることに!」
あらぬ汚名、か。今までの断片的情報で分かってはいたが、その単語である真実と次の展開が読めた。
「だから、まずそれを伝えてショーキチ先生の重荷を外すところから言っておきます! 私……本当はおつき合いしている男性なんていません! エア彼氏なんです!」
アリスさんは先程までとは違う理由で頬を赤くして言う。
「この年齢で異性とおつき合いの一つもしてないなんて恥ずかしいですけど。なんでそんな嘘をついたんだ? って思ってます?」
ここで彼女は急に質問を俺に投げてきた。たぶん、俺がなんとも言えない表情をしていたので不安になったのだろう。
「いや、そこは別に」
俺は努めて優しい声で言った。表情が無かったのは、予想のついていた事を予想通りに言われたからなんだけどね。
「でも彼氏いる、って言わないと生徒たちから舐められる様な気がして! ショーキチ先生も、舐められないように虚勢をはるような嘘をついた事がありませんか? いや、無いですよね……」
アリスさんは言葉の途中で意気消沈したが俺、全然ありまーす! コールセンター時代はクレーマーの罵声やお客様の予想外の問い合わせにも、
「平気ですが?」
みたいな態度で応対していたし、この世界へ来てからだって
「サッカーとサッカードウの事なら何でも知ってま~す」
みたいな顔で指導をしている。
これらは相手から侮られないようにする為、そして自分の言葉を信じて貰う為に必要な事だ。だから業種は違えど、アリスさんの苦悩もよく分かる。
「普通にありますよ。俺も上に立つ人間として、言ってはなんですが下々の者どもから軽んじられないよう、虚勢を張る日々です」
コルセンや監督の詳細を語ると長いので、俺はアリスさんと共通しそうな部分だけで語る。
「それにアリス先生は可愛いから、彼氏がいると言っておかないと男子生徒達からのアプローチも来ちゃうだろうし」
「ええっ!?」
最後に真面目養分が多過ぎたので少し茶化した感じで付け加えると、アリスさんは嬉しそうにこちらを見た。
「やっぱり、分かります~? そうですよね、性欲に溢れた若い子には私みたいなのはもうちょっと、刺激が過剰というか!」
過剰なのはアンタのポジティブ成分だよ! とツッコミたかったが、せっかく戻った明るさを消してしまう可能性があったので俺は黙って微笑んだ。
「なのでショーキチ先生は略奪愛の後ろめたさとか背徳感を覚える事無く、私を好きにして良いんです。あと記者会見を開いて、おつき合いしている男性はいなかった! って事をちゃんと発表したいと思います」
んんん? 前半部分に少し違和感の方を覚える部分があるが……とりあえず後半だな。
「俺も記者会見を開く予定ではありましたが、アリスさんも出るつもりですか?」
普通、芸能人と芸能人でない方の熱愛が発覚した時は、芸能人の方だけが記者会見の場にいるものだ。俺とアリスさんが完全にそれとイコールという訳ではないが、この場合は俺だけでも良いのではないだろうか?
「いえ、そこは……。ショーキチ先生を一人にするのも忍びないし」
アリスさんはそう言いながら両手で自分の顔を挟む。もしかして、地球で言うところの『TVに出たがり』な方か?
「まあそれはおいおい相談するとして。アリスさんは記者の前に相手にする必要がある対象がいますよね?」
目の前のデイエルフの脳天気さに頼もしさと少々の苛立ちを感じ、ここで俺は話を変え少し意地悪な質問をした。
「え? 誰ですか?」
「ヒントその1。俺の家のベッド」
ヒントどころかほぼ答えだ。
「それは……ショーキチ先生と言うことですか? つまり記者さんに会う前に深い男女の仲に……」
「ヒントその2。2名います」
「え? 私の初体験は三つ巴!?」
どこから誰を連れてくるんだよ!?
「そこから離れて! ヒントその3。怒らせると怖い」
「怒る? 怖い?」
正直、俺もそろそろ怒って怖い存在になりたくはある。だがここにきてようやく? アリスさんも真面目に頭を使って考えているようだ。教職を担える程度には頭が良いはずのデイエルフは、しばらく天井を眺めた後ではっとこちらを見た。
「パパとママだ!」
「正解! 実は昨晩、俺の家で少し会ったんですけどかなりのお怒りでしたよ? 何があったんですか?」
「えー。顔を見たくなかったからお借りした寮の部屋に閉じこもって魔法のメッセンジャーも全部返して、レイちゃんとステフさんにお話して貰ったんですけど」
うん、それは怒るよね? だが俺の勘はそれだけではない、と告げていた。
「他には?」
「後は~おつき合いしている男性の件かも?」
と、アリスさんは奇妙な事を言い出した。
「おつき合いしている男性? 実在しないエア彼氏にですか?」
「はい。パパとママには『王城の経理部で働いているエルフの貴族で、パパに似たイケメン』って伝えていたので」
妄想の中では遠慮を知らないエルフはあっけからんとそう告げた。いやそれエア彼氏にしてもスパダリ過ぎん?
「なるほど。そんなスーパーな彼氏からどこの馬の骨とも言えない人間のサッカードウ監督に乗り換えた、となれば怒りもしますよね……」
親の心というのを俺が完全に理解できるとは思わない。しかしハイスペ彼氏と付き合っている、と思って安心していたのにそれを捨てたと聞いたら……ねえ?
「そんな! ショーキチ先生は自分が思っているより素敵な男性です!」
「あーどうも。でも今はその口車、もっと練習した方が良いですよ。今日、ご両親と面談する予定なので」
俺は諦めのため息を吐きつつ言った。
「口車じゃないんだけどなあ」
「何ですか? 兎に角、一緒に謝りましょう」
「はーい」
アリスさんはそう言って舌をペロ、と出した。その様子はなかなか可愛いかったが、だからこそお父さんの怒りも激しいんだよな? と俺は少し重い気分になってしまった……。
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