着地注意
意外な事にシャマーさんは俺の話を最後まで飽きずに聞いた。野郎が語るアイドルの話なんて女の子にとって楽しいものではないだろうに……。やはりそれだけあややが偉大という事だろうか?
「それじゃあ、お願いしようかな」
そして話が終わる頃には塔へ到着し、シャマーさんの申し出を受ける流れになっていた。何というか、脱出を見逃して貰った上に話まで聞いて貰って断るという選択は難しくなっていたのだ。
「大丈夫な場所に置いているのよね?」
魔法陣に到着し、調整中のシャマーさんがやや恨みがましく訊ねる。彼女が言っているのは瞬間移動のマジックアイテムの事だ。俺の家には魔法をかけられた鎖があり、それを広げる事によって簡易的な魔法陣として機能するのだが……俺はそれを使用するつもりがないので、たいていは奥にしまい込んでいる。
それ、つまり奥にしまい込んでいる事を知らないシャマーさんは二度ほど転移してきて酷い目にあっている。引き出しに現れ机を破壊してしまうとか、クローゼットで逆さ吊りになるとか。いやそれを勝手に使って俺の家に侵入してきた彼女の自業自得なのだが。
「誰も無断進入して触ってなければ、客間のベッドの上に置いたままだと思います」
俺は『無断進入』を強調してそう答えた。セキュリティ意識甘々だが、あの家は特に戸締まりや防犯装置の仕組みはない。まあ王家の管理する聖なる森の一角だし森林警護官――シーズンオフにはリーシャさんやユイノさんが勤めているアレだ――の巡回ルートにも入っているので、普通ならば心配はない筈だ。
「あら、ベッドの上ー!? じゃあさじゃあさ、次に私が飛んでいった時は、ノータイムで始められるって事~?」
しかし王家の森の結界をぶち破るなど意にも介さない、普通でないエルフは違う部分に耳を止めて言った。
「何も始めません! そもそも俺は客間で寝ていませんから!」
「そっかー。でもさベッドの上に置いているってことは、私の事を気にかけてくれているからだよね~?」
シャマーさんは唇を軽く摘んでから、こちらを見てそう言った。しまった、マズい所に気づかれてしまった。
「そりゃあ、まあ、そうですよ。前の二回はたまたま無事で済みましたけど、下手すりゃ怪我してましたし。キャプテンが余計な負傷をする事は避けたいです」
それでも俺はなんとか監督らしく、威厳をもって答える。
「ありがと。ショーちゃんのそういう優しい所も、好きよ」
一方のシャマーさんはそう言ってはにかみ笑いをした。正直、変な色仕掛けよりこういうのの方が俺の鎧を貫いてしまうのだが、これだけは知られてはいけない。
「お互い様です! しゃ、シャマーさんだって優しいですよね? 今回もほら、俺はてっきり『センシャ見てから帰りなさいよー』とか言われるものだと思ってましたし」
俺は話を逸らす為、話題を今晩の出来事へ戻す。シャマーさんがある意味で他の選手達を裏切って、俺の逃亡の手助けをするとは思いもしなかったからだ。
「まあねー。そうだ、早く帰さなきゃ! 準備、おっけーでーす!」
シャマーさんはそう言いつつ魔法陣から放れ、外で待機している塔の職員さん――フェリダエ族の魔術師らしい。夜の番って大変だな。それとも猫って夜行性だから逆に楽なのか?――へ声をかけた。
「さ、中央へ行って、ショーちゃん」
「あ、はい。ありがとうございます」
そして彼女は俺を部屋の中央へ押しやる……かのように延ばした手で俺の首筋を掴み、顔を引き寄せて唇を重ねる。
「しゃ、シャマーさん!?」
「水着姿を見せたかったけど、代わりに下着姿を見せておいたからね~。それで我慢してね?」
そう言われて俺は前回のキスを思い出す。今日の試合のハーフタイムで、独り帰ってきたシャマーさんが服をはだけて見せたアレを。
「え? まさかこれを予見して!?」
「では始めますニャ!」
俺は彼女に問いただそうとしたが、苛立ったようなフェリダエ族さんの声がそれを遮った。シャマーさんが素早くバックステップし、部屋が広い光に包まれていく。
「いや、ちょっと待って……」
「ショーちゃーん! パンチラの子に宜しくねー!」
最後に彼女がそう叫ぶのが聞こえ、視界が白に染め上げられた……。
真っ白から真っ暗へ。瞬間移動の魔法に伴う何時もの感覚を越えた先にあったのは、ほぼ完全な暗闇だった。
「ミスで何処か違う場所へ!? ってシャマーさんに限ってそれは無いか……」
俺はそっと足下に手を伸ばす。柔らかい敷布の上に鎖……うむ、これはおそらく客間のベッドだ。
「あ、俺、土足だ。転移前に靴を脱いでおくべきだったな」
瞬間移動は適切に行われ、今は客間のベッドの上に広げた魔法陣の上に立っている状態のようだ。俺はそっと靴を脱ぎ手探りでベッドに腰掛け、靴を履き直して床に立った。
「灯りは……寝室が早いか?」
当たり前だがアウェイで家を空ける時は、ランタンや蝋燭の類は全て消して出かけている。だから先程から真っ暗闇にいたのだ。俺は記憶を頼りに寝室へ向かう。そこの枕元には魔法の発光石が置いてある筈だ。夜中にトイレ――野外の川沿いにある。外なのは不便だが、魔法の水洗式だ――へ行く時などに便利なんだよね。
「あれ?」
部屋にたどり着き、まずベッドのこちら側の机から探る。しかし見つからない。おかしいな? いつも置く方向は決めているのに。
「じゃあ、あっちか?」
首を捻りながら寝具の上に乗り出し逆方向へ四つん這いで進む。履いたままの靴が敷布を汚さないよう、微妙に足を上げて、だ。ズボラだが誰もも見てないし良いだろう。
「ん?」
ズボラと言えばベッドがやけに乱れている。家を出る時にそれなりに整えた筈だが……しかも妙に暖かいし柔らかいぞ!?
「ああん、アナタってば……いつもと違う環境で興奮しちゃった? あの子にもう一人、弟か妹でも作るぅ?」
と、その柔らかい物体が急に声を発し、俺に掴みかかってきた!
「うわぁ! 布が喋った!?」
「あら? アナタ服なんか着てたかしら?」
「おーい、外のトイレ凄いぞ……」
その時、灯りと足音を伴って廊下からエルフの男性が姿を現した。彼の持つ発光石の光で、ようやく俺は周囲を視認する。
「え? 貴方たちは!?」
「あら、ターカオじゃないの?」
「シンディ、誰だその男は!?」
俺達は三者三様に驚きの声を漏らした。光に浮かび上がったのは、俺が見知らぬ裸のエルフ女性とベッドの上でもみ合っていて、それを裸のエルフ男性が目撃しているという異様な光景だった……。
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