誘導ゆーどぉ?
ダリオさんのPK成功を、審判に注意されるギリギリまで祝った俺達は選手を戻して試合を再開させた。
「さて……と。時間としてはかなり良い部類だけど」
俺は前半32分を表示している時計と、フェリダエベンチとを交互にチラ見しながら言った。これが前半の早い時間帯だと、この後ずっと猛攻に晒される。後半開始以降なら、向こうもすぐ選手交代やシステム変更で手を打ってくる。今の時間帯は……もっと本気を出すにも策を発動するにも微妙な時間なのだ。
「指示や修正はハーフタイムに行うから、大きく崩れさえしないなら現状維持で」
と考えてしまうような、ね。
「良いから傍観して時間を浪費してくれんかいな」
俺は――実際に口にしてしまうと意外とせっぱ詰まった声である事に驚きながら――そう言った。戦力に差がある場合、それが劣るチームは勝るチームが見落としがちな部分を徹底的に利用する必要があるのだ。
今回は『時間』がその一つだ。能力に差はあっても、時間は公平に与えられる。相手にはそれを無駄に浪費させ、自分たちは最大限に使う。具体的に言えば向こうには気持ちよく攻撃させつつ最後の所は防いで時間を使わせ、こちらがボールを握った時は安全にパスを回して自分達の時間を引き延ばす。
特にこの後半部分はいずれアローズの戦い方の標準となる筈の手法である。エルフは単純なパワーやスタミナの面では他の多くの種族に劣り、代わりに俊敏性やキックの正確さで勝る。ならばやはり試合中の大半の時間でボールを握り相手の能力が発揮できる時間を削り、自分達がやりたい時に勝負をかけるスタイルを選ぶしかないだろう。
もしフェリダエ相手にもそれが出来る様になれば、他の全ての種族に対しても出来るという事だ。ひょっとしたら今日の試合がその試金石の一つになるかもしれない。
俺はそんな期待をしながら試合の様子を見守っていた。だがそんな想いは少しして、いとも簡単に打ち砕かれる事となる……。
その日の2シャドー、1TOPの下に位置する2名のMFの働きは素晴らしいものだった。いわゆる普通の攻撃的MFからSBの位置まで、彼女らは守備に走り抜かれても追い回し、少ない攻撃のチャンスではボールを必死で保持してDFが息を整える時間を作った。
特にツンカさんの奮闘には鬼気迫るものがあった。相方のダリオさんがPKで得点という目に見える成果を出したので、それに対抗する気持ちもあったのだろう。未だWGからIHへ生まれ変わる経路の道半ばではあるが、周囲に気を配りつつ運動量多くたくさんのプレイに関わり、身体を張った。もしかしたら、イノウエゴブゾウさんのスクープ記事への気負いもあったのかもしれない。なにせ激写されたシーンの一つは彼女が紹介したお店の個室だったから。彼女は何も悪くないし、攻められるべきは俺かゴブゾウさんなんだけどね!
とは言え、それで責任を感じてしまうのがツンカさんと言うエルフだった。それ故に起きてしまった事故、というべきかもしれない。前半39分、フェリダエの新鋭ロニャウド選手がクエンさんを抜こうとしてかけた跨ぎフェイントの足が、ボールを蹴ってしまった。
『オーケイ!』
それに追いついたのはカバーへ入ったツンカさんだった。球体はそのままエンドライン方向へ転がる。彼女はボディカードの様にボールに付き添い、しかし自分は触れないように注意しつつ跨ぎ両腕を広げた。
言ってみれば通せんぼうの様な形だ。この状態を維持すればボールはエンドラインを越え、アローズのゴールキックで再開できる。そうすればボールをセットしラインを上げ、ボナザさんがキックするまでゆっくり動いて30秒以上稼げる。この状況では喉から手が出るほど貴重な時間だ。
でもこれってインピード――進路妨害の反則――なのでは? と疑問も抱く所だ。実はこれが複雑な所で……。ボールをプレイする意図なく位置でもない状態で相手を妨害すればその反則を取られるが、自分のコントロール下にあるボールを守る為であれば正当な行為なのだ。
で、次に疑問になるのは『自分のコントロール下にある』という状態についてだが、これは別にラストタッチ、つまりボールに最後に触れたのが自分でなくてもかまわない。何時でも容易にプレイできる状態と位置関係であれば、十分にコントロールできるとみなされる。ボールに触れないように跨いでいるとかね。
なのでツンカさんはボールにタッチせず、しかし自分が所有していると見なされる程度には近く位置しながら身体を広げた。さきほどボディガードの様に、と例えたが実際に暴漢が接触しない様にガードしつつ重要人物を車のドアまで誘導するSPさながらである。
そこへ『暴漢』が襲いかかった。
『それを寄越すニャー!』
『ノー! ノータッチ!』
ツンカさんが守り誘導しようとするボールを狙って現れたのはFWベニャット選手である。新鋭ロニャウド選手と2TOPを組む彼女はベテランで、相棒と対照的に動きが少なく要所でのみテクニックを生かして急所をつく老練なタイプである。
そんな彼女がマイボールになる見込みの少ない状況でアタックをしかけた。かなり意表をつかれたと言えるだろう。しかしツンカさんは怯まずボールをガードし続け、ベニャト選手の進路に併せて身体をスライドさせた。そしてあと半周、ボールが転がればエンドラインを割る……という状況でラインの外へ倒れる。
「「ファール!」」
ベンチにいる俺たちは一斉に叫んだ。ベニャト選手の爪がツンカさんのユニフォームの肩口に引っかかり、ギャルエルフを引き倒したように見えたからである。
しかし……笛は鳴らなかった!
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