スピードとキーパー
ニャンプノウに到着した俺たちが見たのはスーパーカーどころではなかった。練習前のウォーミングアップで走るフェリダエチームの選手たちは、まさしく風のようにピッチを駆け抜けていたのだ。
地を蹴り爆発的な加速を生み出す脚力、高速で滑らかに足を回転させる股関節、暴れ回る下半身を柔軟に制御する上半身。更にスパイクシューズ無しでも地面をしっかりと捕らえる足の爪までついているのだからたまらない。
そして当然の事ながら、これは準備体操の一部なので彼女らは流している。本気の走りではないのだ。
「いやはや、参ったな」
俺はメモを取る手を諦めて止めて、頭をかく。サッカーもサッカードウも陸上競技ではない。だが『足の速さ』というのは殆どのプレーに効く。単純な突破やスペースへのランニングだけではない。こぼれ球の回収、守備への戻り、単騎突撃した味方へのサポート……。多少、判断が遅くて後から動き出しても余裕で先に目的地へ着いてしまう。
「アーロンで見た時とは違うでありますね」
俺ほど驚かされてはいないが、ナリンさんもやや嘆息気味に呟いた。エルフもサッカードウの中では俊足選手が揃っているチームではある。しかしフェリダエ族には適わないだろう。短足どころか長い足の彼女らは長い距離や最高速度なら良い勝負かもしれないが、加速力ではかなり後手に回る筈だ。
「カップ戦の決勝前とリーグ戦の最中の違いですかねえ」
魔法都市で見た彼女たちはかなり温い練習をしていた。覚えている限りだと柔軟体操にサッカーバレーにミニゲームと、リラックスする為の項目ばかりである。まあこの異世界サッカードウでカップ戦の準決勝と決勝はシーズンの最後に行われるし、リーグ戦を終えた後の一番、疲労が溜まっている時期にやる練習と言えば当然か。
ただそんな中で唯一ピリピリした緊張感をもって練習していたのがGKチームで、俺はそれを指揮する指導者ニャイアーコーチを引き抜いた訳である。
「GK連中はあまり変わらないように見えますが……ナリンさん、そちらもお願いします」
「了解であります!」
俺がそうお願いすると、ナリンさんは軽く敬礼してそちらへ移動して言った。そもそも必要とする動きが違うので、GK達はウォーミングアップからしてFP達と違う動きをしている。しかもその内容の善し悪しは素人には分かり難い。ここはGKも守備範囲であるナリンさんに任せるしかないだろう。
「うぃ、たのんます……」
俺は彼女に聞こえない程度に祈りの言葉を漏らした。正直、フェリダエチームに穴があるとすればGKくらいだ。いや能力は申し分ない。身体能力に秀でているのは言わずもがな、むしろ適正としてはGKの方が向いているかもしれないくらいだ。しかもその手には天然のクッション、肉球と出し入れ自由な爪がついている。GKグローブ無しで弾丸シュートの勢いを殺しキャッチできてしまうのだ……てこれ足とスパイクの時も似たような事を言ったね!
それはともかく。で、あるにも関わらずGKは構造的に特にフェリダエチームの穴である。いくらかは今朝に指摘した内容と共通点があるが特に猫族だから、という理由が三つある。
一つ目。王者のチームは圧倒的強者のチームで、殆どの時間でボールを握り――と言うのは比喩的表現です。実際には手で握ったらハンドだからね! サッカー関係の記事でも何の疑問もなく使ってるよな――攻撃している。故にGKは出番というかプレイ機会そのものが少ない。ボールに触れるとかシュートを受けるといったGKの実戦経験が非常に少ないのだ。
実はこれ、地球でも割とある現象なんだけどね。現代でこそGKを攻撃に組み込むチームも増えてその傾向は薄れているが、一昔前は
「強豪チームなのに、いやだからこそGKは2流」
みたいな組織が多かったのだ。ファンも派手な攻撃陣に目が行きがちだし、GKにまでお金をかけませんよ? 的に。
それはそうと二つ目。フェリダエ族は瞬発力型の種族であり一言で言えば我慢強くはない。サッカードウでも狩りでも戦争でも、序盤から攻勢に出て一気呵成の勢いで相手を倒す戦い方が好きである。
もちろん個人差というか個猫差はあり猫族の中でも比較的、辛抱強いマゾ寄りの猫がGKを勤めているのだが。ただ例えばFWと一対一を迎えた際、ポジションを修正し最後まで相手を見極めるよりは、前に出てシュートコースを消したり身体ごと飛び込んでいったりするのを好む。
その結果、一か八かの賭に出て負けて意外とあっさと失点してしまう事がある。一言で言えば性格的にGK向きではないのだ。
そして三つ目。サッカードウ全体の問題点と繰り返しになるが、GKの地位が低い。非常に重要なポジションであるのに人気が無く、優秀な若者はみなそれ以外のポジションを目指す。その結果、これほどの強豪種族でサッカードウに熱狂している割に、GKの名選手が少ないのだ。
以上三つの理由の結合結果が宿舎で流していた映像の失点シーンだ。俗に『ニャイアミの奇跡』と呼ばれた――当時『恋のニャイアミ』という歌が流行っていたからとか――試合の後半13分に、簡単なボールの処理を誤ってDFとGKが交錯した。あの失点はサッカードウのどのチームでも起こりえる現象だったかもしれない。だが俺は、フェリダエチームだからこそ生じたと考えている。
そして出来るなら、それを次の試合で再現できないだろうか? とも思っているのだ……。
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