嫉妬しながらシットダウン
俺たちを待っていたのは、巨大な象の様な生物が引っ張る馬車だった。
「おい、おせーぞ!」
ティアさんがそう怒鳴る。待っていたのはそれプラス、先に乗り込んだ選手とスタッフたち。そして……
「カピトーン!」
「シャマーちゃーん!」
と、俺と共に遅れてきたアローズキャプテンへの悲鳴にも似た声援だった。
「ごめんごめーん!」
俺は象車に乗り込みながら大声で叫び返す。何せ周辺は様々な大きさ色のフェリダエ族に囲まれ、かなりの騒音だったからだ。
「いやしかし、アウェイのチームにもこんなファンが来るもんなんですね!」
「フェリダエ族はサッカードウ全体が大好きだからねー」
俺に続き観衆に手を振りながら、シャマーさんが応えた。塔の中にいた時と違って、非常にクールで超然とした雰囲気だ。まさしくカピトン――ポルトガル語でキャプテンの意味だ。かつては登録名がそのままのカピトン選手もいた――と呼ぶに相応しい。
「それにしてもシャマーさん凄い人気じゃないですか! しかも男女から!」
俺は彼女への声援にちょっと羨ましさを込めて言う。なお先ほど、
「カピトーン!」
と叫んだのが男性のフェリダエ、
「シャマーちゃーん!」
と読んだのが女性のフェリダエ族だ。いやまあ、Jリーグでも男女でコールのパートを変えているサポーターもいるけどね。
「フェリダエ族がサッカードウの次に愛するモノがあります」
先に車内に入って、俺たち以外の着席を確認していたニャデムさんが側に寄ってきて言った。
「なんですか、それは?」
「『美しいもの』です」
「はあ」
俺が、彼の良い声で発せられた言葉に呆気にとられているのを横に、ニャデムさんは手をさっと振って続ける。
「エルフ代表の皆様はもともと美しくてフェリダエ族のお気に入りですが、今日はまた一段とお美しい! 同じ装束に身を固めた今のお姿は雨で増水したニャプラタ河の濁流のようだ!」
更に気障な台詞が続くと、一瞬の静寂の後にどよめきがアローズを走った。
「いぇーい! 『美しい』って!」
「とうぜんですっ!」
「よぉ、見る目があるじゃねえか! どっかの『監督』と違ってよ!」
ユイノさんが素直に喜びエオンさんが満更でない感じで胸を張る。あとティアさん、こういう時だけ監督って呼ぶなや。
「濁流って美しいんですかね?」
「これが例の『髪飾りの色が象徴するもの』だよー」
俺が小声で訊ねるとシャマーさんはそっと教えてくれた。ああ、そう言えばそんなものもあったな!
「随分、格好つけた物言いをするものなんですね」
自分では咄嗟にそんな語彙が出てこない悔しさを滲ませ呟く。
「フェリダエ族ってロマンティックなのよー。ニャデムもそれに倣ったってこと」
アローズ随一の物知りさんはそう言いながら先頭座席に腰を下ろし、ポンポンと隣の椅子を叩いた。因みにこの象車は地球のバスの様に中央に通路があり、それを挟んで左右に2座席づつ設置された配置である。
こういう形式だと先頭部分に俺とナリンさん、或いは俺とザックコーチが座るのが通例であるが、今回は監督と主将が最後に来たのでそういう流れになっている。
「まあ、それは最近なんとなく分かってきましたが」
俺は仕方なくシャマーさんの横に座り言う。ニャイアーさんもたまにそんな感じだが、以前はそれは彼女の個性だと思っていた。しかし最近の学習の結果、及び今日の出来事で考えも改まった。なるほど、猫人族はロマンティック……と。
「しかも相手のエルフに合わせた言い回しをするなんて、凄いです」
「それがコーディネーターの仕事だもんねー」
キャプテンが事も無げに返事すると同時に、象車が動き出した。車体が大きく揺れて、シャマーさんの前髪が彼女の目元を隠す。
「仕事、か」
表情が半分くらい見えないせいで、ドーンエルフの表情は冷たく突き放したように思えた。だがそれもあながち間違いではないのだろう。
サッカードウの選手もプロで、コーディネーターもプロだ。それぞれの職務を果たし、やり抜く事に誇りを持っている。まだ学生のレイさんですら、DFに激しく削られ足に傷跡が残ろうとも平然としていた。
彼女らに比べたら俺はまだまだアマチュアだ。様々な幸運と多くの生物の温情によって、なんとかこの仕事を続けているに過ぎない。
もっと、もっと多くの事を学び、チームを強くせねば。
「シャマーさん、その……」
象車はまだアローズファンが作り出す騒音の中だ。それでもシャマーさん以外に聞かれるのは恥ずかしい。俺は彼女の長い耳に唇を寄せて、そっと囁く。
「これからもご指導ご鞭撻のほどを」
「え? 突然、どうしたのショーちゃん!?」
俺の言葉を聞いた天才魔術師は驚いてやや声のトーンを上げる。それで皆に気付かれては元も子もないので、俺はしーっと指で合図して話す。
「いや、単に色々学んでいきたいな、と」
「ふーん、そう」
俺がそれ以上、話す気がないのを察したか、シャマーさんの返事も簡潔だった。だたしばらくして
「やっぱりショーちゃんは最初から最後までー、私が面倒みないとダメねー」
と呟いた。
「え? それどういう意味ですかシャマーさん?」
「ううん、単にたくさん手助けしたいなー、て」
彼女はそう言うと、そっと二人の座席間にあった肘置き――どちらが使うか、常に奪い合いになるよね!――に置いていた自分の手を、俺の太股へ置いた。
今こそ空いた領土を奪うべきタイミングだ。しかし攻撃を放置する訳にもいかない!
それから宿舎までずっと、手や肘の置き場所について俺とシャマーさんの戦争が続いた。何か聞く事があったはずだが、それは完全に何処かへ行ってしまった……。
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