観光案内所
ニャデムさんの言う通り塔の内部はちょっとした観光センターになっており、フェリダエ族第二の都市ニャルセロナの歴史や名所が分かる様々な展示物が並べられていた。知らない地方へ旅行して大きな駅に行くと駅ナカにそんなスペースあったりするよね? あれ結構、好きなんだよな。
「でね、塔の直下には地下水脈もあってー。海まで続いているんだよー」
しかも今はガイド付きだ。ああいうセンターにいるのはやる気のない職員さんかボランティアの地元のお爺さんお婆さんだが、片腕で俺の腕を抱え込み逆の手で方々を指さしながら解説をしてくれているのは、楽しそうで知力と魅力に溢れているお嬢さんだった。
「シャマーさん、ガイドはありがたいんですけど、ちょっと近いです」
前を行くニャデムさんに聞こえないよう、キャプテンへ囁く。コーディネーターさんは仕事を放棄し、友達に案内を任せて音もなく歩いている。黒豹の姿では解説し難いからか、友の意向を汲んでからか。
うーん、たぶん後者だろう。変身術の名手なんだからまた話し易い姿になれば良いんだし。
「えー? でもショーちゃん、若くて可愛い女の子から、こんなふーに密着プライベートレッスン受けるの、好きなんじゃないのー?」
シャマーさんはそう言って笑いながら俺の目を覗き込んできた。もしかしてアリスさんとの勉強会の事を言ってる!?
「どこ情報ですか、それ。どうせどこかのゴシップ記事からでしょ? 出所の怪しい話を鵜呑みにするのは感心しないなー」
俺は明確な回答を避けつつ質問も返す。うむ、これなら嘘はついてないし逆に情報源を探ることもできるな!
「ポリンちゃんからだよー。アリス先生ってあの子でしょ? キックターゲットのパンチラ」
シャマーさん言い方! と思ったが情報源の方はガチだった。やばい、どこまで知られているんだ!?
「ああ、アリス先生との勉強会の事ですか。ポリンさん達の学校の、国語の教師との事でエルフ文学について教えて貰っているんですよ。初期デイエルフ文学における一人称の違いとかね! でも驚いた、ポリンさんとそんな事まで話しているんですね!」
やや早口で口数も多過ぎたか? 俺はリアルタイムで自分の回答にダメ出しをしつつ問う。
「うん。今回、攻撃チームで話す機会がいっぱいあったからねー」
シャマーさんは何かを思い出す時の様に、上を見上げながら言った。そうか、今まであまり接点が無かった選手同士が交流を持てたんだな。それは今回の練習の思わぬ副産物だな。
「じゃあショーちゃん、その付近をやってるなら未婚女子の髪飾りの色が象徴する感情表現とか分かるー?」
「ええ!? シャマーさんは理解しているんですか!?」
俺は思わず大声を出した。アリス先生に出された問題で、俺が苦戦していた部分がその辺りだからだ。
「余裕よ、よゆー。私はムルトと並んで、学院始まって以来の妻女だったんだからー! 教えて欲しい?」
マルシルみたいな事を言うシャマーさんだが、俺はその問題を考えている時は頭がマルセロ――ブラジルきっての名左SBだ。コントの爆発後みたいなアフロヘアーが有名である――みたいになっていた。正直、教えて欲しい。
「あの、宿題でそれっぽいのが出てまして……今度、見て貰えますか?」
「ふふっ!」
そう依頼する俺の声に吹き出したのは前方のニャデムさんだ。顔も身体も前を見てはいる。しかし耳だけはこちらを向いていた。確か猫族は耳付近の筋肉が非常に発達しており、かなり複雑な動きができるらしい。また一見するとポーカーフェイスで心が読めないが、耳や尻尾はかなり素直でそれを見ると感情の動きが分かる、とも言う。
ってこの知識、対フェリダエ族に使えないかな!?
「ショーちゃんにお願いされたら断れないなー。良いよ、えっちで楽しいプライベートレッスンにしよーねー」
「はい。ええ、そうですね。身体は正直というか、興奮すると太くなって立ってしまうとかあるかもしれません」
「「!?」」
上の空でそう応えながら歩いていると、いつの間にかニャデムさんが立ち止まっていて危うくぶつかる所だった。まあちょうど、猫の尻尾について考えていたから、尾を踏んでしまう事はなかったが。
「ショーちゃん……」
「ショーキチ監督、シャマーとはそういう関係でございましたか。もし、影武者が必要な時は何時でもお声かけ下さい」
止まっていたのはシャマーさんもだった。変身生物とドーンエルフは黒い顔と赤い顔で俺を見つめて、なにやらモジモジしている。
「あ、すみません。考え事をしていて。ちょっと早足になって、皆に追いついた方が良いですかね?」
気付けば他の選手スタッフは同じ階にはいない。もう階下へ進んでしまっているのだろう。
「そうですね。では少々お待ちを」
ニャデムさんはそう言うとまた身体を崩し、最初に見た時の様な女性の姿になった。きっと階段を降りるのに不都合なんだろう。猫ってどんな動きも滑らかに行える生物ではあるんだけど、その動きだけはやや下手なんだよね。
「お尻を上に突き出すのって、間抜けでもありますもんね」
俺は階段を下る時の猫の姿勢を思い出して呟いた。
「もう、えっち! でもショーちゃんが望むのなら……考えておくね?」
それに対してシャマーさんが訳の分からない返事を言う。いや、今の独り言なんだけど……まあ良いか。
「急ぎましょう。そうでなくても今日は遅い到着なんだし」
俺は頭上にハテナマークを残したまま、ニャデムさんを追って階段の方へ行った。
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