二つの陣営へ想いを
一方的な攻撃に耐えながらカウンターを狙う、時々で退場者が出たり攻撃側の人数が11名以上に増えたりという理不尽にも対応する、という練習は翌日も続いた。ちなみにこの形式の練習、実は明日も含め水木金と三日連続で続く計画である。
本来であれば金曜日は移動日なので軽く終わらせて着替え、フェリダエ族のニャンダフル連邦共和国へ瞬間移動する予定なのだが、思いのほか白熱してしまいなんと選手の方から
「移動日もみっちりやりたい」
とのリクエストが出た。
守備側のメンバーにマゾ体質のエルフが多いこと、逆の攻撃側に攻撃大好きなメンバーばかりいる事がその原因だった様だ。それぞれ
「こんなに守備の練習ばかりできて楽しい!」
「こんなに攻撃の練習ばかりできて楽しい!」
と伝えてきたのだ。
うーん、アメフトみたいに攻守でチームが丸ごと違う競技が広まっていればとか、一生残留だけを目指すチームの様に攻守分断型のサッカードウをしていればみんな幸せだったのかもしれないな……と俺は苦笑を漏らした。
いやそれではアローズとしての未来は無いな。そのやり方だと個の力で得点を穫れる選手、例えばレイさんやリーシャさんに何かあった時点で終わってしまう。モーネさんやカイヤさんが駄目になった途端に調子を落としたかつてのチームの様に。
どんな選手にも調子の波というものがあり、ずっと好調ではいられないのだ。古典だと
「盛者必衰の理」
とかいうんだっけな?
とは言え、このやり方をオプション――スポーツ業界全体で使う言い回しで、要はプランBとか奥の手の一つとかを格好良く言っただけだ――として持つのは悪くない。俺はコーチ陣と相談の上、選手たちの要望を受け入れ理不尽守備練習を続けた。
その一方で個人的には遂に、あの時を迎えていた。そう、アリスさんとの相互勉強会である。
「諸行無常の響きあり……か」
ディード号の上で、夕日の色に染まるシソッ湖の港を眺めながら俺はそう呟いた。日中の漁に出ていた漁船が次々と帰港し、その到着を告げる鐘の音が赤い空に響いていたのだ。
「この辺り、エルフの皆さんには共感して貰えないだろうなあ」
そう独り言しながら自分の中のセンチメンタルな気持ちを笑う。歴史上、人類の国家政治体制は何度も代わってきた。もちろんいろんな理由があるが、人間の寿命というのはその原因の一つである。どんなに優れた為政者も年老いて死ぬ。いや、死ななくても老いるだけで体制に影響が出る。判断が鈍り、誤った選択をして国家や政権を苦境へ誘うのだ。
しかしエルフは長命だ。この大陸でドラゴンに次ぐ歴史を誇り、一つの国家をずっと存続させてきている……らしい。作品によってはその長すぎる生命が堕落や怠惰を招き滅びに向かう、というエルフもいるようだが、少なくともこの世界のエルフは違うようだ。長いエルフ生を全力で楽しみ、様々なモノを研究し続けている様に見える。
そんな彼ら彼女らに日本の古典に流れる無常感みたいなモノを理解して貰えるだろうか?
「でもまあ、長命の割に生き急いでる感もあるしな」
ふと、そんな事も考える。なにせ勉強会の場が決まったのが火曜日の夜、ポリンさんに伝言をお願いしたのが水曜の練習後、そして木曜の午前中にはOKの返事が来てその夜に開催となったのである。かなりのスピード感だ。
世の中には、エルフの寿命の長さを表現する一つの方法として時間のスケジュールが違うことを強調する作品やゲームもある。
「また今度あおう!」
と約束した『今度』が10年後とか。それに比べればほんの数日で話が決まって開催に至ったアリスさんはかなり短気と言えよう。
いや短気というかせっかちか。まあともかく、そのため俺はかなり急ぎで準備を整え、船を走らせ気持ちもそれ用にチューニングしていた。平家物語の有名な言葉が脳裏に浮かんでしまうのも、それが原因である。
因みに本来、アリスさん用に用意した教材はクエンさんから借りた源氏物語だ。源氏物語と平家物語、関係してたり対立してたりしそうな名前だが実はあまり関係がない。時代も違うしジャンルも遠い。プレイボーイの恋愛モノとミリタリーモノだし、源氏物語の源氏は個人の名前だ。ただ古典というだけで芋蔓式に思い出しているだけである。
一方のアリスさんはどんな準備をしてくるだろうか? たぶん、エルフの代表的な文学とか王国の成り立ち存続に関する叙事詩的な作品を教えてくれるだろう。確かエルフにおける国語の先生の筈だし。
そういった事を俺、つまりサッカードウの代表監督が学ぶ事に意味はあるのか? と疑問に思われるかもしれない。だが何気にそういうディティールが大事なのだ。この世界のエルフの精神性をより理解すればまた選手のエルフ心掌握に繋がるし、普段の世間話のネタにもなる。
それになりにより、記者会見とかで監督が、その文化で『教養』とされている作品の言葉を引用したら格好良いじゃん!
……等と不届きな事を考えながら、俺は運河に船を進めて行った。
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