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豚の目にも何か

 FKの位置はレイさんが倒された――ように見えた――場所でペナルティアークのすぐ外右側。直接狙える位置だ。右足でも左足でも、壁を越えても下を通しても行けるポジションだ。

 だが俺たちはさし当たり、下を捨てるパターンを選ぶ事にした。

『ブヒ!? なんだおまえ等!?』

 FKのコースを遮る壁に入ったオークFWが困惑の声を上げる。その対象は彼女の前に並んだ、レイ、ダリオの2名へ、だ。

 彼女たちは揃って、片膝を付き身体を開いて隙間無く座っていた。アメコミ映画でヒーローが飛んできたり高い所から降りてきたりした時に片足を立ててする姿勢、いわゆる『スーパーヒーロー着地』と同じポーズで、である。

 オーク代表選手、大部分の観客たち――アローズゴール裏のサポーターたちは違う。彼ら彼女らはキッカー2名の応援歌を歌って声援を送り続けている――が困惑した顔で周囲と囁きあったり審判さんの顔を見上げたりするが、ルール上は何の問題もない。

 問題があるのはオーク代表のGKだった。

『チョ……! これじゃ駄目だブヒ!』

『何がだブゥ?』

「ピッ!」

 オーク代表のGKが必死で事態を伝えようとする中、無情にも審判さんの笛が鳴りプレイ再開が告げられた。それを確認したポリンさんは大きく深呼吸をして助走の為に3歩、後ろへステップを踏み……

『曲がって落ちろ! なのだ!』

 アイラさんがノーステップで左足を振り抜いた!


『ボールが見えないんだブヒ!』

 そう味方DFへ叫んだオーク代表のGKは恐らくではあるが、アイラさんの蹴ったボールが壁を越えてから初めて回転する球体を目にした。

『どっちブ……』

 ポリンさんアイラさんどちらがキッカーだったか、どのようなコースを辿るか、いやそれ以前にどのタイミングでインパクトされたかもGKさんには分からなかっただろう。彼女はそのボールが平和とも表現できるスピードで、緩やかに曲がって落ちながらゴールネットへ吸い込まれるのを不動で見守るしかなかった。


『PKを与えた汚名挽……上なのだ!』

『バンジョーって楽器かよ! 返上だろ!』

『おそらく挽回って言い掛けたのでしょう? でも良いFKでしたわ!』

 ゴールを決め会心の咆哮を上げコーナーフラッグの所でポーズを決めるアイラさんに、ティアさんムルトさんが駆け寄り祝福する。壁の前に座っていた2名やこぼれ球を狙う為にゴール付近にいた他の選手達も次々とその輪へ加わっていった。

『アイラさんナイスです! 素晴らしいキックです!』

『ケンブウ君はリーグ屈指の名手だ、彼女から直接奪ったのは価値がある!』

 ナリンさんとニャイアーコーチが手を取り合って喜ぶ。

『ボールが見えないとはGKにとっては悪夢じゃの』

『うむ。しかしたったアレだけの工夫でGKの目線から隠してしまえるとは……』

 ジノリコーチとザックコーチも何やら言いながら苦労してグータッチを交わした。

 俺はと言うと……その間ずっと、スタンド席に向かって両手を振り上げ観客たちを煽っていた。

「いいよー! もっと声をあげてー!」

 意味は通じないだろうが、仕草やテンションで言いたい事は伝わると信じる。練習を指導する、作戦――と言うより小細工だったが――を授ける、選手を選抜するといった事も大事だが、チームをのせる(気分よく戦わせる)というのも監督の重要な仕事だ、お客様の力を借りてでもやっておいた方が良いだろう。

『ちょいちょい』

「ひゃん!」

 ふと、広げた両腕のわき腹をつつかれて俺は思わず声を上げた。

「シャマーさん!?」

『ショーちゃん、アイラの代わりに私とキス&ハグする?』

 シャマーさんが振り向く俺の耳に何か囁いてきた。俺が助けを求めるように辺りを見渡すと、ナリンさんがすぐにすっ飛んで来る。

『どうしたのシャマー?』

『あ、ナリン。早いわねー。まあいいや、ムルトが限界かもしれない』

『あら! 意外ね』

 二人が視線を送った先には、ゴール前でボナザさんから水筒を受け取って浴びるように水を飲むムルトさんの姿があった。

「ムルトさんですか?」

「はい。シャマー曰く、交代した方が良いかもしれないと」

 オーク代表から山の様に浴びせかけられるロングスロー、それを主に跳ね返してきたのは彼女だった。繰り返される空中戦、飛距離が稼げないクリア、他の選手よりやや劣る実戦経験……。元が会計職の彼女にはかなりの負担だったろう。あと俺とマイラさんのせいで水分補給が滞った、てのもあるかもしれない。

「じゃあムルトさんはマイラさんと交代で、CBにはリストさんを入れましょう。2TOPはレイさんとポリンさんの若者2名で」

 俺は素早く指示を出し、ボードに変更後のフォーメーションを書き込む。

「高さを一つ、失いますが補給は要らないでありますか?」

「ええ。心配しなくても、もうロングスローは来ませんから」

 俺はエルフ代表の得点に沸く砂被り席の様子を目に収めつつ、そう言い切った。

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