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優先順位

「とりあえず、俺の中で結論が出ているお金回りの話からしましょうか」 


 全員が事務室の椅子に座り、運ばれてきたお茶を飲んで一息ついた所で俺は話を切り出した。

「商機を逃してはいけませんから、ユニフォームは過去のバージョンのを増産して売りましょう。新しいユニフォームのデビューは、デザインやスポンサーの選定をじっくりやってカップ戦で、という事に」

「では現在売り込んでいるスポンサー希望の方々にはそれまで待って頂きますの?」

「基本的にはそうですが、もし希望されるのであれば、ユニフォームではなくスタジアムや周辺運河への広告を提案しましょう」

 俺がそう返答すると、ナリンさんが思い出したように言った。

「選手がスタジアム入りする運河の岸に応援席を用意して、そこからも声援を送れるようにする、と仰っていた件ですね?」

「ええ」

 先日、ミスラル・ボウルで試合する前に思いついた事を、既にナリンさんとムルトさんには話していた。流れが読めない他のエルフに彼女が内容をかいつまんで伝える。

「あとスーツはどのみち時間もかかるしロングテール(息が長い)商品なので、ア・クリスタルスタンドの方が大事ですね。全員分の撮影と生産を急ぎましょう」 

 スーツはもともとニッチな商品で、単価も高いし想定される客層はかなりのマニアかお金持ちだ。あとからじわじわと売れて儲かれば良い。今はにわかファンが手を出し易い商品を素早く提供する方に全力を注ぐ方が良いだろう。

「……となると、ますます全員の居場所が問題ですね」

 ダリオさんは窓際に歩み寄り外を眺めながら言った。まるでそこから眺める風景の中にターゲットがいるかのように。

「そうですね。みんなを集めないとア・クリスタルスタンドの為の撮影もできない。ところで不明者を探す事も大事ですが、エルヴィレッジの方のみんなは大丈夫ですか?」

「はい。そちらは問題ありません。森林警護隊が普段より人員を増加して警備にあたってくれています」

 アローズのクラブハウスであるエルヴィレッジはシソッ湖東岸の森、奥深くの俗世とは隔絶した場所にある。これは物理精神両方の意味であり、広大さなら不案内なデイエルフですらも迷う程。しかもその所有者は王家……とのダブルパンチ。

 神聖で鬱蒼とした森を守るエルフの恐ろしさを少しでも知る者ならば、とても潜入を試みたりはしないだろう。

「まあミラネッロ(ACミランの練習場)みたいなものですもんね。良かった」

「はあ。ミラネッロですか?」

 謎の単語に首を傾げるダリオさんたちに説明をしつつ、俺は所在不明者リストの一番上の名前を叩く。

「一人見つければ芋蔓式に見つけられるような気もするんですけど」

「ですね。まったく、シャマーと来たら……」

 俺が指先で弾いた名前を見てナリンさんが苦笑をする。

「彼女がその他を連れ歩いて遊んでいる、とは限りませんが、そうじゃなくても彼女を捕まえれば捜索を手伝って貰えますもんね。何処か心当たりはありませんか?」

 俺がみんなを見渡してそう言うと、ムルトさんが眼鏡を外し眉間を揉みながら応える。

「三日程度の休みでしたら、アーロンの研究室や実家へ戻ったとは考え難いですわ。自分の塔へ帰ったか次元の旅をしているか……」

「ちょっとちょっと待って! 情報量が多い! 実家って……シャマーさん親の家あるの!?」

「ええ。シャマーはアレで王国名門の娘です。私も幼少の頃からご両親ともおつき合いさせて頂いていますが」

 俺の驚いた声に、ダリオさんの方が説明を返した。

「まさか木の股から産まれたとでも?」

 はい、実はちょっとそう思ってました! いやだってご家族との懇親会の時は『ウチは要らない~』て何も教えてくれなかったからさ!

「彼女にちゃんと両親がいて、しかも名家のご息女とか……」

「普段はめっちゃ自由な感じがするもんな。やばっ、ギャップ萌えやん!」

 こちらは至って庶民の娘、下町の女レイさんのコメントだ。

「そっちの設定は呑み込んだとして。自分の塔、てなんなん?」

 設定とか言うなや! と思いつつ俺も気になっていたので誰かの説明を待つ。

「魔法使いはある一定の位階になると、実験用に自分の塔を建てるのですよ。シャマーのは基本的に王都の外れのここにありますので、そこへ行けば会えるかもしれません」

 ナリンさんが壁に貼られた地図の一点を指さしながら言った。

「基本的に……ですか?」

「ええ。物理的に、と言った方が正確かもしれません。時折、彼女の塔は魔法の実験で消えたり姿を変えたり、別次元へ飛んだりしますので」

 そんな事もできるのか!? ってそれがさっき言った『次元の旅』ってやつか!?

「じゃあそこにもいないかも、ですか。困ったな」

「同じく次元の旅を得手とするコンビにお願いするしかありませんね」

 俺が困った顔をすると、ダリオさんが腕を組みため息をつきながら言った。

「(姫様のため息って素敵やわ~)」

「(レイさん何言ってるの!)」

 思わず視線がダリオさんの胸元へ行ったが、レイさんの呟きで我に返る。ふう、危ないあぶない。

「スワッグとステフの事ですね?」

「ええ。彼らはレイさんとポリンさんの護衛ではありますが……」

 報告によると学校にもマスコミは押し掛けていると聞く。まあ現役学生のレイさんポリンさんがあれだけ活躍すればなあ。

 その為、護衛である一人と一羽の仕事はかなり重要なものになっているが、シャマーさんを探し他のメンツを探す為にはその任を一時的にでも解くしかないだろう。

「そうですね。ごめん、レイさん。学校を休んでポリンさんと一緒に、一時エルヴィレッジの方へ避難して貰っていいかな? スワッグとステフを捜索の方へ割り振りたい」

「ええで。クラスメイトに迷惑かかるのも悪いし」

 レイさんは快く即答した。まあ勉強嫌いな彼女はそうだろう。申し訳ないのはポリンさんの方だな。

「学校への謝罪や連絡はポリンさんを迎えに行った時で良いですかね?」

「そうですね」

「よし、と。これで議題は終了かな? まだ何かあったっけ?」

 俺がそう言うと全員がそれぞれ虚空を眺めて記憶を探る。

「商品の発注、スポンサーへのお知らせ……は了解ですわ」

「森林警備の増員は終わっていて、スワッグとステファニーへの話はこれからです」

「ア・クリスタルスタンドの撮影も全員が揃ってからですね」

「あっ! それだ!」

 ナリンさんの森林警備、という単語で俺はある森林警護官の顔を思い出した。

「メディア向けセレモニーへ連れて行く選手なんですが……」

 俺がある選手の名前を挙げると、意外なことにその場の全員が実に神妙な顔で応える事となった……。

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