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実験!

「陰謀ある所にスワッグステップあり! スワッグステップある所に騒動あり!」

 いや前半分はともかく後ろはどうなんだ? と悩む俺にダスクエルフの少女が肩を組んできた。ステフだ。いつの間にかスワッグも近くに来て謎のポーズをとっている。

「ショーキチ、何か忘れてないか?」

「……飯か? 練習の後だぞ?」

「違うわ! アタシは潜入工作のプロ。そして相棒のスワッグはグリフォンの姿をとってはいるが、風の眷属の王……の子孫だ!」

 ああ。そういう設定もありましたっけね。

「で? 時間が無いから要点をまとめてくれない?」

「つまりだなー。もしそういう怪しい機械があるなら、アタシが操作室へ潜入してささーっと動かしてやるよ。でスワッグがその風の詳しい動きを分析してやんよ」

「分析するぴい!」

 ステフの潜入はともかくスワッグの分析か……。誰と何回、どんなキスをしたとかそういうのしか記憶にないので不安だなあ。

「そういうまどろっこしいのではなく、破壊してしまうとか止めてしまうのはどうなんだい?」

 ニャイアーコーチが物騒な事を言う。

「どうでしょう? 普通の空調装置と結びついていると本来の機能に支障をきたすかもしれませんし、そうでなくて単体として動いていたとしても大事になりそうだし」

 俺はスタジアムパニックものの映画を思い浮かべながら答えた。

「あ、暴くだけあばいてさ。ふっ、不正行為だ! って|DSDK《ドラゴンサッカードウ協会》に訴えるのはどう?」

「はたして不正行為に中るか、DSDKがどう判断するか分からん。いずれにせよ、それを待つ時間も無い」

 ジノリコーチが俺に代わってサオリさんに答える。確かにそんな時間はないし、或いは『判断が出るまで試合はしない』って訴えるのも何か逃げ腰な気がするし。

「この世界に監視カメラや操作ログなんてないだろうけど、痕跡が残ると困るな。バレない程度に探して、もしあったら数秒だけ動かして、故障や誤作動に見せかけて素早く逃げ帰ってくれ。その数秒で風のラインをなんとか見極めよう」

 俺はそう宣言し作戦と人員の割り振りを皆と相談した。決行はこの後、練習が非公開に移ってからだ。

 まずステフとアカサオが引き上げる報道陣に混ざってグランドから去り、スタジアムの設備部分へ潜入する。そこからはかなり二人のアドリブに頼ることになるが、恐らくドワーフに変装したアカリさんが操作室のドワーフをおびき出し、魔法で透明になったステフが中へ入る。

 俺たちはそれぞれ上からスワッグ(空中)、ジノリコーチ(観客席最下段)、ニャイアーコーチとナリンさん(ピッチに立ちニャイアーコーチがナリンさんを肩車する)が各層で複数の長さの布を持ち、ステフの操作を待って風を感じるか? もし感じたらどの程度の強さか? を計る。そして俺がメインスタンドの低い位置から記録映像を撮る。

 その感、選手の練習は見れなくなるがザックコーチに任せよう。どうせセットプレーの確認だけだし。

「くれぐれも荒事とか危険な工作とかは避けて下さい。自分たちの身の安全を優先して」

「あいよ!」

「任せて」

 ステフは快活に、サオリさんは気合いの入った声と顔で応えた。さあ、作戦開始だ。


「監督ーぅ! みんななにやってんの?」

「放っておきなさい。どうせまた集中力を削ぐ作戦とかでしょ」

 CK練習の合間、俺に気づいたユイノさんがボールを投げ返しながら質問し、リーシャさんがそれを受け取りながら言った。

「うんまあ、そんな感じ!」

 二名に上の空で返事しながら、風を待つ。集中力が削がれたら困るのは俺達の方だ。何せ潜入がどれくらいで成功しいつ風が吹くか分からないから。

「ニャイアー、重くない?」

「いや、幸せだよ」

 肩車のナリン&ニャイアーコーチコンビも準備万端の様だ。長身のニャイアーコーチの肩に座ったナリンさんの頭部付近は2.4m、つまりクロスバーの高さに近い。

「ジノリコーチとスワッグはー?」

「準備OKじゃ!」

「いつでも来いだぴよー」

 ジノリコーチも上空を旋回するスワッグも問題無いようだ。後は例の二人だが……。

「ショーキチ殿! もしかするとです!」

 ナリンさんが鋭く叫んだ。その時は、急に来た。


「ごおおお!」

 練習している選手や何かの作業をしているスタッフには分からないかもしれない。だが集中している俺たちには確かにその音が聞こえた。

「思ったより大胆だな!」

 俺は見えないと分かっていながらも、来る筈の風を目でも探す。冷静に考えればあの装置がもし動くとすれば、大観衆が入った試合中だ。多少の作動音など気にする程ではないのだろう。

「スワッグ、どうだー?」

「この付近ではないぴよ。あ、ナリンちゃん!」

 まずは最も広範囲をカバーするスワッグに問いかけたが、グリフォンの返事は風ではなくナリンさんに関するものだった。

「ナリンさん!? 何を……あっ!」

 そのナリンさんはなんと、ニャイアーコーチの肩の上に立っていた。雑伎団やサーカスの曲芸師もかくや、というバランス感覚だ。だが驚くべきはその立ち姿ではなく、彼女の頭部から伸びる、風に舞い美しく棚引く長い黒髪だった。

「ショーキチ殿ここです! この高さに強い風が!」

 彼女はエルフの鋭敏感覚で、風が『自分より上、ジノリコーチがスタンバイしている付近よりは下』と察したのだろう。それで危険を犯して立ち上がったのだ。

「ニャリン、分かったから危にゃいって!」

「了解です! 録画します!」

 俺は目当てのモノを見つけてはしゃぐナリンさんに手を振り、魔法の手鏡を準備して記録に入る。それを確認したナリンさんは振り返り、逆方向のゴール付近にいるボナザさんに声をかける。

「ボナザー! ちょっと私に向かってボールを蹴ってみてー!」

「ええ? ああ、良いけど……」

 今のナリンさんの上半身は軽くクロスバーを越えている。あの高さに選手がボールを蹴る機会はそう多くない。だが強いて言えばGKによるパントキックならまあまあ、あるだろう。

「行くぞ!」

 ボナザさんはそう言うとバスケットボールのドリブルのようにボールを2度ほど弾ませてから掴み、落下させつつ上手くタイミングを合わせて空中で蹴った。

「やっぱ綺麗だなあ」

 普段のボールをトラップする、蹴る、については元FWのユイノさんに分があるが、こういうGK特有の動きと長距離のキックはやはりボナザさんの圧勝だ。

 まあFWはそこまで長い距離のパスを出さないもんな……と考える間にも、ボナザさんの蹴ったボールは風に乗り、グングンと伸びる。

「え? うそ!」

 誰よりも驚いているのはボナザさんだろう。本来であれば失速して落ちるだろう……と彼女が予測した地点を軽く越え、ボールはなんとナリンさんの上を通り越してペナルティエリアの真ん中へ落ちた。

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