監督会議その1
監督カンファレンスはまずDSDKの役員でありレフリーでもあるストックトンさんの挨拶から始まった。あまり長々とした口上は述べずさっと終わり、後を引き継いだ司会進行役らしいリザードマンさんが大会開催要綱の説明を始める。
リーグは凡そ9ヶ月に渡って行われ、合間にカップ戦用の予選リーグと決勝トーナメントが挟まれる。リーグ戦は本リーグ、カップ戦の予選リーグ共、基本的にホーム&アウェイ、決勝トーナメントは中立地のアーロンで一発勝負。部屋の真ん中の球体に詳しいカレンダーが写されているが特段、珍しい形式ではないようだった。
さして質問も出ず話は選手登録や用具申請の方へ移る。俺は予定通りナリンさんにそちらの確認を任せ、薄暗い照明に照らされる監督たちの表情を盗み見る事に専念した。
退屈そうな顔、生真面目にメモを取り頷く顔、虚無の顔……。べっぴんさん、べっぴんさん、一つとばしてべっぴんさん……ではないが、見渡す顔の中に一名だけ違う顔があった。
こちらを興味深げに見る顔。先ほど俺達に座るべき場所を教えてくれたハーピィさん、トナー監督だ。
ハーピィは女性だけの生物で他種族の男性と交配して子孫を残す。故に常に混血でそれはトナー監督も例外ではない。確か彼女の父親は……エルフだ。
「(道理で美人な訳だ)」
俺は右隣に座ったナリンさん越しにトナー監督の顔を見た。現役時代もサッカードウの選手としてよりアイドル活動の方で名を馳せたらしい彼女の顔には、エルフの特徴が強く出ている。ナリンさん、トナー監督と並んでいると親戚のようだ。
「(た・い・く・つ・だ・ね)」
俺の視線に気づいたトナー監督がそう囁いてきた。かなりはっきりと耳に届いたので驚いて辺りを見渡したが、他の誰も気づいた様子はない。
「(だ・い・じ・ょ・う・ぶ・き・み・に・し・か・き・こ・え・な・い・か・ら)」
どういう技術か知らないが、彼女はそう説明してにっこりと微笑んだ。ハーピィは伝説によっては魔力の籠もった歌声で船乗りを惑わしたりするが、これもその技の一貫なんだろうか?
「(ちゃんと聞かなくて良いんですか?)」
トナー監督がどうであれ俺の方には魔法も技術もない。俺はリザードマンさんを指さしジェスチャーでそう彼女に伝える。
「(か・れ・お・ん・ち・な・ん・だ・も・ん・き・ぶ・ん・わ・る・く・な・っ・ち・ゃ・う)」
ぶは! 彼女の返事に俺は軽く吹き出してしまった。いやあの司会進行役さんは音痴なんじゃなくて、ただ一定のリズムと音程で事務的に説明しているだけだと思うよ?
「(じ・ょ・う・だ・ん・じ・ゃ・な・い・よ・ほ・ん・と・う・に・り・ず・む・く・る・う)」
トナー監督はそう言うと大袈裟に目を回してみせた。愉快で可愛い子だ。本当にこんな子が監督してるのか?
「それでは次に、ハーピィ族の羽根について。トナー監督?」
まだ何か言いそうだったが、ドラゴンさんに声をかけられてトナー監督は正面を向き立ち上がった。今のおふざけ、ストックトンさんに見られてないかな?
「(ショーちゃん、やっぱり口説いてたぁ!)」
見られてました。シャマーさんに。俺の左隣に座った彼女は口をとがらせながら俺の左太股を抓る。
「(いや、ちょっと話しかけられて……)」
普段の言動の割に嫉妬というものをしないシャマーさんが機嫌悪そうな顔になっている。どういう基準だ? エルフ以外の種族だから?
「(もう! ショーちゃんを笑わせて良いのは私だけなんだから!)」
そこ!? と驚きつつもやや上に動いてきたシャマーさんの手を太股から退かせ、会議の流れに集中する。
中央の球体には昨シーズン2部リーグの映像が流されており、ハンドリングの反則についての説明がされていた。それによるとハーピィさんの羽根は全体が「手と腕」という扱いになり、ブラブラさせると反則をとられまくるので基本的には長袖ユニフォームの中に収納する、との事。
例外としてGKは最初からペナルティエリア内では手を使えるので収めずに広げる……てめっちゃカバー面積が広いな! 流石に強いシュートを羽根の端の方で止められるとは思わないが、かなり有利だぞ?
「注意点はエリア外です」
司会のリザードマンさんがそう言うと画面が変わった。そうだ、ペナルティエリアの外ではGKでもハンドを取られる。そうなると今度は広げている羽根が不利になる。
「決定機の阻止は一発レッドです。この場合の決定機というのは……」
何パターンかの得点シーンやチャンスシーンの映像が流れ、これは決定機なのでレッドの対象、こちらは方向が違うので……と説明が行われる。この内容をどの程度、監督や選手が実際に覚えているかと言うとかなり怪しいが、シーズン前に説明しておかないと
「前に言ったでしょ? 急に基準が変わった訳ではないから」
と言えないので肝心だ。
「お疲れさまでした。ここで休憩を挟みましょう」
その後、何件かの要綱が確認され、ストックトンさんの声がかかった。部屋が明るくなり、それぞれの種族の監督が思い思いの方法で身体を伸ばしたり何もしなかったりする。
「ねえねえ、君ってさ……」
休憩の合図を待ちかねたかのようにトナー監督が話しかけにきたが、その前にズズイとシャマーさんとナリンさんが立ちはだかった。
……ん? ナリンさんも?
「なになに、君たち?」
「そちらこそなにぃ?」
「話でしたら自分たちが聞きますが?」
「えー? じゃあいいや……」
トナー監督はそう言って諦める……ふりをして右にフェイントをしかけ、さっと左に身を翻して突破を試みようとした。
最初の右への動きにナリンさんが完全に釣られる。しかし逆方向の進路にはさっとシャマーさんが立ち塞がり進入を止める。見事なチャレンジ&カバーだ。
顔面だけ切り取るとエルフの内輪揉めに見えるかもしれない。だがそこには確かに種族間の熱い闘争があった。たぶん。
「ショーキチ君じゃったかな。ちょっと良いか?」
どうしたものか? と悩む俺の腰にそんな声がかかった。





